グリコ・森永事件 検証-4 『目撃された者たち』

グリコ・森永事件 目撃された者たち

「警察庁広域重要指定114号事件(「グリコ・森永事件」)」は、複数の人物が犯行に関与している。 そして、グリコ・森永事件を扱った多くの書籍、小説、報道、TV番組、映画などでその犯人像、犯人グループの人数、犯人グループのプロファイリングなどの検証、考察、推理が行われてきた。

今回は、この世紀の未解決事件 (「グリコ・森永事件」) で目撃された犯人と思しき人物たちを中心に犯人グループの人数、犯人グループの 検証などを行いたいと思う。

これまでの主流の説によると、犯人グループの人数は、①「脅迫状を書いた人物(「昭和53年テープの男」と同一の可能性も指摘されている)」②「キツネ目の男」③「江崎グリコ社長宅の襲撃や拉致、淀川河川敷の男女襲撃の実行部隊の3人」および④脅迫テープの中年の女性⑤脅迫テープの同一男児1名の合計7名ではないかと言われていた。

ただし、その後の『未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言 (著、NHKスペシャル取材班 新潮文庫2018年)  』や2011年7月30日(土)に放送されたNHKスペシャル『未解決事件File.01 グリコ・森永事件「消えた”かい人21面相”」「目撃者たちの告白」』などによれば、前述 「④脅迫テープの中年の女性」は、「だいたい私が見たところ、小学校6年生から中学生くらいだと思っているんです(引用 『未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言 (著、NHKスペシャル取材班 新潮文庫2018年)  』P432  日本音響研究所・鈴木氏)」、 同一人物だと思われていた男児は別の小学生2名であり、さらに、同書には「言語障害(もしくは幼い子、口になにかを挟んで話した子などの可能性も指摘されている)とみられる4人目の子どもの声(P444)」の脅迫テープの(真偽不明の)存在にも触れられており、これらが全て正しいと仮定するならば、犯行グループは、 ①「脅迫状を書いた人物(「昭和53年テープの男」と同一の可能性も指摘されている)」②「キツネ目の男」③「江崎グリコ社長宅の襲撃や拉致、淀川河川敷の男女襲撃の実行部隊の3人」および④脅迫テープの中学生くらいの女児⑤脅迫テープの男児3名の合計 9名の大人数のグループとなる。

グリコ・森永事件 目撃された40代の女性

では、過去の報道記事にある目撃された犯人達を整理してみよう。以下は、過去の報道を基に作成した目撃された犯人達の人数などの図表である。

<a href=httpsdownloadxgetuploadercomgClairvoyantreport13E382B0E383AAE6A3AE4E38080E79BAEE69283E88085E38396E383ADE382B0E382B5E382A4E382BAjpeg target= blank rel=noreferrer noopener>グリコ森永事件資料 目撃された犯人の人数<a>

上記の図表のなかで特筆すべき人物は、1984年12月26日(水)、1985年2月12日(火)に名古屋市内の郵便局で目撃された年齢40歳前後の女性の存在だ。なお、この女性の存在が前述の ④脅迫テープの中年の女性の推定根拠になっていたのかもしれない。

<a href=httpsdownloadxgetuploadercomgClairvoyantreport14E382B0E383AAE382B3E6A3AEE6B0B8E380804E38080E5A5B3E680A7E38080E38396E383ADE382B0E382B5E382A4E382BAjpeg target= blank rel=noreferrer noopener>グリコ森永事件 過去の報道を基に作成した同女性のイメージ<a>

