東電OL殺人事件 真犯人を考察する

渋谷円山町東電OL殺害事件

本記事は「東電OL殺人事件の真犯人を考察する」目的の記事です。

被害者A氏、冤罪被害者B氏及び関係者の氏名を匿名で表記します。

事件や関係者の匿名化は事件や被害者を血の通わない「記号」にすることにも繋がりますが、当該事件が非常に有名な事件であるため、既に多くの先人が被害者A氏や冤罪被害者B氏の人物像などを分析、考察、紹介などしています。「人間」被害者A氏や「人間」冤罪被害者B氏の詳細は、それらの書物、記事、論文などをお読みください。

なお、文末に本記事の参考、引用文献リストを記す。

本記事での表記一覧
被害者A氏(当時39歳の女性)
冤罪被害者B氏(ネパール国籍の当時30歳男性)
C氏(A氏の常連客。事件当日も被害者A氏と会っている)
D氏(A氏の「定期入」に入っていた定期券の持ち主。当時、埼玉県在住の男性)
E氏(風俗店のサンドイッチマン男性。事件当日の目撃証言者)
F氏(事件当時の目撃証言者。当時20代前半の男性)
X(真犯人)
本記事での表記一覧

東電OL殺人事件 事件概要

1997(平成9)年3月8日土曜日23時頃から翌日9日の午前0時頃、東京都渋谷区円山町のアパートの空室で39歳の女性が犯人Xにより殺害された。

事件当時の東京の最高気温は15.7℃、最低気温は9.1℃(最高気温は1997年3月8日土曜日の9~21時まで。最低気温は8日21時~翌日9日の9時までの気温)だった。

電気、ガス、水道が止められていた(参考:佐野眞一. 東電OL殺人事件(新潮文庫) (p.49-50). 新潮社. Kindle 版.)空室のアパートの一室は寒かっただろう。A氏とXは寒さのなか、一瞬の欲望と金額不明の金銭の交換のため同室に入ったのだろうか――

犯人Xが未逮捕な現在――Xに殺意が芽生えた瞬間が「いつ」なのかは不明だが、A氏の胸部や陰部などからはXの唾液由来と推認されるDNAが検出されたため一連の行為の後にXはA氏を殺害したと判断できる。

遺体で発見されたA氏の着衣に乱れはなく争った形跡もなかった(参考:読売新聞社会部.東電OL事件- DNAが暴いた闇.2012(中央公論新社)(p.54))といわれている。また、靴は部屋の玄関に並び揃えられていた。

寒々しい部屋の中に置き去りにされたA氏の遺留品は、把手のちぎれたショルダーバック、バックの中の小銭を残し紙幣だけを奪われたと推認される財布、化粧品及び他人名義の預金通帳(参考:佐野眞一. 東電OL殺人事件(新潮文庫) (p.259). 新潮社. Kindle 版.)、2枚のイオカード、現場の床に散乱していたのは、食料品の入ったビニール袋、薬類、おやつ類などであり、A氏の着用してたコートの背中に付着した血痕やちぎれたショルダーバックの把手からもXのDNAが検出され、遺体となったA氏の身体の下からXの体毛が見つかっている。なお、A氏が所持していた他人名義の通帳は、D氏とは別の埼玉県在住男性の名義だった。「現金の引き出しは四、五回あり、最後の引き出しは平成八(一九九六)年十二月十一日だった。このときは一万七千円が引き出されている。(引用:佐野眞一. 東電OL殺人事件(新潮文庫) (p.259). 新潮社. Kindle 版.)」とのことであるが、A氏が他人名義の通帳を所持していた理由は明らかになっておらず(通帳の最後の引き出し時期が事件の1年以上前であることなどから捜査当局は本事件とは無関係だと判断したのだろう)、佐野氏は前述の2枚のイオカード及後述するD氏の定期券を含めA氏が拾得などした可能性があると推理している。

東電OL殺人事件と呼ばれる本事件は、事件発覚(1997年3月19日)の2日後の3月23日、事件現場アパートの隣に住み、一時、同アパートの管理人からアパートの鍵を預かっていたB氏が入管法違反(不法残留)の容疑で逮捕されことから一気に動き出す。

