柴又三丁目女子大生殺人放火事件:犯人考察と分析

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上智大学生のA氏(21歳)が殺害され、自宅が放火により全焼した未解決の殺人放火事件は、1996年9月9日(月曜日)の昼間、東京都葛飾区柴又の閑静な住宅街で発生した。

この事件は、「柴又三丁目女子大生殺人放火事件」として、亀有署に特別捜査本部が設置された。現場からはA型の血液と男性のDNAが検出されており、捜査は四半世紀を超える今もなお続けられているが、解決には至っていない。

本記事では、1996年9月9日に東京都葛飾区柴又で発生した女子大生殺害事件における犯人の潜在的な動機と犯人像について、利用可能な情報を基に推測を交えて考察する。

考察結果の概要

1996年9月9日、連続強盗および性犯罪者である犯人は、侵入先を物色するため、東京都葛飾区柴又3丁目内の住宅街をうろついていた。午後3時頃、被害者A氏の母親がドアの鍵を閉めずに外出する姿を偶然目撃する。この機会に、犯人はA氏宅の表札や二階の窓を確認しながら、A氏が在宅していることを把握した。

犯人とA氏の間に事前の接点は存在せず、A氏宅およびA氏を狙った特別な理由もないが、犯人は常習的な性犯罪者であり、A氏宅に若い女性が住んでいることを事前に把握していたと考えられる。犯罪プロファイリング的に犯人が事前に用意したと思料される、刃物と粘着テープは、常習的な性犯罪者が使う「道具」である。

事件前、A氏宅の世帯全員分の住民票が所得されたの報道がないこと、A氏宅の表札にA氏父親のフルネームが表記されていたが、他の家族の名前の表記がないことから考えると、犯人は事前にA氏宅を営業等で訪問した可能性や自宅に入るA氏を偶然に目撃したことがあったと思われる。

犯人は玄関から侵入し、雨で濡れた足跡を隠すために、玄関近くに置かれていたA氏父親のスリッパを履いた。その後、犯人は静かに足音を消しながら2階にあるA氏の自室に向かい、A氏に襲い掛かった。

犯人Xは身長が150cmから160cmほどで中肉以下の体型をしている。やや小柄な彼は被害者A氏から抵抗を受けた。二人の間で揉み合いが発生し、具体的な場所は不明であるが、自室または両親の部屋でA氏は刃物により命を奪われた。

性犯罪者である犯人はA氏のタンスなどを物色した。その後、見つけたストッキングで足を縛り、口には粘着テープを貼り、自身の指紋などの証拠を消す措置を講じるため、1階にあった電化製品のパソコンと1階押入に火をつけ、証拠隠滅を図る。この際、犯人はA氏宅にあったマッチを使用した。犯人のDNA型と血液は発見されているが、指紋が発見されたとの報道はない。

犯人が持ち込んだとされる粘着テープを犯人が日常的に使用していたと仮定した場合、そのテープに付着していた複数の犬の毛は犯人に関連するものと考えられる。これは、犬を多頭飼いしていることを示唆している。

このことから、犯人は所有物件であるマンションや戸建て住宅に居住している可能性が高く、車を所有し犬を乗せることがあると考えられる。粘着テープに付着していた複数の犬の毛は、粘着テープが常時車内に置かれていたことにより付着したものであろう。これはあくまで推測である。

ただし、証拠を消すために放火まで行うことを考慮すると、犯人には前科や前歴があると見られる。このため、彼が安定した就労状態にあるとは考えにくく、住宅ローンの審査に通過する可能性も低い。

これらの犯人の経済状況や住宅の所有状況については断定できる証拠はないが、前科や前歴がある可能性から、犯人が安定した経済基盤を持っていないことが考えられる。

本事件が金銭狙いでないことから金策に困る自営業者ではない。

犯人に前科、前歴があるならば、犯人が会社員の場合は、親族の会社または知人の会社に勤務だと考えられる。

犯人は事件現場に土地鑑があると思われる。犯人の職業は不明だが、勤務先商圏を10キロ内と想定すると東京都東部地域(下町地域)、埼玉県、千葉県に勤務先、自宅が在ると考えられる。

