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事件史を紐解くと不思議な未解決事件に出くわすことがある。犯人はもとより、犯人の動機さえもわからない事件。

戦後の復興期に発生した「謎のニセ札事件」について考察していこう。

謎のニセ札事件 概要

1954(昭和29)年12月初旬、東京都中央区新富町1丁目内に所在する個人営業の印刷屋に見知らぬ男(以下、X)が現れた。

同店は、現在のJR東京駅八重洲口から南西方向へ直線距離で約500メートルの場所に位置する個人営業の印刷店だと思われる。

Xは、某興信所の調査部長を名乗る(名刺を残した可能性があると思われる)が、年齢や特徴に関する情報は残っていない。また、Xが名乗った氏名や「某」興信所の実在の有無などの詳細情報も確認できない。

地図は、現在の「東京都中央区新富町1丁目」内

Xは店主に以下のように語り、10ドル札程度の大きさ(縦6.5センチ、横15.5センチ)の「紙幣のようなもの」の見本を取り出し、1枚50円で1000枚(総額50000円)分の印刷を発注したと報道されている(参考・引用:外人がナゾの紙幣 印刷屋に依頼す 警視庁初提訴 国際刑事警察委へ 朝日新聞 1955(昭和30)年2月6日付)。

――知り合いの外人(外国人)から頼まれた。宗教団体の寄付の領収書に使うもので、別に怪しいものではない――

――警視庁の公安部長とも親しいので、すでに了解をもらっている――

Xが発注した「紙幣のようなもの」の見本は、とても奇妙なものだった。

表面の左右の位置には「100」のアラビア数字。そのわきに「文字のようなものがあり、中央部(真ん中)には、「旗をささげ(原文ママ)馬に乗った白衣の騎士」。その下(中央部の下と思われる)に「鮮やかな色で太陽が昇ろうとしている図」と「イスラエルのマーク」があった。

「100」のアラビア数字のわきにある「文字のような」なものは、東大、教育大学、宗教学者に鑑定を依頼したが判読さえできず、「一部の人々にのみ通用する特殊な符号ではないか」との結論に至り、イスラエル公使館は、この種の紙幣は使用していないと回答したと報道されている。

「紙幣のような」印刷物を巡り、前述の「朝日新聞 1955(昭和30)年2月6日付」は、「ユダヤ系の団体の世界政策を目的とした秘密資金獲得に関連した一種の証券」、「秘密宗教結社」に関係する説を紹介しながら、「不思議な事件」だと述べている。

Xが依頼した「紙幣のようなもの」に関する情報は警視庁に提供された。それは、印刷作業を終え商品(「紙幣のようなもの」)をXに渡した後――不安を覚えた店主からの情報提供だったのかもしれない。

捜査を担当した警視庁三課は、外国のものを日本で印刷した点や印刷された「紙幣のようなもの」の行方がわからない点(Xの氏名、肩書、勤務先の某興信所名からは追えなかったのだろう。つまり、それらは虚偽だったと可能性が高い)等を考慮し、警視庁初となる国際刑事警察機構(ICPO)への情報提供を行いながら真相究明を始めたようだ。

国際刑事警察機構(ICPO)への情報提供は、Xが依頼した「紙幣のようなもの」が、世界各国の「真券」の贋造品の可能性や「紙幣のようなもの」が何らかの詐欺事件の小道具として利用される(された。されている)懸念を考慮してのことかもしれない。

当時の報道によれば、「もし、ニセ札でないとの結論になっても、紙幣にまぎらわしいものとして捜査の対象にはなる」とある。

捜査当局は、Xが依頼した「紙幣のようなもの」が、日本政府発行の紙幣と「紛らわしい外観」はしていない(「旗をささげ(原文ママ)馬に乗った白衣の騎士」、「鮮やかな色で太陽が昇ろうとしている図」、「イスラエルのマーク」の日本紙幣は過去、現在、実在しない)が、実在する外国紙幣に「紛らわしい外観」をしている、または、日本人に外国紙幣だと錯誤させること等もあり得ると判断し、「捜査の対象」にしたのだろう。

謎の「紙幣のようなもの」は、そもそもニセ札だったのか?

