記事『世田谷一家殺害事件:遺留品は何を語る』イメージ画像

世田谷一家殺害事件の犯人Xは、東急電鉄目黒線「奥沢」駅から東(東南、東北)方面半径3キロメートル内に所在する親族所有のマンションに住み、被害者A氏とは事件前から同親族を介する関係性を有し、事件当時は学生、アルバイト、無職の10代少年であり日常の移動手段は自転車だと推論する。

ここで疑問となるのが、犯人Xの親族、知人、友人等の周囲の人間達はXの犯行知らないのか?知っているが警察に通報等しないのか?となる。

上記の疑問は、犯人Xは親族所有マンションで一人暮らしだったのか?Xは知人・友人のいない孤独な少年、孤独を好む少年だったのか?に繋がる。

これ等の疑問を考える上で着眼点となるのは犯人Xの遺留品だ。犯人Xの遺留品から事件当時のXの生活状況(家族と同居か単身世帯か)、友人・知人の有無、友人・知人の生活圏等を考察する。

公表されている遺留品

世田谷一家殺害事件は、2000年12月30日午後または31日未明に発生した。

遺留品から推認される被害者A氏宅訪問時のXの着衣は、当然ながら防寒のためのジャンパー(エアテックジャケット)、クラッシャーハット帽子(これは近隣等から自身の顔を隠す目的もあったと思われる)、ボア付き手袋、トレーナー(ラグランシャツ)等である。

画像は、警視庁(祖師谷三丁目一家4人強盗殺人事件捜査本部)がHP等で公開しているXの(関の孫六の包丁を除いた)遺留品と販売時期、販売先等を纏めたものである。

犯人Xの遺留品のうち販売先が「ほぼ」特定されている商品は、①クラッシャーハット帽子(販売先:マルフル/MX等)②トレーナー(販売先:マルフル/MX)③ボア付き手袋(販売先:マルフル/MX、ジーンズメイト)、④ジャンパー(販売先:通販等含むユニクロ)⑤黒色ハンカチ(販売先:無印良品)の5点である。①から③の商品は、静岡県に本社があったカジュアル専門店「マルフル/MX(MXはメンズ・レディース複合大型店の名称)」(既に廃業)で揃えることができる。

上記5点のうち、Xの生活圏、Xの立ち寄り先、交友関係等を知るうえで最重要となるのは、警視庁捜査本部が着眼する②トレーナー(ラグランシャツ)だろう。なぜなら、ラグランシャツは、カジュアル専門店「マルフル/MX」だけで販売されていた商品であるため、Xが「マルフル/MX」を利用した可能性は極めて高いと推察できるからだ(盗んだ可能性もあるため断定はできない)。

では、Xはラグランシャツ等の遺留品をそれぞれ別の地域で購入したのだろうか?ラグランシャツを千葉県内で購入し、黒色ハンカチは都内で購入等したとの仮定は成り立つだろうか?犯人Xが運転免許を持たない10代の少年だと仮定するならば自分だけで行動きる範囲はそれほど大きくないだろう。

さらに言えば、前述①から⑤遺留品は、全国展開する店舗で発売された商品である。多数の遺留品や指紋、DNA情報を犯行現場に残した犯人Xが、証拠を隠すため、それぞれ、別地域の店舗に行き、商品を購入したとは考え難い。

遺留品①から⑤は、同一地域に所在する、それぞれの販売店で購入された商品だと考えられる。

上記仮説を指摘する報道記事が散見された。

(前略)小田急線本厚木駅周辺の厚木市内では、販売場所が特定されていないマフラー以外の遺留品を買いそろえることができ、同相模大野駅周辺ではトレーナーとマフラー以外の販売が確認された(後略)

『遺留品大半厚木で買えた世田谷一家殺害犯人生活圏の可能性』中日新聞2010年12月24日付

画像は、確認された事件発生当時(2000年)のNTT電話帳に登録のある主な地域別(厚木市内、八王子市内、多摩市聖跡桜が丘周辺、杉並区荻窪周辺)の「マルフル/MX」、「ユニクロ」、「無印良品」、「ジーンズメイト」の有無である。なお、「多摩市聖跡桜が丘周辺」は、2007年の電話帳を基に作成した。

同画像の図から、同一地域内に「マルフル/MX」、「ユニクロ」、「無印良品」、「ジーンズメイト」の4店舗が所在すのは神奈川県厚木市と多摩市聖跡桜が丘周辺(但し2007年の情報)であり、「マルフル/MX」、「ユニクロ」、「無印良品」の3店舗(ボア付き手袋は「マルフル/MX」でも販売されていたため、Xは「ジーンズメイト」を利用しなかった可能性もある)が所在するのは東京都八王子市だということがわかる。

やはり、犯人Xは神奈川県厚木市内を訪れ、遺留品のラグランシャツやエアテックジャケットを購入した可能性が高いのではないかと考えられる。では、犯人Xはラグランシャツやエアテックジャケットを「いつ」購入したのか?