犯罪心理学の「ルートライン法(Routeline Method)(同手法は、犯人が犯罪を行う際の行動ルートを重視し、その移動経路から居住地を推定する方法。犯人が使用した可能性のある主要な交通路や、頻繁に訪れる場所との関連から居住地を推測する)」を参考にするならば、犯人は柴又街道、国道6号線を利用した可能性があり、柴又街道を使い国道14号線に入るなら千葉県市川市方面、国道6号線に入るなら千葉県松戸市または埼玉県三郷市方面に自宅または勤務先があると判断される。

犯人が親族所有の家に居住している場合、その家は実家である可能性が高く以前から同所に住んでいたと思われ、犯人は国道6号線や国道14号線を移動しながら、性犯罪を繰り返していたと思われる。

本考察は、利用可能な情報に基づくものであり、犯人の正確なプロファイルを確定するものではない。本考察は今後の警察の捜査により変わる可能性がある。あくまでも一つの仮説として慎重に扱う必要がある。

第一章:事件概要

事件の発覚は近隣の住民が火災を目撃し、119番通報したことによる。A氏は自宅2階の両親の寝室で、首や顔に複数の刺し傷を負い、失血死をしていた。

死因は失血死と判明し、遺体には粘着テープで口と手が封じられ、足はストッキングで縛られていた。凶器は小型の刃物であると推定されている。

特徴刃渡り8センチメートル以上
刃幅約3センチメートル
先の尖った片刃
種類果物ナイフ
ペティナイフ
警視庁公表の刃物(凶器)の特徴と推定される刃物の種類

A氏は事件発生当日、母が外出した後に一人で自宅におり、火災発生約50分後に事件に巻き込まれたと見られている。父・母・姉と一緒に住んでいたA氏は、2日後にアメリカのシアトルへ留学する予定だった。

事件の詳細•        日時: 1996年9月9日、午後
•        場所: 東京都葛飾区柴又3丁目
•        被害者:A氏(上智大学外国語学部英語学科在籍)
•        事件の状況
•        A氏は、自宅の2階で複数の刺し傷を負い、失血死していた。
•        遺体は首や顔に数箇所の刺し傷があり、死因は失血死と確認された。
•        遺体は両親の寝室で見つかり、粘着テープで口と手が封じられ、足はストッキングで縛られていた。
•        自宅は放火され全焼している。
捜査状況•        捜査本部: 柴又三丁目女子大生殺人放火事件特別捜査本部が亀有署に設置された。
•        遺留証拠
•        現場からは犯人のものとみられるA型の血液と男性のDNAが検出されている。
•        犯人はA氏を殺害後に粘着テープやストッキングで縛り、放火して逃走したと見られる。
•        目撃情報
•        事件前に現場付近でコートを着た不審な男が目撃されている。
•        捜査の進展
•        DNA技術の進歩を利用して新たな鑑定が行われ、犯人特定に向けた捜査が進められている。
その他情報•        A氏は事件発生2日後にアメリカのシアトル大学に留学する予定だった。
A氏の父親は、その後、殺人罪の公訴時効撤廃を求める活動を行い、2010年には法改正が実現している。
柴又三丁目女子大生殺人放火事件の事件概要表

捜査本部は、現場の遺留品から得られた男性のDNA型から、犯人の特定に向けて捜査を進めている。また、事件現場近くで目撃された不審な男の情報も集められているが、これまでのところ犯人像は明らかになっていない。