B氏は1997年5月20日、入管法違反(不法残留)容疑で懲役1年、執行猶予3年の判決受けた直後、警視庁に強盗殺人の容疑で逮捕される。

本事件は、日本の司法制度(検察の証拠開示)や警察の取り調べなどの捜査方法や当時のDNA型捜査の問題点などを浮き彫りにした事件でもある。なお、足利事件(参考記事:DNA捜査とプライバシー保護と冤罪証明ための利用)は、1990年に発生、2009年に元受刑者S氏以外のDNA型が判明した。

B氏は2000年4月14日の一審で無罪判決を得たが、検察が控訴した控訴審では無期懲役の判決(2000年12月22日)を受け、無期懲役囚として矯正施設に収監された。それから約12年の長い歳月を経た2012(平成24)年10月29日の再審初公判――検察側が無罪を主張し、2012(平成24)年11月7日にB氏の無罪が確定した。

殺されたA氏と冤罪被害者のB氏。

未だに逮捕などされていない真犯人X。

世紀末の日本社会に大きな動揺と影響を与えた東電OL殺人事件の真犯人を考察する。

事件当日の目撃証言

被害者A氏の足取りと目撃証言を整理してみよう。なお、繰り返しになるが、冤罪被害者B氏の裁判でA氏が殺害されたと認定された日時は1997(平成9)年3月8日土曜日の23時頃から3月9日午前0時頃である。

11時20分頃被害者A氏は、杉並区の自宅を出て徒歩で最寄り駅の京王・井之頭線「西永福」駅に向かう。
11時25分頃定期券を使用し同駅構内に入り、渋谷方面行の電車に乗る。
電車が「渋谷」駅に到着すると下車し、東急店内でサラダ類などを購入する。
時間不明A氏はJR「渋谷」駅から電車に乗りJR「五反田」駅で下車する。
12時30分頃在籍していた西五反田の風俗店「魔女っ子宅配便」に入る。
17時30分頃同店を退勤する。
その後、JR「五反田」駅から電車に乗ったと推測されるが、B氏の裁判では下車した駅の事実認定はなされていない(検察は定期入が投棄されていた巣鴨近辺のJR巣鴨駅などで下車した可能性を指摘していた)
18時40分頃渋谷ハチ公前でC氏と合流する。
19時13分A氏とC氏は渋谷区円山町のラブホテルに入る。
22時16分A氏とC氏がラブホテルを出る。同ホテルの防犯カメラの映像から確認される。
その後、A氏とC氏は道玄坂方向に向かう。2人は道玄坂で別れる。
22時30分頃A氏とC氏は道玄坂上で別れる。A氏が「神泉」駅(円山町)方向に歩くのをE氏が目撃する。
なお、E氏はA氏が年齢27歳前後の黒系色ジャンパーを着た男性(と一緒に歩いていた。最初はヒモだと思ったが、男性の顔つきが華奢な印象だったのでヒモではないだろうと思ったなどとB氏の裁判で証言している。
23時45分頃A氏が殺害されたアパートの前でA氏と思しき女性と東南アジア系と思しき男性をF氏が目撃する。
F氏はB氏の裁判で以下の証言をしたようだ。
東電OL殺人事件 事件当日の被害者の足取り

(前略)女性はアパートに向かって 左、男性は右に立っていました。男性の身長は女性と同じくらいで、肉づきのいい感じでした。髪は少しウェーブがかかっていて、 肌の色は浅黒く、東南アジア系にみえました。服装は黒と白のジャンパーでした。腰のあたりには赤いポシェットのようなものが巻きつけられていました。二人は女の人が少し先に立ってアパートに入っていきました。二人はすぐにみえなくなりました。女性の顔はみえませんでしたが、男性の方は女性に話しかけるように左を向いたとき、頰から顎にかけての線が少しみえ、鼻の先も少しみえました。(後略)

佐野眞一. 東電OL殺人事件(新潮文庫) (p.228). 新潮社. Kindle 版.

