渡辺秀子さん2児拉致事件とグリコ・森永事件に関する“噂”を考察

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本記事は実在の事件を扱っているが、以下の内容には筆者の推測が含まれている。事実を断定するものではない。

要約
本記事は、1973年の『渡辺秀子さん2児拉致事件』と、十一年後の『グリコ・森永事件』を、冷戦期の陰に流れる地下水脈として捉え直し、両者のあいだに囁かれてきた“符号”を静かに辿る試みである。北朝鮮工作網や『ふくろう部隊』が後者に関与した証拠はどこにもない。それでも、左翼過激派、在日ネットワーク、土台人、工作員、暴力団――複数の勢力が交差し、侵入し、溶け合い、時に姿を変えた1970年代から80年代の日本社会を思えば、噂が生まれた背景には、単なる憶測では割り切れない“構造の気配”が漂う。本記事は、断定を避けながら、独自調査を加えその気配の輪郭を描き出そうとするものである。

これまで筆者は、複数回にわたり『グリコ・森永事件』の考察を行ってきた。そこで浮かび上がる『かい人21面相』の姿は、一般的な犯罪者像とは大きく異なる。彼らは、情報収集能力・対警察技術・無線通信・車両運転・潜伏術といった、通常の市民生活では獲得しがたい技能を備えていた。住民票情報を把握し、企業幹部の家族構成を正確に掴んでいた点も、行政情報への接近が可能な職務・人脈、あるいは諜報活動経験を示唆する。

また、指紋照合で該当者が存在しなかったことは重要である。これは、『かい人21面相』が 「警察に把握されていない層」に属していた可能性を示している。すなわち、前歴・前科や監視対象歴がなく、表社会では痕跡を残していない潜伏型の人材で構成されていたと推測できる。

これらを踏まえると、犯行グループは以下の三勢力の協働によって成立した可能性が高い。

  • 北朝鮮工作員:諜報・潜伏・情報収集
  • 左派過激派:対警察技術・潜伏生活の経験
  • 暴力団関係者:資金力・国内ネットワーク・車両・武器調達

1980年代の日本社会には、これら三勢力が政治的・経済的環境の中で部分的に接続し得る土壌が存在していた。筆者は、事件の中心には年配の男性(『昭和53年(1978年)テープの声の男性』)が存在し、朝鮮半島に関連する背景と、広範な国内ネットワークを持ち、複数勢力を統率できる人物であった可能性を考えている。

さらに、脅迫テープに女性と男児の声が含まれていた点も重要である。これは「通常の犯罪組織」では説明が難しく、過激派コミューン型の共同生活、血縁的結束の強い少数民族的コミュニティ、あるいは複数家族による共同生活といった、特殊な内部構造を持った集団生活の存在を想像させる。

こうした 複合的構造――これそが、『グリコ・森永事件』を日本犯罪史上もっとも解明困難な事件にした理由であり、多数の噂・都市伝説が生まれる背景となった。

本記事では、1984年の『グリコ・森永事件』より11年前に発生し、北朝鮮工作員などの関与が公式に認定されている『渡辺秀子さん2児拉致事件』(1973年)との噂や符号点を検討する。

発生年出来事
1973年(昭和48年)渡辺秀子さん2児拉致事件(北朝鮮工作員の関与が公式認定)
1978年(昭和53年)江崎グリコ脅迫事件。同社幹部宅に『昭和53年テープ』が送付される
1984年(甲子の年)グリコ・森永事件

渡辺秀子さん2児拉致事件とは

昭和48年(1973年)6月、東京都内に居住していた会社員・渡辺秀子さん(当時32歳)と、長女・高敬美(6歳)、長男・高剛(3歳)が突然行方不明となった。

渡辺さんは、東京都品川区所在の貿易会社 『ユニバース・トレイディング株式会社』 に勤務しており、夫の高大基(1927年9月5日生―生死不明) は同社の二代目社長を務めていた人物である。