時   間1996年9月9日の出来事
15時50分頃A氏の母が美容室へ外出し、A氏は自宅に一人になる。
事件現場南側の交差点に黒色傘をさして立つ男(身長150cm~160㎝位、体型はやせ型、服装:黄土色っぽい(えり付き、フードなし)コート、コートは男の身長、体格に合わないサイズの大きなもの黒っぽい色のスウェットのようなズボン着用)が目撃される。
15時55分頃目撃情報によると、不審な男がA氏宅の玄関前でうろついていたとされる。
男は(身長160cm位、体型は中肉またはやせ型、服装:黄土色っぽいコート又はレインコート(フードなし、襟があるもの)、黒っぽいズボン姿)、傘をささずに事件現場の玄関前で立ち、表札又は2階部分周辺をじっと見つめていた。
16時35分-40分頃火災の119番通報がなされる。隣家の住民がA氏宅から出火していることを目撃し、通報した。
18時00分頃A氏の自宅が全焼する。A氏は2階の両親の寝室から運び出される。首や顔には数箇所の刺し傷があり、失血死していた。
被害者の着衣に乱れは見られなかったが、口と両手は粘着テープで巻かれており、両足はストッキングで縛られていた状態で発見された。
手には犯人から身を守ろうとした際にできたと考えられる防御創が認められた。
2009年「殺人事件被害者遺族の会(宙の会)」結成。同会は、時効撤廃の他に、国が一時的に賠償金を立て替え、後から加害者に請求する代執行制度の導入を法務省に要望している。また、2022年3月には、事件現場で発見された犯人のDNAを使用して、犯人の似顔絵や年齢を推定する法整備の実施を国家公安委員会に求めている。
2010年公訴時効廃止
2014年最新のDNA鑑定技術により、A氏の布団についた血液から男性のDNA型が検出される。
2022年延べ11万人以上の捜査員を動員するが未解決。
2024年4月現在捜査は続いているが、事件は未解決の状態である。
柴又三丁目女子大生殺人放火事件の経緯

事件はA氏が留学前に受けた送別会での楽しい時を過ごしたばかりだった。遺品の中には学生時代の写真や手紙が含まれており、家族や友人との思い出が詰まっていた。

A氏の父親と母親は娘の死後、公訴時効の撤廃を求める活動を進め、その結果、殺人罪の公訴時効が撤廃される法改正が実現した。 この悲劇的な事件により、A氏の家族は犯人特定と事件解決を願い続けており、遺族が直面する法的課題の改善も訴えている。

現場には後に防災用設備が設けられ、A氏を偲ぶ地蔵も設置された。A氏の父親は情報提供を呼びかけるとともに、私費で懸賞金を設け、捜査の進展を望んでいる。

第二章:情報の整理

本事件の犯人の動機、犯人像を考察するため、本事件の遺留品、目撃情報、事件現場状況等に関する公開情報を整理する。

1・本事件の遺留品

本事件の犯人が犯行に使用した「物」には、自身が用意した「物」と被害者A氏宅に在った「物」がある。

犯人所持の「物」被害者A氏宅に在った「物」
刃物
ガム(布粘着)テープ
被害者A氏の足を縛ったストッキング
放火に使用したマッチ
柴又三丁目女子大生殺人放火事件:第二章-1 遺留品

使用されたガムテープは布粘着タイプで、静岡県の工場で1994年1月以降に製造された一巻の幅は50ミリメートル、長さは25メートルの製品である。価格範囲は700円から800円で、通常の製品に比べて高価であり、主に梱包用途で使用されている。このテープは全国的に流通しており、梱包業者などの法人顧客に直接納入されることが多いが、ホームセンターや文具店でも販売されている。

また、テープの粘着面には植物片や木片、犬の毛などが付着しているが、このテープを犯人が日常的に使用していたと断定することはできない。犯人がどこかから盗んで本事件で使用した可能性もある。ただし、犯人が日常的に同テープを使用していたと仮定するならば、犯人が複数の犬を飼っている可能性があることから、家族や同居者がいる生活をしていると考えられる。凶器の刃物について、警察は犯人が持ち込んだ「物」と発表してはいないが、被害者A氏の宅の「物」だとの発表もないため、犯人の所持品である可能性が高いと考える。

何れにせよ、犯人は刃物と粘着テープを事前に用意し、被害者A氏宅に侵入した。

犯人が持ち込んだと思われる「物」から犯人の動機を考察するため、過去の類似事件について調査を実施した結果、「刃物」、「粘着テープ」を所持し、被害者の家に侵入(訪問を含む)する事件は、強盗と性犯罪犯罪及びこの二つの動機の混合型が散見される。