F氏は目撃した二人をA氏及びB氏とは断定していないが、目撃場所や目撃時刻から目撃された女性はA氏の可能性が高いと推認される。また一緒にいた男性を「肌の色」などから東南アジア系だと推察しているが、詳細は不明だ。なお、B氏は目撃された男性の着衣と同じ色(黒系)の上着(ジャンパー)を所有し、目撃された赤色ポシェットを持っていたが、B氏の無罪が確定したことから、この目撃された男性の着衣などの真偽などは不明である。

上記の23時45分頃のF氏の目撃情報が生前のA氏の最後の目撃情報であるが、上記の目撃証言のなかの最重要ポイントは、女の人が少し先に立ってアパートに入っていきました。」だと思われる。

なぜなら、上記の証言からA氏がXをアパート内に案内したと可能性が推察されるからだ。

事件現場アパートの謎

東電OL殺人事件の犯行現場となった木造2階建てのアパートは、京王線「神泉」駅のほぼ目の前に所在する。同アパートは1階部に3部屋、2階部に3部屋があり半地下らしき部分に居酒屋が入居している(同居酒屋は2020年1月時点のGoogleストリートビューでも確認できる。なお、生前のA氏とXを目撃したF氏は、同居酒屋に父親を迎えに来ていた)

A氏が殺害された部屋は1階部に在り、間取りは台所、トイレ、ユニットシャワーが設置された4.5畳部屋と事件当時カーペットが敷かれた6畳の和室の2部屋だが、二つの部屋に間仕切りなどがあったか否かは不明である。

同室の最大の疑問点はドアの鍵とドア横の窓の鍵が開いていたことを「誰が」知っていたのか?また、同室の鍵は「何本」あったか?鍵を「誰が」持っていたか?だろう。

冤罪被害者B氏の裁判のなかでB氏は同室のドアなどが無施錠だったことを知っていたと供述している。一時期だがB氏は同室の管理人から鍵を預かっていた。B氏は鍵を返却する前の1997年2月下旬から3月2日頃の間に同室を使いA氏を買春していた。さらにB氏はその後も同室を買春などの目的で使用するため「敢えて」ドアの鍵は無施鍵のままにしていたらしい。また、B氏はA氏のほかにも氏名等不詳の40歳代の女性を同室で買春している。

上記から同室が無施鍵だったことを知り得る人物は、B氏、A氏及び氏名不詳の女性(A氏と同女性は買春後のB氏が鍵を掛けず部屋から出たことを視認などしていた可能性の範囲)だが、B氏が友人などに同室を「買春目的で使える部屋」として情報共有をしていた可能性も考えられる。

鍵が何本あったのか?については判然としない。事件現場の部屋が空室となる前の居住者たち(B氏とは無関係だと思われるネパール人グループが使っていた)が合鍵などを持っていた可能性が考えられ、その本数は居住者が複数であったことを考えると複数本の可能性があると推察される。また捜査側はそれらの以前の複数人のネパール人居住者の所在を確認するに至っていない。

東電OL殺人事件の最重要着眼点は、A氏とXのどちらが「部屋」に誘ったか?だろう。Xが誘ったのならXは(あくまでもB氏が周囲に情報共有していたとの前提からの推論だが)B氏周辺または(鍵を持っている前提だが)以前の居住者たち及び周辺人物の可能性が考えられ、A氏が誘ったのならガスも電気も止められた暗く寒い部屋に一見の客が入るのか?が問題になる。

安価な料金の買春だとしても、一見の客なら部屋に入ることに躊躇いを感じるのではないか?仮にそうだとするとXはA氏の常連客の1人だということにもなる。

前述F氏の証言女の人が少し先に立ってアパートに入っていきました。」を思い出そう。

この目撃証言が事実だとするならば、A氏がアパートに案内したように見受けられる。そう、F氏のXは東南アジア系(肌の色などが主な根拠だが)を前提とするならば、Xは外国人のA氏の常連客または「肌の色が浅黒い」日本人を含めた北東アジア系の常連客の可能性が考えられる。

事件の鍵を握る定期券

東電OL殺人事件の真犯人を考察するうえで重要な証拠の一つに被害者A氏の定期入とその中にあった被害者A氏の定期券及びD氏の定期券がある。この定期券は被害者A氏の推定死亡日時(1996平成9年3月8日土曜日23時以降から翌日9日の日曜日の0時頃)から3日後の1996(平成9)年3月12日水曜日の10時頃、東京都豊島区巣鴨5丁目内の民家の敷地内で発見され、同民家の家人が所管の警察に届けでたものだ。