当初は「一家失踪事件」として扱われていたが、後年、北朝鮮工作員・土台人ネットワーク・在日関連組織が複合的に関与した実態が明らかになり、本件は北朝鮮による拉致事件と公式に認定された。

日本国内で確認された拉致事件としては最初期に属し、日本に存在した工作網の実態を示す象徴的な事案といえる。

ユニバース・トレイディング社の登記目的欄には、以下などの一般的な貿易業務が記載されている。

  • 鉱石・鉄・非鉄金属の輸出入
  • 原皮・毛皮・皮革製品の取扱

しかしその実態は、北朝鮮工作員の潜伏・移動・資金調達のためのフロント企業であったとされる。同社を中心に、朝鮮総連幹部・土台人・工作員が東京から地方まで広範にネットワークを形成していた。

渡辺さん一家の失踪後――後年の捜査・関係者証言からは、当時の福井県小浜市周辺に土台人ネットワークが存在し、北朝鮮工作員と連携し「拉致」が行われていた痕跡が確認されている。また、ユニバース・トレイディング社は、在日米軍に関する情報収集、自衛隊員への工作活動、資金調達、工作員との連絡、拉致対象者の移動などを担うロジスティクス拠点として利用されていた可能性が明らかになっている。

本件が 北朝鮮による拉致と公式に認定されたのは2002年である。それは、事件発生から30年近くが経過していた。当時の捜査が困難を極めた背景には、以下の理由などが挙げられるだろう。

  • 工作員が、日本人協力者(偽装された「土台人」)と行動していたこと
  • 民間企業(フロント企業)が利用されたこと
  • 犯行が国家レベルの非合法組織によって遂行されたこと
  • 冷戦構造のなかの政治的情勢が関係していたこと

また、2007年(平成19年)4月12日、警察庁は長女・高敬美さんと長男・高剛さんについて北朝鮮による拉致であると断定し、拉致の主犯格とされた北朝鮮工作員・洪寿恵(ホン・スヘ)=木下陽子(ユニバース・トレイディング社の役員) に対して、逮捕状を取得し国際手配を行った。

しかし、一方で、渡辺秀子さん本人については、現在に至るまで拉致と断定されておらず、その生死に関しても不明なままである。

さらに、この企業と連動して暗躍していたのが、北朝鮮の非合法活動組織、通称『ふくろう部隊』である。以下の章では、本事件に深く関与したとされる 『ふくろう部隊』 の実態と、同社および工作網との連動関係について整理する。

『ふくろう部隊』とは

『ふくろう部隊』(通称)は、北朝鮮が日本国内外で展開した非合法活動の中核を担った特殊工作組織である。 その成立過程・任務・構造は以下のように整理できる。

◆起源と組織背景

1968年前後、北朝鮮労働党の指示により、在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)第一(副)議長の金炳植(1919–1999)が組織化したとされる。

また、朝鮮労働党・統一戦線部の別動隊として位置づけられ、対外工作・監視・情報収集を担当するが、金炳植の「私兵的組織」としての性質も指摘されている。

◆任務と行動領域

『ふくろう部隊』の任務は多岐にわたる。以下は主な任務とされる活動である。

  • 在日北朝鮮労働党幹部の護衛・監視
  • 主体思想の宣伝
  • 在日韓国人コミュニティへの工作
  • 日本国内の潜伏拠点整備
  • 拉致対象者の選定
  • 日本人を含む 約30名の拉致事件への関与(外務省・警察庁資料)
  • 工作員の輸送・逃走ルートの確保
  • 隊員は空手などの武道を修得し、一般社会に紛れて活動