ここからは、この奇妙な謎の「紙幣のようなもの」について考察していこう。

前述の通り、Xが依頼した「紙幣のようなもの」の表面には、「旗をささげ(原文ママ)馬に乗った白衣の騎士」、「鮮やかな色で太陽が昇ろうとしている図」、「イスラエルのマーク」と「100のアラビア数字と判読さえ不能な文字のようなもの」が書かれているが、裏面についての情報はない。

もしかしたら、何も書かれていなかったのかもしれないし、何らからの図、肖像画等があったかもしれないが、詳細はわからない(肖像画があるとすれば報道されていると思われるため、肖像画はなかったのだろう)。

また、多くの国の紙幣にある「すかし」、紙幣固有の記号番号等が書かれていたとの情報もない。

領収書や会員権の類にさえ印字等する記号番号等がない(旧日本政府(軍)発行の「軍票」には、記号番号等が無いものもあるが、そもそも「軍票」は貨幣ではなく証券の類である)ということは、1000枚全てが同じ「もの」となり、同一人物が複数枚の「紙幣のようなもの」を手にした瞬間、「これは紙幣ではない」と、見破ってしまうだろう。

上記を前提に推察するとXが発注した「紙幣のようなもの」は、最初から「紙幣」を意識したものではなかった可能性が高いと推論できる。

では、Xが発注した「紙幣のようなもの」は、なんだったのか?さらに考察していこう。

描かれていたシンボルマークを考察する

繰り返しになるが、「紙幣のようなもの」に描かれていたシンボルマークは、以下の通りだ。

  1. 旗をささげ(原文ママ)馬に乗った白衣の騎士
  2. 鮮やかな色で太陽が昇ろうとしている図
  3. イスラエルのマーク
  4. 100のアラビア数字と判読さえ不能な文字のようなもの

上記4つを手掛かりに「紙幣のようなもの」のについて、考察を進めよう。

旗をささげ(原文ママ)馬に乗った白衣の騎士

「白衣」の「騎士」から連想されるのは、テンプル騎士団などの聖地奪回のための宗教騎士団と米国の白人至上主義者(クー・クラックス・クラン=KKK)のおぞましい白シーツ姿だろう。

そもそも、騎士団はキリスト教の聖地エルサレムの防衛、キリスト教徒の保護、異教徒(イスラム教徒)からの聖地(エルサレルム)奪回等を目的に結成された集団であり、11世紀頃からの台頭するテンプル騎士団、聖ヨハネ騎士団、ドイツ騎士団の三大有名騎士団(騎士修道会)の騎士(構成員)は修道士だった。

また、21世紀の現在も聖ヨハネ騎士団から派生したマルタ騎士団(エルサレム、ロードス及びマルタにおける聖ヨハネ主権軍事病院騎士修道会)は、「領土を持たない国家」とし「主権」が認められカトリックの世界における非常に大きな権威の一つでもある。

さらに、夜な夜な白シーツを被り残虐非道な行いをする(した)KKKは、(WASP=白人、アングロ=サクソン、キリスト教プロテスタント)の優位性を盲信する過激な集団である。

そう、「白衣の騎士」はキリスト教を連想させるシンボルである。そして、「白衣の騎士」がキリスト教に関係するシンボルマークだと仮定するならば、「白衣の騎士」が乗る馬の毛色も気になる。

「白い馬」はキリスト教芸術の「キリスト」を表現し、「青白い馬」はヨハネ黙示録第六章第八節の「死」を現わす。 果たして「白衣の騎士」が跨る馬の毛色は何色だったのだろうか。非常に気になる点だが、馬の毛色に関する情報はない。

鮮やかな色で太陽が昇ろうとしている図

日本を例に挙げるまでもないが、太陽は古代から世界各地で信仰の対象となっている。

春分の日、秋分の日、日蝕の日、日の出、日の入――古代から人間は太陽を観察するために途方もない時間と労力を使い巨大な石の施設を造った。特別な日の太陽の光が差し込む巨大な門を造った。太陽から死と再生を感じ、太陽から着想を得た幾つもの偉大な物語を生み出した。

「紙幣のようなもの」に描かれた「鮮やかな色で太陽が昇ろうとしている図」も太陽崇拝に通じる宗教的なシンボルだったのかもしれない。

Xが印刷屋の店主に語った「紙幣のようなもの」の使途を思い出そう。Xは、「知り合いの外人(外国人)から頼まれた。宗教団体の寄付の領収書に使うもので、別に怪しいものではない」と言ったらしい。「紙幣のようなもの」には――やはり――宗教組織が関係するのだろうか?