なお、渋谷区円山町のアパート内で被害者A氏の遺体が発見されたのは、1996(平成9)年3月19日であることから定期券が発見された3月12日時点での被害者A氏に対する警察の扱いは特異家出人だった思料される。

豊島区巣鴨5丁目で発見された表面に「fortner」の文字が打刻された被害者A氏の定期入れのなかには、「design took」と書かれた名刺大の紙片と期限の残る被害者A氏名の定期券及び埼玉県在住の男性D氏名の定期券が入っていた。

当然ながらD氏は捜査の対象になっただろう。だが、D氏が事件前年の1995(平成8)年11月17日の日曜日13時から14時頃、東京都品川区西五反内で置き引き被害に遭い、所管の警察に被害届を提出していたことが明らかになる。

この置き引き(窃盗)犯人が誰なのかはわかっていないが、被害者A氏は西五反田の風俗店に在籍し同地域に土地鑑を有している。窃盗犯が捨てた定期券を被害者A氏が拾い所持していたことも考えられる。

冤罪被害者B氏の裁判でも指摘されているとおり、「誰」が被害者A氏の定期入を豊島区巣鴨5丁目の民家敷地内に投げ入れたのか?が、本事件の重要な鍵の一つである。

推論される定期入を投棄した人物を以下に記す。

case1・被害者A氏自身が投げ捨てた。

ただし、被害者A氏の定期券は事件当日の3月8日に使用されているため、被害者A氏が巣鴨の民家に投げ捨てたと仮定した場合は、西五反田の風俗店を退勤後の17時30分頃から渋谷駅ハチ公前でC氏と会った18時40分頃までの間に東京都豊島区巣鴨5丁目内に立ち寄り自分の定期券とD氏の定期券が入っている「定期入だけ」を民家の敷地内に投げ捨てた可能性が考えられるが、そもそも利用期限(有効期限は同年8月31日)の残る自分の定期券を捨てる必要性はないだろう。

case2・拾得者が投げ捨てた。

被害者A氏が風俗店出勤のため自宅最寄りの西永福駅を通過した3月8日11時25分前から事件発生時刻3月9日0時までの間に定期入を「西五反田から※注,渋谷区円山町のどこか」に遺失し、それを「誰か」が拾い、東京都豊島区巣鴨5丁目内の民家に投げ捨てた可能性が考えられるが、その場合は拾得者が警察に届けず、または、生活拠点や周辺施設などのゴミ箱などに破棄せず、東京都豊島区巣鴨5丁目内の民家に投げ捨てた必然性が不明となる。

※注,1996年3月当時、JR渋谷駅の改札の一部は自動化改札化されいなかった。被害者A氏が自動改札を使用せず、JR渋谷駅を通過し例えば渋谷駅ハチ公口などで定期入を遺失した可能性も考えられる。

case3・犯人Xが投げ捨てた。

被害者A氏を殺害した犯人Xが被害者A氏の財布(財布は事件現場に残されていた)に入っていたと考えられる現金4万円以上の紙幣(当日C氏はA氏に4万円を渡した)とともに払い戻せば約6万円分相当になる被害者A氏の定期券を定期入ごと強奪したが、女性名の定期券を払い戻すことができず、その後、東京都豊島区巣鴨5丁目内の民家の敷地内に捨てた可能性も考えられる。

case4・犯人Xが捨てた定期入れを拾得した第三者Yが投げ捨てた。

被害者A氏殺害後に定期入を強奪した犯人Xが定期入を「どこか」に捨て、それを拾得した第三者Yが東京都豊島区巣鴨5丁目内の民家に捨てたことも考えられるが、上記2のケースと同様に拾得者が警察に届けず、または、生活拠点や周辺施設などのゴミ箱などに破棄せず、東京都豊島区巣鴨5丁目内の民家に投げ捨てた必然性が不明となる。