高大基との関係:「失脚」と「口封じ」の構造

『ふくろう部隊』における特異な存在は、ユニバース・トレイディング社の二代目社長・高大基の存在である。

高大基は金炳植の指示下で、『ふくろう部隊』の訓練隊長を務め、日本国内の工作網に深く関与していた。しかし、北朝鮮本国の党内政治闘争や工作機関内部の権力構造の変化により、後に 北朝鮮本国へ帰国させられた(事実上の失脚)。

この失脚後、ユニバース・トレイディング社の実態や日本国内工作網の詳細を渡辺秀子さんが把握していることを北朝鮮側が危険視し、口封じのために妻子が拉致されたとする説が複数の資料に見られる。 これは工作組織内の粛清・秘密保持が組織重要人物の家族にまで及ぶという異常な構造を持っていた点で、日本の拉致事件の中でも際立った特徴を示している。

◆2007年(平成19年)の警察庁判断

2007年(平成19年)、警察庁は、児童2名について、「北朝鮮による拉致」と断定し、主犯格とされた工作員・洪寿恵(ホン・スヘ)=木下陽子(ユニバース・トレイディング社の役員)に対し、逮捕状を取得し、国際手配(2007年4月12日)を行った。ただし、渡辺秀子さん自身については、現在まで拉致と断定されていない。

この事件に関係すると思料される『ふくろう部隊』の特徴は、敵対組織・敵対者・敵国に対する諜報・防諜・工作活動を行うため、体系的な訓練を受けていた点にある。訓練内容には武道習得も含まれ、徹底した自己防衛能力と高度な機密性を備えていた。

彼らはフロント企業(ユニバース・トレイディング株式会社)を中核とし、在日コミュニティを利用した潜伏方式を取り、日本各地に生活基盤を持つ土台人ネットワークと連携していた。さらに、日本の制度、習慣や居住形態を熟知した行動からは、冷戦期の日本社会に深く浸透した工作網の実態が読み取れる。

これらの 組織性・訓練性・機密性 は、後年の『グリコ・森永事件』における『かい人21面相』の特性とも共通しており、両者を結びつける噂の「符号点」を検討する上で重要な視点となる。

次章では、『ユニバース・トレイディング株式会社』の商業登記情報を手がかりに、『グリコ・森永事件』にまつわる噂との構造的な符号点をさらに探っていく。

『ユニバース・トレイディング株式会社』

日本国内で暗躍し、渡辺秀子さん2児拉致事件の舞台となった 『ユニバース・トレイディング株式会社』は、昭和46年(1971年)6月、東京都品川区西五反田7-22-17で設立された。

設立時の資本金は1,000万円であったが、同年10月には4,000万円へ増資されている。この点からも、同社が相当の資金力を背景に設立された企業であったことが推察できる。

昭和50年(1975年)時点の同社の主たる事業目的は、以下の商品の輸出入および販売である。

  1. 鉱石・鉄・非鉄金属
  2. 各種機械、車両、船舶、航空機、工具類、計量器、医療用具
  3. 綿花・羊毛・生糸・化学繊維などの原料および加工品
  4. 食料、砂糖、油脂、飼料、農水産物、畜類、加工食品、酒類
  5. 肥料および脂料原料
  6. 化学製品、高圧ガス、火薬、医薬品、化粧品など
  7. 石炭・石油類およびその副製品
  8. 木材、セメント、建築資材
  9. ゴム、パルプ、紙、雑貨
  10. 貴石、真珠、貴金属製品、室内装飾品
  11. 原皮・毛皮および皮革製品

上記に加え、その他の事業目的として、以下の目的が掲げられている。

  1. 船舶代理業
  2. 不動産の取得・処分・賃貸・仲介

昭和51年(1976年)の役員構成は、代表取締役の日本人男性「S」(登記上住所:東京都大田区久が原)、前述の国際指名手配「木下陽子(本名:洪寿恵)」、日本人男性「O・Y」「S・Y」「I」、監査役として「I」姓の日本人女性など、計6名であった。その後、昭和52年(1977年)に役員変更(退任2名・辞任1名)があり、代表取締役「S」、木下陽子(洪寿恵)、日本人男性「O」が重任している。

