メタバース(3次元仮想空間)に入り込む現実世界のルサンチマン
★ご注意:この記事には、漫画『ルサンチマン』のネタバレが含まれています。
日本時間2021年10月29日未明、SNSの巨人「Facebook, Inc.」が世界中の人々に親しまれブランド価値の高いその社名を「Meta Platforms, Inc.(通称,メタ)」に変更すると正式発表した。
また、同社の創業者CEOのマーク・ザッカーバーグは今後の10年、メタバース (3次元仮想空間)分野に年間1兆円以上の投資を行うとも報道されている。
以下は2021年11月22日に配信された「メタバース」や「旧フェイスブック社」に関するNHKの記事である。
あのフェイスブックが会社の名前を「Meta(メタ)」に変更するほど、本気になっているのがメタバース。オンラインにつくられた仮想空間で、思い思いのアバターで「生活」できるというものです。ゲームみたいなものだとたかをくくっていたら、実はリアル感あふれる会議から土地の売買まで、ビジネスの面でも動きが出ているのです。インターネットで次に来るのはコレ、とも言われるメタバースの世界を私と一緒にのぞいてみませんか。(経済部記者 岡谷宏基)
2021年11月22日に配信されたNHK経済特集
メタバース(3次元仮想空間) は、「超(meta:メタ)」と「宇宙(universe:ユニバース)」を合わせ造られた言葉であり、コンピューターネットワーク上の仮想空間は宇宙のような無限を想わせる。
利用者はVRヘッドセットと自分の分身「アバター」を使い、その無限の植民地を「第二の現実」として暮らすことになるかもしれない。起きて、遊んで、買い物をして、友人や恋人や家族をつくり暮らしていく。
そこでは、性格や容姿や性別、人種などの生得性属性も自由自在に変化させ理想の自分を設定(匿名での利用が可能だと思われるため)することが可能だろう。
だが、人はその新たな植民地を理想郷へと変えることが出来るのか?人は自分で設定した理想の自分と現実の自分との「裂け目」を上手に消化できるのか?
『ルサンチマン』漫画 メタバースの「猿」は第10帝国の夢を見るか?
メタバースで思いだされるのは、2000年代前半に話題となった『Second Life(以下、セカンドライフ)』と『セカンドライフ』から着想を得たとも思われる「花沢健吾」の傑作漫画『ルサンチマン』(2004年小学館『ビッグコミックスピリッツ』で連載開始)だ。
『ルサンチマン』漫画 あらすじ
この傑作漫画の舞台は2004年から約10年後の2015年の日本。
主人公の男性は、専門学校を卒業した後、無関係な工場に就職したデブ、ハゲ、メガネの29-30歳。
彼の唯一の楽しみは「ボーナス後」の風俗店。コミュニケーションが苦手で女性と話すことさえできず、「誕生日に親以外、祝ってくれる者」もおらず、当然ながら恋愛経験はない。
彼は、特異な容姿の現実社会の友人からバーチャル・リアリティ・オンラインゲームの美少女ゲームを紹介され、「仮想現実世界(アンリアル)」の中毒となる。
仕事を休み、実家の部屋に閉じこもり、自分の理想のアバターを作り、自身にはヘッドマウントディスプレイや感圧グローブ、ボディスーツを着用、性器にバーチャルセックス用の出力デバイスを装着し、現実と変わらない仮想現実世界へのめり込む。
この仮想現実の世界の住人(正確にはこの仮想現実の世界は「超巨大なMMO(複数のゲームの世界が一つの世界に同時にあるようなイメージ)」なので主人公の周囲の者は、 美少女ゲーム のプレイヤーが多い)は、「生まれた時から敗北者」「俺達にはもう仮想現実しかない」「この下らない現実から逃れ心も肉体も全てアンリアル(仮想現実)の住人になる」「現実世界から解脱する(自身の記憶を理想的な記憶に書き換える)」などの「ルサンチマン(弱者が強者に対して、「憤り・怨恨・憎悪・非難」の感情を持つこと)」を抱えている。
そして、そのようなルサンチマンを抱える者達のなかにある一人の「男性」がいる。
彼はこの仮想現実世界(アンリアル)で「第九帝国の総統」を名乗り、現実世界(リアル)世界への宣戦布告を行う。彼の演説はこうだ。
昼間っからずいぶん多く集まってんな。やることないのかお前ら。全員マスクを取れ!
ねくら、ブサイク、ハゲ、デブ、チビ、無職に…ひきこもり、誕生日、クリスマス・イブ、バレンタイン・デー。存在感もなく、自分の顔をすてた、究極の受難者よ…
自らを憎み、現実を憎んだ我々が、今こそ現実世界に絶望を与えるのだ!!
ゴキブリの徘徊する、薄汚い、一日中カーテンを閉めきった4畳半の部屋から…
現実世界に宣戦布告する!
漫画『ルサンチマン』第四巻(作者:花沢健吾 2004年小学館) P61-63
『ルサンチマン』漫画の希望とメタバースの希望
「現実世界で虐げられきた者達の戦いの結果」や「 第九帝国の総統 」の現実世界の正体や主人公のその後は内緒にしておこう。
世界で最も有名な出会い系サイトとも揶揄される「facebook」の運営会社がその名前を捨て、新たな仮想現実の無限の宇宙を目指し始めた。
われわれ一般ユーザーもその宇宙に旅立つだろう。そこでわれわれは、人格や容姿や性別や年齢や人種などの生得性属性さえも自由自在に変化させながら理想の自分として生活するかもしれない。
ただし、 理想の自分と現実の自分との「裂け目」を上手に消化できず、われわれの「ルサンチマン」が現実世界に攻撃を加える可能性を考えなければと思う。
その時は『ルサンチマン』第四巻―――主人公の最後の台詞を思いだしたい。
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