上記4つのケースのなかで可能性が高いのは、case3だろう。ここからはCase3を想定し、被害者A氏の定期入が発見された東京都豊島区巣鴨5丁目と犯人Xの関係性または犯人の「思惑」を考察していこう。

定期券が発見された東京都豊島区巣鴨5丁目現場

A氏の定期入が投棄されていた東京都豊島区巣鴨5丁目の民家は、都電荒川線(都内唯一の路面電車)「新庚申塚」駅から東方向へ直線距離で約100メートルの場所に位置する。

付近には、寺社や区立公園が所在し、同民家は公道から入る道幅のかなり狭い私道と思しき道路(私道の正面は建物があるため行き止まりである)に面して所在しているため、犯人Xは私道と思しきこの道に入り、3月9日(日)から3月12日(水)の午前10時頃までの間に定期入を投棄したと推認される。

東電OL殺人事件定期入投棄現場(巣鴨5丁目内)

2022年10月撮影 編集により加工済み

ここで問題なのは犯人Xが「なぜ」この場所を選んだか?だろう。そもそも、犯人Xが定期入を投棄したのなら、強盗殺人事件の有力な証拠の一つを「なぜ」「この場所に」「投棄した」のか?

証拠隠滅を図るなら、方法はいくらでもある筈だ。例えば東京都内に多数ある河川などへの投棄、例えば東京湾への投棄、例えば生活拠点の生活ゴミに混ぜる。例えば定期入や定期券をシュレッダーやハサミなどで粉砕・破砕などする。例えば燃やす。例えばゴミ集積所やコンビニなどのゴミ箱に投棄する――などなど。

だが、犯人Xは敢えて証拠品の定期入を持ち歩き、私道と思しき道に入り、民家の庭先に投棄した。投棄された民家は不特定多数が出入りする単身世帯向けのマンション、アパートの敷地ではない。利用期限の残る他人の定期券が入っている定期入を投げ込まれた民家の住民が警察などに届け出る可能性は単身世帯向けのマンション、アパートの住民よりも高いかもしれない。

つまり、犯人Xは定期入が民家の住民に発見され警察に届け出られることを想定し、「わざと」同民家に投棄した可能性が高いと推察することができる。当然ながら強盗殺人事件の証拠品が発見された巣鴨5丁目付近では、A氏やB氏及び定期入を投棄した人物の目撃情報などを収集するための警察の聞き込みが行われているが、事件の解決に繋がる情報は集まらなかったようだ。

では、「なぜ」都電荒川線「新庚申塚」駅から東方向へ直線距離で約100メートルの民家が選ばれたのか?事件当時の犯人Xの自宅や勤務先、友人宅などの関係先が付近にあったからか?犯人Xが「わざと」発見されることを意図したならば、捜査を攪乱するため「わざと」自分の生活圏から離れた場所に投棄したことは容易に想像できる。事件当時の犯人Xの生活圏は都電荒川線「新庚申塚」駅付近に無かった可能性が推測される。

だが、人は過去の記憶や思い出、生活習慣からの学びなどを頼りに無意識的に土地鑑のある「地域」「場所」「方面」を選ぶことがある。人は困難に直面した時、生まれ故郷や子供の頃住んだ街並み、通学や通勤で使った路線などを思い出すことがある。

事件当時の犯人Xは、都電荒川線「新庚申塚」駅付近で暮らしていなかっただろう。また、同駅を日常的に使用することもなかったと推察されるが、当時または過去、都電荒川線の利用はあったとも考えられる。

花街とドヤ

東京都内には花街と呼ばれる地域がある(あった)。東電OL殺人事件の被害者A氏が殺害された円山町も花街と呼ばれた地域である。人間の様々な欲望が交差する街の片隅にA氏と犯人Xはいた。

前述の都電荒川線の路線図をみてみよう。同線は東京都荒川区南千住1丁目の「三ノ輪橋停留場」から東京都新宿区西早稲田1丁目の「早稲田停留場」を結ぶ路線である。

画像のリンク先は「東京都交通局都電荒川線路線図」と「東京都交通局都電荒川線所要時間」のHP

西早稲田、東池袋、大塚、A氏の定期入が発見された民家の最寄り駅「新庚申塚停留場」、北区の王子、荒川区の町屋、南千住――路面電車は東京の代表的な花街、繁華街、下町付近を走り、東京最大の風俗街「吉原」とドヤ「山谷」のある地域へ。