それから約8年後の昭和59年(1984年)9月、同社は解散(商法第406条の3第1項に基づく解散)したが、この年は奇しくも『グリコ・森永事件』が発生した年にあたる。

なお、商業登記・不動産登記は通名での登録が可能であり、同登記から同社の役員の本名含む実質的な支配関係を把握することは難しい。

二つの組織と二つの事件の共通点

ここで注目すべきは、『ユニバース・トレイディング株式会社』の事業目的および活動実態と、『グリコ・森永事件』の犯行グループ『かい人21面相』とのあいだに、多くの「構造的符号点」が見いだされる点である。

具体的には、以下の要素が挙げられる。

  • かい人21面相が、警察無線の傍受、武道、尾行確認など、専門的訓練を受けていたと推認されること。(『ふくろう部隊』・北朝鮮工作員の訓練体系と類似)
  • 江崎勝久社長拉致事件で、犯人側が社長に与えた外套が、戦前の「江崎グリコ青年学校」で使用された外套であり、戦後に石川県金沢市の職人が仕立て直したとされること。(金沢は、多数の北朝鮮拉致事件が発生した福井県に隣接しており、地理的符号点となる)
  • 脅迫テープ内に、皮革製品の製造工程で使用される機械音が混入していたとされること。(ユニバース・トレイディング社の事業目的には原皮・毛皮・皮革製品の扱いが含まれる)
  • 要求された “金塊100kg” という非現実的要求。(金塊は北朝鮮が外貨取得に利用してきた資産であり、工作網との接点が噂される要因となる)
  • 毒物混入という特殊な犯行手口。(同社の事業目的には、化学製品・高圧ガス・火薬・医薬品・医薬部外品などが含まれ、化学的知識と輸入ルートを持つ可能性がある)・銃器(散弾銃といわれる)を所持していた可能性が高いこと。(火薬・化学製品の扱いとの符号点)
  • 銃器(散弾銃といわれる)を所持していた可能性が高いこと。(火薬・化学製品の扱いとの符号点)
  • 脅迫テープに、男児の声と10代半ばの少女(または成人女性)の声が混ざっていたこと。(渡辺秀子さん2児拉致事件で失踪した姉弟の当時年齢と、1984年時点での年齢が「男児=14歳前後」「女児=17歳前後」と近接しており、噂の大きな源泉となっている)

これらの要素は、『グリコ・森永事件』と『ユニバース・トレイディング株式会社』が掲げていた事業内容、さらに北朝鮮工作網の訓練・行動様式とのあいだに、複数の符号点が存在すると“噂”される理由となっている。

すなわち、二つの組織(『ふくろう部隊』/『かい人21面相』)と二つの事件(2児拉致/グリコ・森永事件)のあいだには、「冷戦期特有の時代背景と組織的特徴及び使用可能が攻撃用武器などの背景が共通している」という構造を浮かび上がり――やがて――それは正体不明の”噂”となり――解明されなかった時代の”闇”として語られるようになる。

まとめ:二つの事件と”噂”が示す「構造的連続性」について

本記事で扱った内容は、いずれも実在の事件・資料に基づくが、最終的な推論部分には筆者の見解を含み、断定を避けるものである。

しかし、『渡辺秀子さん2児拉致事件』に関与したとされる『ユニバース・トレイディング株式会社』と、『グリコ・森永事件』の犯行グループ『かい人21面相』とのあいだには、複数の「噂の符号点」が存在することが調査により明らかになった。 また、これらを理解するためには、まず1970年代後半から江崎グリコが、複数の脅迫グループに連続して狙われていた事実に注目する必要があるだろう。