犯人が犯行に使用するために事前に用意し、持ち込んだと考えられる「刃物」と「粘着テープ」は、犯人の動機と犯人像を考察するための重要なポイントとなる。これらは流しの秩序型の性犯罪者に見られる「道具」である。

以下の表は、1980年代と1990年以降に被害者宅に侵入し、犯行に刃物または粘着テープを使用した主な性犯罪事件の一覧である。

年月/場所所持道具動機
1983年~1992年12月(福岡県)ナイフ、ガムテープ、ヒモ連続強盗と性犯罪
1996年~1997年(東京都)ナイフ、ガムテープ連続強盗と性犯罪
2004年3月(長野県)ナイフ、ガムテープ強盗と性犯罪
2003年~2005年9月(福岡県)ガムテープ連続強盗と性犯罪
2005年~2006年11月(茨城県)ナイフ、ガムテープ連続強盗と性犯罪
2008年4月以降(静岡県)ガムテープ性犯罪
柴又三丁目女子大生殺人放火事件:第二章-1 1990年以降の主な事件例

以下は、1980年代後半から1990年代に東京下町地域で発生した強盗及び性犯罪事件の一覧である。

1987年8月19日午前3時頃、東京都葛飾区立石二丁目のアパートで、会社員B子氏(24歳)が自室で眠っているときに、施錠されていない窓から男が侵入した。男はB子氏の口を塞ぎ、「騒ぐと殺すぞ」と脅迫し、性的暴行を働いた後、室内にあった約5万1850円入りの手提げバッグを奪って窓から逃走した。B子氏の悲鳴を聞いた近隣住民が110番通報したため、警察が駆けつけ、近くの路上で犯人を発見し、強盗と婦女暴行の疑いで緊急逮捕した。逮捕されたのは、葛飾区東四ツ木三の一丁目に住む店員、S(30歳)である。鈴木は警察の取り調べに対し、「盗みを目的に部屋に入った」と供述している。(参考:読売新聞1987年8月19日付)
1987年10月21日の午後10時頃、東京都葛飾区立石二丁目にあるマンションの三階に住む会社員C子氏(20歳)の部屋に、鍵のかかっていない窓から若い男が侵入した。部屋内にあった包丁を手にした男は、テレビを見ていたC子氏を脅迫し、「騒ぐと殺すぞ」と言い放ち、性的暴行を働いた。その後、男は小物入れにあった現金約一万円を奪って、玄関から逃走した。侵入者の男は、年齢が20歳から30歳で、身長は約170センチメートルであった。(参考:読売新聞1987年10月22日付)
1991年3月から東京の下町地域において、マンションに住む女性を狙った婦女暴行事件が続発しており、19件の被害が報告された。綾瀬、亀有、本田の警察署は、これらの事件が同一人物による連続犯行だと見て捜査を進めている。犯人は20代から30代の男で、身長は約170センチメートル。被害地域はJR綾瀬駅から半径1キロ以内の住宅街に集中し、特に水曜日の平日に多く発生している。(参考:毎日新聞1992年9月26日付)
2000年7月6日、明治大学の4年生の女性K氏(22歳)が東京都足立区の自宅で絞殺された。事件は12時ごろに発生したとみられ、現場からはK氏の認め印が発見された。この認め印は争いの際に落ちた可能性がある。また、屋内には物色の跡がなく、財布の有無も不明であるため、犯行目的が不透明である。犯人はカッターナイフと部屋にあったストッキングを使用しており、殺人目的と断定しにくい状況だった。
その後、被害者宅近隣に住む自営業者が逮捕される。動機は金銭目的だったと自供している。(参考:中日新聞2000年7月12日付など)
柴又三丁目女子大生殺人放火事件:第二章-1 1980年代後半から1990年代下町地域の主な事件例

