
東京下町の静かな住宅街で、死は静かに、そしてあまりに不自然な形で積み重なっていた。2026年1月13日、東京・江戸川区の一角にある古いアパートで、押し入れの奥に隠されていた「第二の死」が発見された。
数ヶ月前に病死した住人と、その傍らで段ボールに詰められ、ビニール袋に包まれて「梱包」されていた遺体。なぜこの密室で二つの命は消え、そしてなぜ一方は「残置物」のような姿で放置され続けたのか。
本記事では、事件の凄惨な舞台裏と、現代社会が抱える身元保証制度の歪み、そして真相究明を阻む「法的な壁」について考察する。
事件概要:閑静な住宅街に漂った「異臭」の正体
2026年1月13日、火曜日。冬の澄んだ空気の中に、その異変は突如として現れた。 現場は、東京都江戸川区一之江2丁目に所在する2階建てアパート。都営新宿線『一之江駅』から北東へ徒歩約16分、隣の『瑞江駅』からも20分以上を要する、地域住民以外の足が遠のく穏やかな下町の住宅街である。
正午過ぎ、警視庁に寄せられた一通の通報が、この街の平穏を切り裂いた。
――毛布にくるまれた段ボールから異臭がする――
通報の主は、現場となった築46年の木造アパート「Tコーポ(仮称)」の大家だった。警察官が2階の一室(2K・約27平米)に踏み込み、押し入れの奥を確認したところ、そこには言葉を失う光景が広がっていた。
折り曲げられた状態でビニール袋に入れられ、さらに重厚な段ボールに収められた、性別不明の遺体——。腐敗が著しく進んだその遺体は、何層もの「梱包」に包まれ、静かに発見の時を待っていたのである。
「空白の2ヶ月」が露呈させた賃貸管理の闇
この凄惨な発見に至る道筋は、昨年末まで遡る。警視庁の調べによれば、この部屋の正規住人であった人物(以下、人物A)は、2025年11月に病死していた。
それから約2ヶ月。空室となったはずの部屋に、遺品整理と原状回復のために大家が立ち入ったことで、押し入れに隠されていた「もう一つの死」が露わになった。
なぜ、これほどまでに発見が遅れたのか。その背景には、現代の賃貸住宅管理が抱える構造的な欠陥が見え隠れする。
保証人制度の形骸化と孤立
1980年前後築、家賃5万円台。こうした低廉な木造アパートは、都会における単身高齢者や生活困窮者の貴重なセーフティネットとして機能している。
しかし、人物Aに適切な親族や連帯保証人がおらず、勤務先などの連絡先も形骸化していた場合、住人の死後、管理側が室内へ立ち入るまでの法的なハードルは必然的に高くなってしまう。この「時間のロス」が、遺体の腐敗を進行させ、事件の発覚を遅らせる一因となった可能性は否定できないだろう。
「情報の空白」を生んだ同居人
もし今回発見された遺体(以下、人物B)が人物Aの同居人であり、かつ緊急連絡先や保証人を兼ねていたならば、事態はより深刻である。連絡の起点となるべき人物自身が「段ボールの中」にいたのであれば、周囲が異変に気づく術は物理的に断たれていたことになる。
この情報の断絶が、異臭が漏れ出すまでの2ヶ月間、凄惨な現実を押し入れの中に封じ込めたのともいえるだろう。
今後の捜査と「二つの死」の相関関係
警視庁は死体遺棄事件として捜査を開始しているが、今後の焦点は人物Bの死因特定と、Aとの「死の前後関係」の解明にある。捜査当局は、DNA鑑定や歯型を用いた身元特定を急ぐとともに、以下のシナリオを軸に、刑事責任の所在を多角的に検証となるだろう。
他殺・不適切な関与の可能性
人物Aが何らかの形で人物Bの死に関わったケース。ここでは「死に至るプロセス」によって、適用される罪状と、その背後にある人間模様が大きく異なる。
- 殺人罪・傷害致死罪: Aが明確な殺意を持ってBの命を奪った、あるいは口論の末の暴行などが死を招いた場合。
- 保護責任者遺棄致死罪: Bが病気や衰弱で救護を必要とする状態であったにもかかわらず、Aが通報や加療を怠り、結果として死に至らしめた場合。
- 過失致死罪: 不慮の事故など、Aの不注意によってBを死なせてしまった場合。
いずれのケースであっても、その遺体を隠匿するために梱包・放置した行為には、別途「死体遺棄罪」が成立する。