二度にわたり、名古屋市内の郵便局で目撃された年齢40歳前後の女性に関する記事は以下のとおりである。

<報道記事>

不審女性の“似顔”作成 挑戦状投入目撃された/グリコ・森永事件
グリコ・森永事件で、捜査当局は「かい人21面相」グループの中に女が加わっているとみているが、青酸菓子入り封筒と挑戦状が投かんされた名古屋市内の二か所の郵便ポストで昨年二月と一昨年十二月の二度にわたって目撃された同一人物とみられる不審な女性のモンタージュ写真を作成していることがわかった。愛知、大阪、兵庫など現場を持つ各府県警の捜査本部は、この写真をもとに極秘に捜査を進めており、「キツネ目の男」「ビデオの男」に続いて初めて「女性容疑者」の“素顔”が浮かびあがったことで、新たな展開が予想される。 
犯人グループは六十年二月十二日から十三日にかけ、名古屋、東京の地下鉄トイレなど十か所にチョコレート十一個(うち六個が青酸ソーダ入り)をばらまいたが、このほか青酸入りのもの一個が名古屋郵便集中局の郵便物から見つかった。これは十二日午後二時三十分から同六時三十分までの間に名古屋市千種区の千種郵便局前のポストに投げ込まれたものとわかった。愛知県警がこのポスト周辺で聞き込みを進めたところ、投かん時間帯に袋を持った中年の女性があたりを見回しながら二、三度ポスト前を通り過ぎたあと、袋の中のかさばった封筒などをポストに投げ入れ、急いで立ち去っていた。 同市中区のポストでは、五十九年十二月二十六日、中部読売新聞社などにあてた「全国の すいりファンの みなさん え」という十五通目 の挑戦状が投かんされているが、この時もよく似た女性が近くで目撃されていた。捜査本部はこの女性を「犯人の可能性がある不審な女性」と重視、複数の目撃者に事情聴取を繰り返し、証言をもとにモンタージュ写真を作った。 
この女性は四十歳前後、身長一メートル六〇-六五。髪は肩までのセミロングでパーマがかかっていた。濃いまゆ、鼻筋の通った色白美人。

読売新聞1986.09.16 

グリコ・森永事件 怪人21面相と40歳前後の女

また、1984年11月14日、ハウス食品工業脅迫の際に目撃された3名は、A「(チューリップ型の帽子を被り、眼鏡を使用する)キツネ目の男( 出所:『未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言 (著、NHKスペシャル取材班 新潮文庫2018年)  』 P240~260)、B「滋賀県栗東町/草津市」の指定された現金取引現場付近の一般道に停車していたライトバンの男、C同所付近の見張り役および警察官に職質された緑色の婦人用盗難自転車に乗っていた眼鏡を使用した男性である。

C同所付近の見張り役および警察官の職質された緑色の婦人用盗難自転車に乗っていた眼鏡を使用した男性に関する記事は以下のとおりである。

<報道記事>

「⾃転⾞の男」を⼀味と断定/グリコ森永 事件合同捜査会議で
グリコ・森永事件の犯⼈グループが名神⾼速道路でハウス⾷品⼯業から⼀億円奪取を図った事件は⼗四⽇、丸三年を経過したが、兵庫、⼤阪、京都、滋賀の府県警捜査本部は、このほど開いた合同捜査会議で、事件当夜、滋賀県草津市内で⼆回にわたって職務質問された⾃転⾞の男を犯⼈グループの⼀⼈と断定した。捜査本部ではこの男は指⽰書を⼊れた空き⽸を名神の道路上に置くつもりだったが、仲間のライトバンの男が職質されて逃⾛したため⼟⼿に取り残され、⾃転⾞を盗んで逃げたとみている。
ハウス⾷品事件は五⼗九年⼗⼀⽉⼗四⽇夜、犯⼈グループが⼀億円の受け渡し場所をレストラン「さと」伏⾒店(京都市伏⾒区)-名神⼤津サービスエリア(⼤津)-⽩布を⽬印にした地点(栗東町)と次々に変えて現⾦奪取を図ったが、⽩布地点下の県道で待機していたライトバンの男が滋賀県警のパトカーに職質され、草津市内のJR草津駅近くの路上にライトバンを乗り捨てて逃げ、奪取も犯⼈逮捕も失敗に終わった。合同捜査会議では、同夜九時五⼗分ごろと同⼗時ごろの⼆回、ライトバンが放置された現場近くで緑⾊の婦⼈⽤⾃転⾞に乗った男が職質されていたことを重視。検討した結果、〈1〉⽬印にした⽩布のあった⼟⼿に⾃転⾞の男に酷似した男がいた〈2〉⾃転⾞の盗難現場は⼟⼿から⼀番近い栗東町岡集落〈3〉⾃転⾞の男はライトバンの放置現場へ向かっている--などから、「かい⼈21⾯相」のグループと断定した。 これまで、⽩布の地点に犯⼈指定の空き⽸がなかったことがナゾだったが、この“第⼆の男”の存在でナゾは解けるとしている。

読売新聞1987.11.14

グリコ・森永事件関連のハウス食品脅迫 メガネ男の似顔絵を配布/合同捜査本部
グリコ・森永事件(警察庁指定一一四号)に関連した五十九年十一月のハウス食品一億円恐喝未遂事件で、大阪など四府県警合同捜査本部は、滋賀県草津市の取引指定の最終地点近くで、自転車に乗っていた〈メガネの男〉を、犯人グループの一人と断定、行方を追っているが、二 十四日までに、男の似顔絵を作成して関係各府県警に配布した。
男は、三十五-四十歳。中肉で、バサバサの長髪。青か水色のVネックセーター姿で、黒ぶちメガネをかけていた。