上記の調査結果から、不特定の女性に対する強盗、強盗未遂、性犯罪、性犯罪未遂事件は同時に行われることがあり、犯行時に脅迫のための刃物、拘束のための粘着テープ等が使われることがある。

この仮説から、本事件の遺留品から推察できる犯人の想定される動機と想定外の動機は、以下になる。

想定できる動機想定外の動機
強盗と性犯罪の可能性があるが、
多額の金銭が持ち去られた形跡がないため、本事件の動機は性的犯罪
4人(家族)全員の殺害を目的としていない。
放火の事前準備はない
柴又三丁目女子大生殺人放火事件:第二章-1 犯人の動機考察

2・目撃情報

警視庁公表資料にある重要目撃情報によれば、事件当日の15時50分及び15時55分に同一人物の可能性が高い人物が目撃されている。

15時50分頃男は(身長150cm~160㎝位、体型はやせ型、服装:黄土色っぽい(えり付き、フードなし)コート、コートは男の身長、体格に合わないサイズの大きなもの黒っぽい色のスウェットのようなズボン着用)
15時55分頃男は(身長160cm位、体型は中肉またはやせ型、服装:黄土色っぽいコート又はレインコート(フードなし、襟があるもの)、黒っぽいズボン姿)、傘をささずに事件現場の玄関前で立ち、表札又は2階部分周辺をじっと見つめていた。
柴又三丁目女子大生殺人放火事件:第二章-2 目撃情報

同一人物と思われる不審な男は、A氏の母が鍵を掛けずに外出するのを目撃したため、宅内に人がいると考えたのだろう。そして、事前に把握していたA氏宅の家族状況から、在宅者は若い女性(A氏または姉)であると判断した可能性が高い。

その後、この不審な男はA氏宅の玄関前でうろつき、玄関の様子や点灯状況(その日は雨天であったため室内が点灯していた可能性がある)から在宅者の有無を再確認した。もし宅内に人がいなければ、犯人は彼に価値ある物を盗む「窃盗犯」になっただろう。

この不審者は体型的に小柄な男性であると言えるだろう。小柄な彼は被害者から強力に反撃されたと思われる。

3・事件現場状況

事件現場は、JR金町駅の南約1,300メートル、京成電鉄金町線柴又駅の北西約250メートル、京成電鉄成田線京成高砂駅の北東約1,000メートルに位置する2階建ての一般住宅である。

同宅前の道路は一方通行であり、同宅が交差点に近い位置にあるため、付近で車を停めて長時間の監視には不向きな立地である。事件当時、同宅の裏側には建物が存在しなかったが、間口が狭い私有地であるため、その場所への出入りは困難であると考えられる。

A氏は、両親の6畳の部屋で布団をかけられた状態で倒れていた。遺体には乱れがなく、口と両手は粘着テープで巻かれ、両足はストッキングで縛られていた。手には防御創があった。

火災の煙を吸った形跡がなく、2階の床が焼け落ちていることから、A氏が殺害された後、犯人が1階に火を放ち逃走したと推測される。A氏は両親と姉の4人家族で、事件当日、父と姉は外出中であり、母親が出掛けた後、独りで自宅にいた約50分の間に事件に巻き込まれたと思われる。

事件当時、雨が降っていた。被害者A氏は宅内の照明と玄関先の電灯を点けていた可能性がある。A氏の遺体が発見された両親の部屋は道路側に面しており、犯人は宅内の点灯状況を確認し、家人の在宅を判断した可能性がある。

4・その他の情報

現場にはA氏が留学のために準備していたと見られる計14万円程度の日本円や米ドルなどが入ったリュックサックや預金通帳が残されていた。一方で、1階居間の戸棚の引き出しに保管されていた1986年まで発行された聖徳太子の肖像入り旧1万円札1枚が見つかっていない。

この紙幣はA氏の父が記念として保管していたものだといわれる。

上記から犯人の目的が金銭だった可能性は低いと推察できる。

A氏の両足を縛ったストッキングの結び方は、『からげ結び』と呼ばれる特殊な方法である。この結び方は造園業者が竹垣の竹を固定する際や和服の着付けにも使われる手法であるため、犯人がこれらの業種に従事している可能性が考えられる。