罪状の裏側に想定される「背景」
ではなぜ、一室で共に暮らしていたはずの二人は、このような結末を迎えなければならなかったのか。想定される罪状からは、都会の死角で起きている「生活の綻び」が見えてくる。
「殺意」なき悲劇:介護疲れと孤立(傷害致死・保護責任者遺棄致死)
この限られた空間での同居生活は、ひとたびどちらかが介護や看護を必要とする状態になれば、瞬く間に閉塞感を増す。外部との接触が途絶えた中で、精神的に追い詰められたAが突発的な行動に出た(傷害致死)、あるいは衰弱していくBを前に、自らの困窮や発覚への恐怖から通報できずに見守るしかなかった(保護責任者遺棄致死)という構図である。
これは「老老介護」や「共倒れ」の果てに起きる、現代特有の悲劇と言える。
「隠蔽」の論理:生活維持のための沈黙(死体遺棄)
人物Bが病気などの自然死であったにもかかわらず、人物Aがその死をあえて「隠した」場合に想定される背景である。
そこには、家賃の支払継続やBの死の発覚による退去への恐怖、あるいは年金等の不正受給といった、切実かつ歪んだ経済的理由が潜んでいた可能性が高い。例えば、Bの収入や公的年金等に依存して生活していた場合、その死を公表することは、即座に自らの生活基盤を失うことを意味する。
ビニールや段ボールを用い、多層的に遺体を包み込むという執拗で手間のかかる作業。それは、死臭を封じ込め、Bの死後も「この部屋で生き続けなければならない」と願った人物Aの、孤独な執着と歪んだ切実さの表れだったのかもしれない。
崩壊した「信頼」:第三者の介在の影
Bの遺体が「梱包」されていた状況は極めて人為的であり、そこには冷徹なまでの強い隠蔽の意志が看取できる。
しかし、死後硬直が始まった遺体を狭い室内で処置し、段ボールに収める作業は、一人で行うには困難を伴う重労働である。果たして昨年病死した人物A一人でこの処置が可能だったのか。もしA以外に関わった「第三者」が存在したとすれば、そこには単なる同居人としての枠を超えた、反社会的な繋がりや複雑な利害関係が介在していた可能性も浮上する。
「共犯者」はいたのか、あるいはAが孤独の中で最期まで秘密を守り抜いたのか。周辺の防犯カメラの解析や聞き込みによる徹底した「動線の確認」が、真相究明への急務となる。
待ち受ける法的な結末:「被疑者死亡」という壁
本事件において、真相解明を阻む最大の壁は、Bの死の真相を知る唯一の人物と目される人物Aが、すでにこの世を去っているという事実である。
仮に捜査の結果、人物Aによる殺害や遺棄の事実が立証されたとしても、刑事訴訟法に基づき、検察は「被疑者死亡による不起訴処分」を判断せざるを得ない。
警察は捜査終了後に「被疑者死亡」のまま書類送検を行い、事件は法的な決着を見る。しかし、それは同時に「なぜ彼らは死ななければならなかったのか」「なぜ段ボールに詰められたのか」という核心部分が、永遠に当事者の口から語られないことを意味する。
結び:都会の死角で共鳴する孤独
「被疑者死亡」で幕を閉じる可能性が極めて高いこの事件は、司法の枠組みを超えて、重い問いを社会に突きつけている。
駅から16分歩かなければ辿り着けない築古のアパート。そこは、社会の目が届きにくい「死角」であった。下町という、かつては牧歌的な共同体を思い起こさせた地域で、住民の日常のすぐ隣に潜んでいた二つの死。段ボールの中で折り曲げられていた人物Bは、誰からもその死を悼まれることなく、2ヶ月もの間、病死したAと静かに「同居」を続けていた。
約50年前に建てられたそのアパートは、幾多の住人の営みを見守ってきた。その壁の内側で起きた今回の悲劇は、単なる猟奇事件ではない。血の通った交流が失われ、死さえも事務的な「残置物」として処理されるまで放置される——現代日本が抱える「究極の孤独」の断面図そのものなのである。
◆出典・参照元
TBS NEWS DIGニュース速報(2026年1月13日 15:33配信)
不動産アーカイブ資料「LIFULL HOME’S」物件情報
◆特異事案・遺体遺棄事件アーカイブ



