東京都の城南地域に居住していたと推察されるXが、神奈川県厚木市を訪れたのは「いつ」なのか?移動に使った交通手段は何なのか?等を考察していこう。

遺留品の購入時期

犯人Xが①クラッシャーハット帽子(販売先:マルフル/MX等)②トレーナー(販売先:マルフル/MX)③ボア付き手袋(販売先:マルフル/MX、ジーンズメイト)、④ジャンパー(販売先:通販等含むユニクロ)⑤黒色ハンカチ(販売先:無印良品)を同時期に厚木市内で購入したと仮定した場合、その購入時期は、図1に記した④ジャンパー(販売先:通販等含むユニクロ)の販売開始時期2000年10月以降だと判断される。

また、①クラッシャーハット帽子(販売先:マルフル/MX等)が1999年9月から2000年11月までに3,465個販販売されていることから、犯人Xは2000年10、11、12月中にこれらの2点の商品を「マルフル/MX」で同時に購入した可能性がある。

犯人Xは、2000年冬に備え、2000年10、11、12月中に上着、手袋、帽子、トレーナーを購入したと推察でき、遺留品の靴(スラセンジャー)は2000年11月までに韓国内で4,530足製造されていることから、Xは靴(スラセンジャー)も同時に購入(Xのサイズと思料される日本サイズ27.5cm、韓国サイズ28.0cmは日本国内での販売はないといわれるが、リサイクルショップ等で中古品が販売されいたことも考えられる)した可能性がありそうだ。

画像図は、犯人Xが2000年10、11、12月に神奈川県厚木市内で購入した可能性が考えられる遺留品一覧である。

厚木市の「マルフル/MX」と「ユニクロ」

これまでの考察から、犯人Xが2000年10、11、12月中に訪れ商品購入した可能性のある厚木市の「マルフル/MX」と「ユニクロ」の開店時期及び所在地について調査を行った結果、「MX厚木店」は、1999年6月、運営会社「マルフル」により神奈川県初のロードサイド型店舗として出店された990㎡クラスの大型店舗であることがわかった。

同店の商品構成は、「サーフ」、「ミリタリー」スタイルを重視し、想定客層は、メンズ(6割)、レディース(4割)だといわれ、商品構成と客層に関連するブランド商品にも力を入れていたようだ。

近隣には、既に出店されていた「ユニクロ厚木林店」が所在していたが、2つの店舗(「MX厚木店」と「ユニクロ厚木林店」とも既に閉店している。

ここで次の疑問点として、この2つの店舗が小田急小田原線「本厚木」駅から北西方向へ直線距離で約2キロメートル離れた国道412号線沿いに所在するロードサイド型店舗だということが考えられる。

確かに、犯人Xの遺留品といわれる黒色ハンカチの販売先「無印良品本厚木店」等は、小田急小田原線「本厚木」駅周辺に所在する。このことから、Xは電車を使い「本厚木」駅を訪れたと考えることができるが、駅から約2キロメートル離れた前述2つの店舗まで①歩いて行ったのだろうか?②バス、タクシーを使ったのか?③誰かの車に乗り誰かと一緒に行ったのか?等の疑問が浮かぶ。

学生、アルバイト、無職の可能性が高いと推察される犯人Xが、ユニクロ等で服を購入するためタクシーを使うとは考え難い。残る可能性は、徒歩、バス、車となるが、そもそも犯人Xは、①誰かの車に乗り厚木市まで行ったのではないか?②厚木市内に車を所有する友人・知人等がおり、その友人・知人と車でユニクロ等に行ったのではないか?③厚木市内に犯人Xの勤務先、通学先等があったのではないか?等の仮説が成り立つ。

神奈川県厚木市は、夜間人口より昼間人口が多い地域である。同市内には多くの工場等が所在するため、犯人Xが同市内で働いていた可能性もあるが、誰かの車に乗り厚木市まで行った可能性を考え、厚木市内に車を所有する友人・知人等が居た可能性を想定し、引き続きXの親族、友人・知人の有無等について推理していこう。

エアテックジャケットの砂

過去のメディア報道等によれば、犯人Xの遺留品「エアテックジャケット」のポケットの中には、三浦半島の馬堀海岸(横須賀市)または北下浦海岸(横須賀市)の砂、市販飼料をエサとするスズメよりも小さな鳥の糞、観葉植物またはケヤキの花粉、ケヤキとヤナギの枯葉が入っていたといわれる。

これまでの考察から犯人Xは2000年10,11、12月中、神奈川県厚木市内で「エアテックジャケット」を購入したと推察される。つまり、犯人Xは2000年10,11月中または事件直前を含む同年12月に三浦半島の馬堀海岸または北下浦海岸に立ち寄った可能性(Xが同ジャンパー誰かに貸した。Xが誰から盗んだ可能性もある)が強く推察される。

上記の馬堀海岸(横須賀市)の最寄駅は京急本線「馬堀海岸」駅であり、北下浦海岸(横須賀市)の最寄駅は「YRP野比」駅である。果たして犯人Xは、電車を使い単身で神奈川県厚木市内や神奈川県横須賀市内の海岸を訪ねたのだろうか?