しかし、同業種の親族や知人から教わり、日常的に使っていた可能性や、偶然から『からげ結び』と見られる結び方になった可能性もあるため、この結び方だけから犯人の職業を特定することは困難である。

A氏の首が何度も刺されていた事実から、恨みを持つ人物による犯行の可能性が高いとされている。さらに、遺体に布団が掛けられており、通常は玄関にあるはずの家族のスリッパが2階で見つかったことから、顔見知りが家に上がり込んだ可能性も指摘されている。

しかし、スリッパが宅内にあったのは、犯人が足跡を残さないための意図があったとも考えられる。

不特定の女性を狙う常習的な性犯罪者である犯人は、被害者を刃物で脅し、自分の欲望を満たすことを目的としていた可能性がある。やや小柄な体型の犯人は被害者から抵抗された。

このような状況下で、犯人は被害者に対してさらに暴力を加え、最後は放火により犯行を隠蔽しようと試みた可能性が考えられる。

第三章:犯人考察

「柴又三丁目女子大生殺人放火事件」における犯人に関する推測は、被害者A氏のストーカー説、被害者A氏または家族に対する怨恨説、被害者家族と無関係の侵入盗説が散見される。

さらに、事件直前と思われる15時55分頃に不審者がA氏宅の表札または二階窓付近を確認していたとの情報から、犯人には表札を確認する必要があったとも考えられ、「人違い説」も浮かび上がる。

ストーカー説と怨恨説

恋愛感情に基づく「ストーカー」と何らかの理由による「怨恨」では、加害者と被害者の間に親密な関係性が存在することが多い。また、両者の間に親密な関係がない場合でも、ストーカーは被害者に執拗につきまといを行うため、事前にその存在が把握されることが一般的である。

過去の報道によれば、被害者A氏は事件前(1996年8月末頃)に何者かに尾行されていたとされるが、事件の前日及び当日に被害者A氏宅を長期間にわたり張込み、尾行するした人物の情報は存在しない。

仮に被害者A氏に常習的なストーカーがいた場合、その者は長期間にわたるつきまといを行うだろう。さらに、被害者A氏が事件当時一人で在宅していることを把握するためには、前日からの長時間の行動監視が必要である。

また、被害者A氏に対する怨恨が原因の場合でも、前日からの長時間にわたる行動監視が必要であることが推測される。

ただし、後述のとおり、被害者A氏の電話番号はNTT電話帳に記載されていた。犯人がA氏の在宅を確認するため、母親外出後の事件直前にA氏宅に無言電話などを入れ、在宅確認をしたことも考えられる。

この場合に想定される犯人使用の電話は、公衆電話であるが、事件当時のA氏宅付近の公衆電話設置状況に関する情報が得られなかったため犯人が使用した可能性のある公衆電話の設置場所を調べることはできなかった。

会社員である被害者A氏の父親が犯人の怨恨の対象であり、狙われたとしても、平日の昼間は不在であることが想定される。もし母親や姉に対する怨恨が原因であれば、外出後に他の場所で狙うことも可能である。

これらの観点から、ストーカー説や怨恨説の可能性は低いと考えられる。しかし、8月末の午前0時ごろ、A氏は最寄りの京成電鉄「柴又」駅の公衆電話から自宅に電話し、「誰かが後ろを付けてきて、道を曲がっても付いてきた。だから駅まで戻った」と訴えたという。

この8月末のA氏に対して行われた尾行が犯人によるものだとすれば、性犯罪者の犯人がA氏に加害する目的で尾行した可能性が考えられる。

人違い説

被害者A氏の家族の姓は全国で推定人口が100万人以上に上り、順位別の同姓の推定人口は10位以内に入るとされる。これはかなり多い姓である。

犯人に被害者A氏宅の表札を確認する必要があったと仮定するならば、A氏と同一地域に居住する同姓の人物またはその家族に対する恨みを抱く犯人Xによる人違いの可能性も考えられる。