以下は、これまでの筆者記事からの要約と本記事の結論である。

左翼過激派を名乗る脅迫:『黄巾賊』『カルロス軍団』『昭和53年テープ』

昭和51年(1976年)、大阪府豊中市にある江崎グリコ関連会社F氏宅には、『黄巾賊』を名乗る男から脅迫状と脅迫電話が相次いだ。差出人は自らを「現代の革命家」と称し、社会への憂慮を語りつつ1億円を要求し、拒否すれば「江崎副社長の誘拐」や「菓子への青酸混入」を行うと告げた。その後、『カルロス軍団』を名乗る別の脅迫状も届き、1978年には、いわゆる『昭和53年テープ』がF氏宅へ送付される。

※グリコ・森永事件の過去記事

『昭和53年テープ』には、初老の男性が登場し、「京都の過激派学生が“セーリング作戦”として、グリコ幹部の誘拐・放火・菓子への青酸混入を計画している」と語っていた。驚くべきことに、この内容は1984年のグリコ・森永事件における初期行動──3人組による江崎社長誘拐、工場放火、青酸脅迫──と高度に類似しており、“予兆”ともいえる構造的共通点を持っている。

この3つの脅迫事件の脅迫者――『黄巾賊』『カルロス軍団』『昭和53年テープの男』が、のちの『かい人21面相』へ直接つながるかどうかは定かではない。しかし、1970年代半ばの時点で、江崎グリコがすでに左翼過激派系の思想や不満の標的となり、脅迫の対象として認識されていたことは確かである。そして、この「前史」は、後年の事件を理解するうえで重要な意味を持ち続けている。

「左翼過激派系の層」に、別の勢力(『ふくろう部隊』の残存要員・北朝鮮工作員)が侵入していった可能性

ここから先は、あくまで噂や推測に基づくものであり、事実を断定するものではない。1970年代後半の日本では、「左翼過激派」「在日コミュニティの土台人ネットワーク」「ふくろう部隊の残存勢力を含む北朝鮮工作員」「暴力団」といった複数の勢力が複雑に交差し、時に協力し、時に主導権を争いながら地下で活動していたとされる。

『渡辺秀子さん2児拉致事件』に関与したとされるユニバース・トレイディング社は、「化学薬品」「皮革製品」「火薬類」「金属・鉱石」「石油・原油」「船舶・航空機」など、工作活動と親和性の高い品目を扱い、フロント企業として工作員の移動・潜伏・資金調達を支える役割を担ったと指摘されている。

こうした反社会的ネットワークが蠢く時代環境のなか、江崎グリコを脅迫していた左翼過激派的グループの内部に、北朝鮮系の工作グループが徐々に侵入し、思想的動機を掲げていた初期段階から、より実利的で軍事性の高い攻撃性と諜報・工作型の犯行様式へと主導権が移行していった――という噂が根強く残っている。

1976~78年の段階では「自らを革命家と称する左翼的脅迫」が中心だったにもかかわらず、1984年の『グリコ・森永事件』では、武術・尾行確認・無線傍受・潜伏能力を備えた『かい人21面相』のスタイルへ劇的な変貌を遂げている。

もし左翼過激派の内部に北朝鮮工作員が入り込み、組織の性質が「思想団体」から「資金調達を主目的とする工作組織」へと変質していったのだとすれば、犯行対象がグリコ単独から森永・丸大食品へ拡大した点や、金塊要求・毒物混入といった軍事的・非合法組織的手法の強まりも、構造的に説明できる可能性がある。

事件が「江崎グリコ」から他社へ“飛び火”した理由

もし、『かい人21面相』内で、左翼過激派から北朝鮮系工作グループへ主導権が移行していたのだとすれば、いくつかの不可解な現象は構造的に説明可能となる。

すなわち、当初のイデオロギー的動機(革命思想)を背景とした脅迫は、やがて外貨・金の調達を優先する企業恐喝目的へと動機を変質させ、犯行対象が江崎グリコだけでなく森永、丸大食品などへ拡大したこと、さらに犯行が怨恨的な筋道から離れ、次第に“行動そのものが目的化”していったように見える点である。