高速道路で移動か?

繰り返しになるが、本記事筆者は、犯人Xの居住地域を東急電鉄目黒線「奥沢」駅から半径3キロメートル以内の東京都内城南地域に居住していたと推測する。

Xが同地域から、2000年10月、11月、12月中に複数回(少なくとも2回)、神奈川県県央地域(厚木市)と神奈川県三浦半島に行ったとするのなら、第三者が所有、運転する車を使った可能性が高いのではないと推察している。

鍵は環状八号線

犯人Xが想定居住地域の東急電鉄目黒線「奥沢」駅から半径3キロメートル以内の東京都内城南地域から親族、友人・知人の車に乗り神奈川県の2つの地域に向かったのなら、東名高速道路または第三京浜道路玉川を利用した可能性が考えられ、その出発地は東名高速道路用賀ICまたは第三京浜道路玉川インターチェンジとなるだろう。

この2つの高速道路の出入り口は、環状八号線にある。以前からの考察どおり、犯人Xの生活圏は環状八号線に強い関係性があると思料される。

世田谷一家殺害事件の犯人特定の鍵は環状八号線にあるだろう。

犯人の周囲は事件を知っている

2000年11月から12月中の間、二度にわたり第三者が運転する車で神奈川県内を訪れたとするならば、運転者は同居する親族、同居しない親族またはXの居住地域付近に住む知人・友人、神奈川県内に居住する知人・友人だと推察される。

世田谷一家殺害事件の現場状況、遺留品状況から犯人Xは、突発的な暴力性を持つ人物、ADHD(注意欠陥多動性障害)の疑いのある人物、潔癖性的な性格の持つ人物だと推察することが可能である。

戦後日本の犯罪史に残る大事件を犯したXが日常的に友人・知人と一緒に行動していたのか?行動することが出来たのか?の疑問に対する明確な答えはないが、Xが親族のマンションに居住する少年だと仮定するならば、親族または親戚と同居していた可能性は高いだろう。

つまり、2000年10月から12月中の間、犯人Xは親族または親戚が所有、運転する車に乗り神奈川県内二か所に行ったと思料され、Xの親族を含む周囲の者は事件後のXの様子や挙動や報道を知り、Xと世田谷一家殺害事件の関係性に気づいていると推察される。

犯人Xの親族と被害者A氏が知人関係にあるならば、時期と回数は不明だが警察はXの親族に本事件に関する聴取等を行っていると思われるが、X親族が知っている真実を話すことはなかったのだろう(X親族側が拒否等した可能性もある)。

犯人Xの親族を含む周囲の者の勇気ある行動に期待する。

地蔵を置いたのは誰か?

犯人Xの遺留品ではないが、本事件から100日後の2001(平成13)年、4月9日(月曜日)、被害者A氏宅付近(仙川を挟んだ位置)に高さ約59センチ、重さ約19キログラム(地蔵本体の高さ約50センチ、重さ12.5キロ)の地蔵が置かれていた。

警察は同地蔵に強い関心を寄せているようだ。2024年1月10日現在も同地蔵に関する情報提供をHPで求めている。

警視庁発表によれば、同地蔵の材質は白御影石であり、本体と台座の2つの部位からできているようだ。

仮に犯人Xが単身で同地蔵を置いた仮定するとXは徒歩または自転車で地蔵を運んだこととなり現実感に欠ける。そう、もしも、同地蔵が犯人Xに関係するならば同地蔵の運搬手段は、Xの親族を含む周囲の者が運転する車となり、地蔵を置いたのはXの親族を含む周囲の者となるだろう。

犯人Xの親族を含む周囲は、Xの凶行を知っている可能性が非常に強いだろう。

世田谷一家殺害事件の被害者家族への供養は地蔵では足りない。

本記事筆者は、以前より世田谷一家殺害事件の解決の鍵はDNA捜査と法整備だと言い続けているが、もう一つの鍵は犯人X親族の勇気ある正義の行動だと考えている。


◆参考資料
『遺留品の購入、厚木でも可能世田谷一家殺害』産経新聞2010年12月25日付
『遺留品大半厚木で買えた世田谷一家殺害犯人生活圏の可能性』中日新聞2010年12月24日付
『東京・世田谷区の一家4人殺害:神奈川・厚木で遺留品入手可能捜査本部がビラ配布へ』毎日新聞2010年12月24日付
警視庁HP(外部リンク『上祖師谷三丁目一家4人強盗殺人事件』


◆世田谷一家殺害事件・考察シリーズ


Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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