この仮説を検証するために、1994年11月発行のNTT電話帳を用いて、A氏家族が居住する東京都葛飾区柴又のA氏と同一姓の人物の有無を調査した結果、同地区内においてA氏と同一姓の人物が10名以上存在し、「東京都葛飾区柴又3丁目」内には約5名の同姓世帯が存在することが判明した。

次に、A氏宅の表札にどのような表記がされていたのかを確認するため、事件前の住宅地図を調査した。住宅地図の表記は、調査員が現地表札を確認した内容に基づいて記されるため、地図に記載された文字は基本的にその住宅の表札に記されている文字と一致する。

同調査の結果、被害者A氏の住宅地図の表記には、父親のフルネームのみが記され、被害者を含む家族の名前はなかった。これにより、犯人が事件前に表札を確認していた場合、父親のフルネームのみを確認したと考えられ、人違いの可能性は低いと言える。

また、表札からは若い女性の家族の有無が分からないため、犯人が若い女性を狙う性犯罪者と仮定した場合、被害者A氏の存在を事前に別の方法で確認していたと推測される。

さらに、事件前に被害者家族の世帯全員分の住民票が第三者に取得されたとの報道がないことから、犯人は目視で被害者宅に若い女性がいることを把握したと考えられる。犯人は事前に被害者宅近辺を数回にわたり訪れていた可能性がある。

結論

これまでの分析と考察を踏まえ、本記事筆者は柴又三丁目女子大生殺人放火事件の犯人を常習的な性犯罪者と推察する。

具体的な犯人像については、以下の通りである。

犯人は犬を多頭飼いしている可能性が高く、そのため、賃貸住宅に居住している可能性は低い。さらに、指紋などの証拠を隠滅する目的で放火したことから、犯人には前科や前歴があると推測される。このため、犯人は就労的に安定しておらず、実家や親族所有の建物に居住している可能性が高い。

犯人は事件現場を事前に下見した等を含め何らかの土地鑑があると思われる。犯人の職業は不明だが、勤務先商圏を10キロ内と想定すると東京都東部地域(下町地域)、埼玉県、千葉県に勤務先、自宅が在る可能性がある。

犯罪心理学に基づく「ルートライン法」を適用した場合、犯人の居住地または勤務地は、柴又街道や国道14号線、国道6号線を経由する千葉県市川市、松戸市、埼玉県三郷市方面にあると推定される。

犯人は証拠隠滅などの行動ができる知能を持ち、事前に計画を立てる秩序型の性犯罪者であると推測される。

事件当日に目撃された不審者男性の年齢は不明点が多いが、報道によれば、その年齢は20代から40代の間であったとされている。ただし、50代から60代との証言もある。この情報を基に考えると、事件当時の犯人の両親は存命である可能性が高い。事件当時の犯人は千葉県西部または埼玉県南部にある実家に居住していたと推察される。

千葉県西部は農家が残る地域であり、埼玉県南部は自営業の工場が多い場所である。犯人及び親族は農業、園芸及びそれらに関係する販売業の関係者、町工場関係者の可能性があるだろう。 繰り返しになるが、本考察はあくまで一つの仮説として慎重に扱う必要がある。


◆参考資料
『明大女子大生絞殺から1週間定まらぬ犯人像近接する未解決2事件』中日新聞2000年7月12日付
『東京・目白通り周辺で続発の婦女暴行・強盗事件』日刊スポーツ1997年9月11日付
『独居女性狙い強盗9年で約30件、手口似る北九州市で会社員逮捕』読売新聞1992年12月9日付
『強姦致傷などの疑いで男逮捕』朝日新聞2004年9月1日付
『福岡地裁:強姦など5件、男に無期判決』毎日新聞2007年3月15日付
『無施錠アパート、寝込み襲う手口-浜松の連続強盗強姦事件』静岡新聞2010年1月13日付
茨木新聞2009.02.28

警視庁HP:外部リンク「柴又三丁目女子大生殺人放火事件


◆平成の未解決殺人事件


Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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