この変質は、犯行グループの性質そのものが「思想団体」から「資金調達を目的とする国家工作網」へと移行したと考えれば、一つの合理的な推論として輪郭を持ちはじめる。

もちろん、これらはあくまでも“噂”の域を出るものではない。しかし、脅迫テープに記録された男女二名の声、皮革製品の製造工程で使用される機械音、金塊100kgという特異な要求、武術・無線傍受・潜伏を可能にする訓練体系、犯人の地理的行動範囲の巧妙さ――こうした諸要素が北朝鮮工作網(『ふくろう部隊』を含む)に特徴的な行動様式や訓練内容と近似している点は、長年にわたり噂を支えてきた「構造的な足場」にほかならない。

2つの事件の本当の姿はいまも霧のなかにある。だが、表の歴史に記されなかった地下の力学にそっと光を当てるとき、複数の事件は静かに、そして薄く、ひとつの線で結ばれていく。

この線の結合は決して断定はできない――けれど、不可解な断片が寄り添うように重なり合うその様相は、現代史の深い闇がほんの少しだけ輪郭を現す瞬間でもあるのかもしれない。

結語:事実と“噂”の境界線

本記事は、『渡辺秀子さん2児拉致事件』と『グリコ・森永事件』が、冷戦期の地下水脈でどのような「構造的連続性」を帯びていたのかという視点から、“噂”の源泉となった符号点を独自調査と考察により整理したものである。

繰り返し強調しておきたいが、北朝鮮工作員・『ふくろう部隊』・ユニバース・トレイディング社と、『グリコ・森永事件』が直接結びつく証拠は一切存在しない。

しかし、日本国内で複数の勢力が交差し、“侵入し、結合し、変質していく”という閉鎖的組織の特性と冷戦期特有の時代環境を踏まえると、これらの噂が生まれた背景には、無視できないほどの「構造的説明力」があることも確かである。

本記事が提示したのは、断定ではなく、あくまで構造的推論である。実在の事件と噂を慎重に切り分けながら、その“交差点”にある時代の影を見ようとする試みである。

二つの事件、二つの組織――交わるはずのない線が、時代の闇の中でふと重なって見える瞬間がある。それは真実ではないのかもしれない。しかし、まったくの虚構とも言い切れない。

事実と噂のあいだには、いつも“薄い膜”のような境界が揺れている。そして、その膜が“月のない夜”に風を受けて震えるとき――私たちは気づくのだ――事件の陰に潜んでいるのは、特定の犯人ではなく、いつも“時代そのもの”であることに――。


◆参考資料
警察庁「姉弟拉致容疑事案」
外務省「姉弟拉致容疑事案に関する北朝鮮側への申し入れ等について」
現代ビジネス『私が出会った北朝鮮工作員たち第6回』2017年11月12日配信
ユニバース・トレイディング株式会社(閉鎖商業登記資料)


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◆都市伝説・噂と事件


Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste Roquentinは、Albert Camusの『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartreの『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場する主人公の名を組み合わせたペンネームです。メディア業界での豊富な経験を基盤に、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルチャーなど多岐にわたる分野を横断的に分析しています。特に、未解決事件や各種事件の考察・分析に注力し、国内外の時事問題や社会動向を独立した視点から批判的かつ客観的に考察しています。情報の精査と検証を重視し、多様な人脈と経験を活かして幅広い情報源をもとに独自の調査・分析を行っています。また、小さな法人を経営しながら、社会的な問題解決を目的とするNPO法人の活動にも関与し、調査・研究・情報発信を通じて公共的な課題に取り組んでいます。本メディア『Clairvoyant Report』では、経験・専門性・権威性・信頼性(E-E-A-T)を重視し、確かな情報と独自の視点で社会の本質を深く掘り下げることを目的としています。

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