イスラエルのマーク

「イスラエルのマーク」と称されるシンボルは、「ダビデの星(ソロモンの封印)」のことだろう。前述の通り、警察も「紙幣のようなもの」をイスラエル公使館に問い合わせをしている。

「ダビデの星(ソロモンの封印)」は、正三角形と逆正三角形を結合させた記号で「火と水の結合」、「人間の霊肉の結合」――つまり、「人間の魂」を現わすといわれる。

また、正三角形と逆正三角形を結合させた記号は、日本では籠目紋と呼ばれ、伊勢神宮でも見られ、徳川埋蔵金と関係があるともいわれる「かごめかごめ」の歌や日ユ同祖論等の都市伝説系の話の中心に登場するシンボルでもある。

「旗をささげ(原文ママ)馬に乗った白衣の騎士」をキリスト教のシンボル、「鮮やかな色で太陽が昇ろうとしている図」を太陽信仰のシンボルと仮定するならば、「イスラエルのマーク」にも宗教的な意味があるのかもしれないと考えたくなるが、そもそも、ユダヤ教は神を可視化してない。

つまり、「ダビデの星(ソロモンの封印)」は、中世頃からユダヤ民族(文化)を現わすシンボルだが、ユダヤ教のシンボルではない。さらにいえば、「旗をささげ(原文ママ)馬に乗った白衣の騎士」をキリスト教のシンボルと考えるならば、キリスト教的なシンボルとユダヤ教(文化)的なシンボルの併置は、※基本的にあり得ない。

※ただし、ユダヤ系の画家シャガールの『私と村(1911年)』には、ユダヤ教(文化)のシンボルとキリスト教シンボル及びロシア正教会のシンボルが描かれている。

上記を前提に考えれば、「イスラエルのマーク」を宗教的な意味でのシンボル「ダビデの星(ソロモンの封印)」と解釈せず、ユダヤ民族・文化に由来する結社、家(例えばロスチャイルド家の家紋にはダビデの星がある)と考えるのが妥当だろう。

ただし、「イスラエルのマーク」を日本の「籠目紋」と解釈するならば――日本の神道(魔除けの意味を持つ籠目紋は大和の神々の主宰神「天照大御神」等を祀る伊勢神宮の石灯籠にも刻まれている)を現わすとも考えられ――かなり強引な話になってしまうが、「紙幣のようなもの」に描かれた「イスラエルのマーク」に日本に関係する宗教的な意味合いを与えることができる。

100のアラビア数字と判読さえ不能な文字のようなもの

最後に残った「100のアラビア数字と判読さえ不能な文字のようなもの」は、何を意味するのだろう。

当然ながら、100のアラビア数字は「100」を現わすのだろう。問題は「100」の周りにある「判読さえ不能な文字のようなもの」の正体だ。

残念ながら「判読さえ不能な文字のようなもの」の「文字のようなもの」の詳細はわからない。有識者が鑑定したが「判読さえ不能」とあるため、そもそも、文字ではないのかもしれない。文字だとするならば古代エジプトのヒエログリフのような象形文字でもないだろう。

では、文様か?文様の可能性も考えられるが、「文字」と仮定して考えるならば――やはり、かなり強引だが、日本の神代文字と考えるのはどうだろうか?

神代文字(正式には神代文字と呼ばれる文字のようなもの)は、神社の石碑等に刻まれ、札等にも書かれていることがある。また、神代文字には、暗号文や藩札の偽造防止用記号として使われた歴史もある。

「100のアラビア数字」のわきにある「判読さえ不能な文字のようなもの」が神代文字だとするならば、その役割は「紙幣のようなもの」の偽造防止のために使われた神代文字だとも考えられないだろうか。

まとめ

これまで「謎のニセ札事件」と呼ばれる未解決事件についてあれこれ考えみた。

「謎のニセ札事件」と呼ばれる「紙幣のようなもの」は、ニセ札(贋造紙幣)ではないだろう。

「紙幣のようなもの」に価値があるとするならば(一枚50円で印刷しているため単なるイタズラの類とは考え難く、何らかの価値、意図、意味があるのだろう)「証券」の可能性があるが――発行主が誰なのか――謎が残ったままになる。

もう一度、Xの言葉を思い出そう。Xは「紙幣のようなもの」が宗教に関係することを仄めかしている。

だが、考察の通り、宗教はユダヤ教やキリスト教ではないだろう。仮に宗教が関係するならば、「太陽」、「籠目紋」、「神代文字」の可能性が考えられたシンボルから「日本」に関係する宗教が思い浮かぶが――「旗をささげ(原文ママ)馬に乗った白衣の騎士」の「騎士」の意味がわからない。

結局はわからないことだらけだ。 だが――今回本記事で紹介した不思議な「紙幣のようなもの」が、時を超え誰かの家から見つかるかもしれない。そう、その時こそ――不思議な「紙幣のようなもの」の真相解明の糸口が掴めるかも――しれない。


◆参考文献
外人がナゾの紙幣 印刷屋に依頼す 警視庁初提訴 国際刑事警察委へ 朝日新聞 1955(昭和30)年2月6日付
『シンボル辞典』編者,水之江有一,株式会社北星堂書店,1985.


独自視点の未解決事件と昭和の事件

◆未解決のニセ札事件


Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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