読売新聞1987.12.24 

グリコ事件 見張り役の車いた 滋賀の現金取引未遂 名神近くの県道上
グリコ・森永脅迫事件(警察庁指定114号)で、昭和五十九年十一月十四日夜のハウス食品工業脅迫事件の際、滋賀県・栗東町の現金取引現場付近でライトバンの男がパトカーに追われ逃走する直前、近くの県道に不審な二、三人の男が乗った白っぽい車が止まり、うち一人が県道沿いの小高い山林の中へ入って行くのを、定期バスの運転手が目撃していたことが十三日までに分かった。
大阪府警などの合同捜査本部は、山林に入った男が見張り役で、ライトバン逃走後も現場にとどまり、眼下の名神高速道路を走る現金輸送車 の到着を確認。現金奪取していれば県道を逃走する計画だったとの見方を強めている。 捜査本部の調べでは、車が目撃されたのはライトバンが逃走した約二十分前の同日午後九時ごろ。取引現場の名神高速道路上の白旗地点から東側約二百メートルの県道で車が東向きに停車、乗っていた男二、三人のうち一人が県道北側の山林に入って行った。 犯人側が現場で現金輸送車の到着を見届けていたことは、事件五日後に送られてきた脅迫状に「(現場到着は)1じかん30分も かからへんで」と書かれていたことからも裏付けられ、この男がライトバンの男と連絡を取りながら見張っていたとみている。

中日新聞1990.11.14 

グリコ・森永事件 怪人21面相 犯人グループ 人数

上記の報道内容の真偽は不明だが、これまでの情報から推測される犯人グループの構成および人数は最大10人、最小8人のグループだと考えられる。

なお、最小8人(大人の男性3名、大人の女性1名、中学生位の女児1名および男児3名)の仮定は、現場実行犯3名のうち、1人は「脅迫文を書いた(昭和53年テープ)」男性、もう1人が「キツネ目の男」に含まれると考えた場合である。もちろん、 「脅迫文を書いた(昭和53年テープ)」男性の推測される年齢からすれば、現場実行犯の可能性は低いとも考えられるが、先入観を抜きに推理した。

また、グループの年齢構成は、 ①「脅迫文を書いた(昭和53年テープ)」は 当時50歳代から70歳代、②キツネ目の男は、「殺気とも言えるような雰囲気を感じさせる」(当時)35-45歳位 ( 出所:『未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言 (著、NHKスペシャル取材班 新潮文庫2018年)  』 P168-170) 、③40歳前後の女性、④脅迫テープの中学生位の女児、⑤脅迫テープの男児3名、⑥ビデオの男(年齢が20代~30代、身長は約170cm位)。

犯罪は複数犯よりも単独犯のほうが逮捕などされ難い。これは、2006年に公開された映画『デスノート』の「L」の言葉だが、一般的に複数の人間が関与、関係する事件は、その秘密の共有さえも難しいだろう。

では、 最大10人、最小8人の性別、年齢が雑多なこのグループはどのような集団なのだろうか。血縁を中心とした集団、地縁(出身地、出身国など)で結ばれた集団、思想信条で結ばれた集団(勿論、小さな子どもに思想信条はないと思われるが親や周囲により巻き込まれた)、同一組織や同業者などの職業集団などなど様々な仮説が成り立つが、前回紹介した記事(2018年6月に公開され、第71回カンヌ国際映画祭で最高賞のパルム・ドールを受賞した)『万引き家族』(監督:是枝裕和)の疑似家族集団、つまり、山口組系二代目「柳川組」組長の谷川康太郎氏(1928年 – 1987年)の言葉にある「ヤクザとは哀愁の共同体(結合体)である。そこにあるのは、権力、圧力、貧困におびえる姿だけ。」を思いだしてしまう。

このグループは何者なのか。当時は住処はどこなのか、事件後は何処に行ったのか。

1984年11月14日、ハウス食品工業脅迫の現金受取に失敗した同グループは、盗難車を乗り捨て、自転車を盗み、闇夜に消えていった。そして、その後も食品製造メーカーなどへの脅迫は続くが、現場で目撃された人物は男性3人の実行部隊やキツネ目の男やビデオの男達ではない。