犯人Xは、円山町で買春相手を探し、円山町でA氏を殺した。殺害の動機は不明だが、A氏が所持していた数万円(4万円以上)を強奪した疑いがあり、金銭目的からの犯行が考えられる。

犯人Xは、それまでも買春相手などを探して東京の繁華街を歩いていただろう。犯人Xが都電荒川線を利用し、買春などを目的に大塚や吉原周辺に立ち寄ったことがあった可能性は容易に推察される。

また、犯人Xは安価な料金の買春相手を探していたとも考えられる。事件が発生した90年代から00年代前半の買春相手との出会いは、携帯電話などを使った出会い系サイト、店舗型テレクラ、路上などでの交渉が主な手段だと推認され、それらの手段を利用した個人間交渉の交渉は、店舗型の風俗店利用よりも売春側、買春側の双方に大きなリスクがあると考えられる。

犯人Xがリスクを承知で安価な個人間取引を選択したと仮定するならば、事件当時の犯人Xは経済的に恵まれず(強奪した疑いのある金銭は数万円である。定期券を奪った理由も払い戻し目的だとも考えらえる)、山谷などのドヤで寝泊まりなどしていた可能性や個人間の売買春のリスクを考慮しない常習的な買春客だったのかもしれない。

前述のXは東南アジア系(肌の色が主な根拠だが)のA氏の常連客または「肌の色が浅黒い」日本人を含めた北東アジア系の常連客の推論と考えあわせれば、Xは個人間の売買春のリスクを考慮しない常習的な買春客であり、23区のなかで比較的家賃の安い下町地域に親和性のある人物だと思われる。

東電OL殺人事件 真犯人像は?真相は?

90年代後半を代表する事件の一つ東電OL殺人事件には時効はない。任意ではあるが警察は各種の事件(累犯など条件次第だが比較的軽微な事件でも採取することがある)で逮捕した被疑者のDNAを採取している。

集められたDNAデータと東電OL殺人事件の真犯人XのDNA型の照合などは続けられているだろう。では、なぜ、Xは逮捕されないのか?東電OL殺人事件の真犯人Xの犯行動機が数万円の強奪だと仮定するならば、Xは常習的に犯罪行為を繰り返す可能性の高い人物だ。

警視庁三大未解決事件の一つ「世田谷一家殺害事件」(参考記事:世田谷一家殺害事件)も同様だが、強盗殺人という重罪を犯す犯罪傾向の進んだ人物が日本国内で生きていると仮定するなら、いつの日か東電OL殺人事件の真犯人Xも逮捕されるだろう。Xが自ら事件の真相を語る日もくるだろう。

だが、事件発生から25年の歳月が流れても真犯人Xは逮捕されていない。その理由はなんだろうか?既に死亡(A氏の客は年配者が多かった)したのか?日本国内にはいない(Xが外国籍だとすると事件後に日本から出国などした)のか?

そのどちらかの可能性が非常に高いと結論する。

本記事の冒頭で「人間」被害者A氏については語らないと述べたが、最後に少しだけ語りたいと思う。エリート家庭に生まれた彼女。高い学歴を有し、東電初の女性総合職となった彼女。秀逸な論文を残した彼女。拒食症を患った彼女。自傷行為をするかのように花街、繁華街に立っていた彼女。

彼女の「名前」と「東電OL殺人事件」という事件名は日本社会の大きな転換点――90年代後半から00年代――を象徴する「大きな記号」となった。 これからも彼女の「名前」と「東電OL殺人事件」は、人々の記憶に残り続けるだろう。


◆参考文献
『東電OL殺人事件』佐野眞一 新潮文庫 2003.
『禁断の25時』酒井ゆかり アドレナライズ2013.
『恋の罪』マルキ・ド・サド著,植田祐次訳,岩波文庫1996.
『東電OL事件-DNAが暴いた闇』読売新聞社会部 中央公論新社2012.

◆映像
映画『恋の罪』


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Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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