目撃されたのは40歳前後の女性である。脅迫テープの子ども達がこの女性の実子またはこの女性に監護された子だと仮定するならば、自宅から遠方地へ赴き脅迫状などを投函することは時間的、物理的に難しい状況があったのかもしれない。彼女が目撃されたのは、前述のとおり、いずれも「名古屋市」内である。

このグループに関係する男女4人(大人の男性3名、大人の女性1名)について以下の記事がある。

<報道記事>

男女4人組を追う 遺留品や車が似る グリコ・森永事件 
グリコ・森永事件(警察庁指定114号)を調べている兵庫県警捜査一課の西宮署捜査本部は二十一日までに、一九八四年十一月に発生したハウス食品工業恐喝未遂事件で、犯人が滋賀県草津市内に乗り捨てた盗難車に残したバッグ、帽子と酷似した製品を持った男女四人組が、事件の直前まで大津市内のマンションに頻繁に出入りしていたことを突き止めた。さらに四人組は、一連の事件の発端となった同年三月の江崎勝久・江崎グリコ社長誘拐に使われた乗用車とよく似た車を所有していたことも判明している。捜査本部は来年三月に迫った誘拐事件の時効を前に、最重点課題としてグループの追跡に全力をあげている。 犯人グループは江崎社長を誘拐後、八四年六月に丸大食品、九月には森永製菓を脅迫。一月には第四の標的にハウス食品工業を選び、名神高速道路を舞台にして一億円を奪おうとした。ハウス事件で、犯人グループの一人が現金受け渡し場所に近い滋賀県栗東町でパトカーの職務質問を受けそうになり、草津市内にライトバンを乗り捨てて逃げた。このとき車内に、警察無線が傍受できる無線機などとともに、カジュアルバッグとサファリハットが残されていた。カジュアルバッグは紺色の布製で、肩ひもつき。「ローヤル・インペリアル」のネーム入りで、同年二月に東京都墨田区の業者がつくった四百五十五個のひとつ。サファリハットはモスグリーン地に灰色が混じった男物でLサイズ。「全日本帽子協会」のネーム入りで、同製品は名古屋市熱田区の業者が八二年七、八月に六十九個を製造し、大阪や大津をはじめ全国の量販店で販売された。四人組は中年の男二人と二十代の男性、四十五歳くらいの女性一人で、草津事件が発生する数カ月前から、現場から車で約十五分ほどの大津市内のマンションの一室に頻繁に出入りしていた。この際、遺留品とそっくりのバッグと帽子を持っていたところを近所の男性が数回にわたって目撃した。さらにメンバーの一人は、江崎社長誘拐事件で目撃されたのと同型のワインレッドのハッチバックの車をマンションに乗りつけていた、という。また、江崎社長宅や草津事件の盗難車の中から見つかったアルミ片を扱う工場が近くにある。その後、間もなく四人組はマンションから転出した、という。

朝日新聞1993.12.21 

上記の4人(中年男性2名、20代の男性、45歳位の女性1名)に関するその後は不明だが、同4人は「滋賀県大津市内」のマンションに出入りしていたとの報道されている。なお、「出入り」という表現がこの4人の誰かがこのマンションの部屋を賃貸していたのか、それともこのマンションはこの4人の知人などの契約であり、そこに「出入り」していたのかは不明であるが、最後の一文に「転出」の言葉があるため、この4人は同所に住民票や当時の(当時の)外国人登録を定め滋賀県から「外」へ出たのかもしれない。

何れにせよ、 1984年11月14日、「滋賀県」内を舞台としたハウス食品工業脅迫の現金受取に失敗した同グループと「滋賀県」には――事件の発端の「昭和53年テープ」からその最後の逃走劇まで――何らかの関係性、関連性がありそうだ。

(5「滋賀県から海外へ」につづく)


★引用文献
不審女性の“似顔”作成 挑戦状投入目撃された/グリコ・森永事件 読売新聞  1986年9月16日付
「自転車の男」を一味と断定 読売新聞  1987年11月14日付
グリコ・森永事件関連のハウス食品脅迫 メガネ男の似顔絵を配布/合同捜査本部 読売新聞 1987年12月24日付
グリコ事件 見張り役の車いた 滋賀の現金取引未遂 名神近くの県道上 中日新聞  1990年11月14日付
男女4人組を追う 遺留品や車が似る グリコ・森永事件 朝日新聞  1993年12月21日付

★参考文献
・書籍
『未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言 NHKスペシャル取材班 2012年5月 新潮社』
・映像
『NHKスペシャル 未解決事件File.01 グリコ・森永事件』
そのた、新聞記事、個人ブログ、個人SNSなどを参照しました。


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Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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