「とりあえずあれを買いに行こう…」
人間の生活の苦しみは、愛の表現の困難に尽きるといってよいと思う。この表現のつたなさが、人間の不幸の源泉なのではあるまいか。
太宰治『惜別』
概要
2018年7月4日の深夜から、翌日5日の早朝4時半頃にかけて、若い女性が自室から姿を消した。千葉県佐倉市在住(当時)の、山野下せい香さん(以降せい香さん・当時21歳)である。彼女は千葉駅前にある焼き鳥店で、週に5日働いていた。
家族によると、失踪当日である7月4日も出勤日であり、せい香さんはいつもより遅く帰宅した上、最後に姿が確認された23時半頃になる前にも、何度か外出と帰宅を繰り返していた。最後の目撃者は母親Aさんで、それは、せい香さんの部屋に氷嚢を持って行った時であったという。氷嚢の用途は職場で負った火傷の手当ての為か、あるいはその夜単純に暑かったという理由からであろうか。
その時、せい香さんは手紙と思われる書き物をしていたが、それ以外には普段と変わった様子は無かったという。しかし翌日5日の早朝4時半頃に、トイレに起きたAさんがせい香さんの部屋を覗いた時には、既に彼女の姿は無かった。
机の上にはノートが開いた状態で置かれており、せい香さんが家族に向けて残したとみられるメッセージが記されていた。
かってに居なくなってごめんね
出典:ABEMA Prime 2019/07/04 ノートに謎の一文とTwitterに不思議なリプライを残し、娘が失踪…母親「声を聴かせて欲しい」
笑ってくれてありがとう
はげましてくれてありがとう
私は、皆の神様になります。
ラビ(注:ペットのウサギ)も(伏せ字:妹の実名)もママもパパも皆幸せになって下さい
ママ、(伏せ字:妹の名前)めいわくかけてごめんね。
まよったけっかがこれだった。
さいごに笑ってる姿見れて良かった
(伏せ字:妹の彼氏の名前)と仲良くね。
本当にありがとうね。
せい香さんの自室には、自宅の鍵、千円札が数枚入った愛用の財布、スマートフォン等の身の回り品が残されており、家族にわかる範囲では、着替えや下着等の衣類が持ち出された形跡は無かったが、金額は不明ながら貯金箱の中身が全て無くなっており、彼女が当座の資金として持ち出したものとみられている。また、失踪から数日の間、せい香さんがいつでも帰宅できるよう、家族は自宅の玄関ドアを施錠しなかったが、その間に財布の千円札が二枚減ったとの情報がある。
更に財布の中からは、市販の“睡眠改善薬”四箱(48錠分)の購入履歴が確認できる薬局のレシートが見つかった。これは恐らくTVCM等でそれなりの知名度がある、第②類医薬品である。購入には個数制限があり、価格も一箱(12錠・1回2錠・6日分)で2000円程度と決して安価ではないが、帰りが遅くなり外出もあった7月4日は、その間ドラッグストアのはしごをして、入手できる限りの数を買い求めていたのかもしれない。部屋のゴミ箱からは、中身の錠剤が抜かれたパッケージだけが見つかっている。
書き置きの「皆の神様になります」や、大量の「睡眠薬」の空き箱(実際には睡眠改善薬と睡眠薬は異なる)、加えてせい香さんがこの所、交際相手との関係で悩んでいた事から、最悪の事態を想定した家族は、7月5日のうちに佐倉警察署へ捜索願を提出、警察は交際相手に事情を聴くなど一定の捜索活動を行ったが、彼女の行方が判明する事は無かった。
それ以降、2024年2月現在に至るまで、事件性や緊急性が確認できなかった為か、警察による積極的な捜索は行われていないようである。
家族によると、せい香さんは交際相手と別れたばかりであり、彼に本心を伝えられなかった事を後悔していたという。母親Aさんは「皆、そのような苦しみを経験している。せい香さんだけではない」と慰めたが、彼女はかなり気落ちしており立ち直っていなかったという。
後に彼女のものであると特定されたTwitter (当時)のアカウント“カノキドщ(゚д゚щ)カモーン@seikad136”には、失踪当日の夕方から深夜にかけての発言も残されている。
件の交際相手のものとされる”R氏“(仮名)なるアカウントとの間でも、互いに未練があるかのようなやり取りが失踪直前まで行われていた。20時48分には、彼に宛てて手紙を書いたという発言もあるが、その内容は、手紙が実際に存在したか否かも含め、明らかにはなっていない。その会話の後、せい香さんはR氏のアカウントをブロックしているという。 また、2024年2月現在では削除済みのアカウントと思われる、表示できないアカウント(@dJJTFWcST3XAx7C)との会話の履歴も存在し、発言自体も既に表示できない状態ではあるが、内容から見て、せい香さんの(R氏以前の)交際相手と解釈することも可能である。
(表示できないアカウント)宛の発言「もう二度と会うことはないでしょ。ありがとう」
(表示できないアカウント)宛の発言「支えも応援もいらないです。」
もう大丈夫だよ。自分のやりたい事見つかったから(´∀`)心配しないでw」
(表示できないアカウント)宛の発言「素敵な彼女さんとお幸せにねヽ(*´∀`)ノ」
「こう見るとめっちゃ買い込んだな…まぁ!効果はあるだろ!とりあえず時間待つか…」
「時間まで何やってようかな。なり残したこと全てやってみるか」
「今まで本当にありがとう 頑張ってくれよ 今まで貰ってきたもの 捨てたりしないから励ましになるからさそれじゃ、、、ありがとう seika」
「またどこかで会おうね。」
「ちゃんと君らのとこ見てるからまたね」
「最後まで見守っててあげるから。頑張れ」
最後に手紙を書いたんで届いたら読んでください。汚い字になっちゃったけど」
「これだけ持っていく…」(2024年2月現在確認できるせい香さん最後のツイート)
加えて、せい香さんには交際相手とは別に、Twitter (当時)上で親しく会話するアカウントがいくつか存在し、内容も気軽な挨拶の他、交際相手との確執についての会話も多い。とくに“F 氏”(仮名)のアカウントからは、失踪の一年以上前から、せい香さんを事ある毎に慰め、鼓舞する発言があり、7月4日、彼女が失踪の意思を見せ始めた時も、考え直すよう、最後のツイートの30分程前である22時31分まで何度も呼びかけを続けているが、以下の会話を最後に、せい香さんからF氏への反応は途絶えている(DMや他の通信手段でメッセージをやり取りしていた可能性はあるが、明らかになっていない)
「なぁ?この先もそうしているのか?余計辛くなるぞ?」
「十分辛いわ…だからほっといてよ…なんも言ってこないで…」
交際相手とみられるR氏のアカウントは、せい香さん失踪発覚の翌日2018年7月6日朝に「この人を探しています」と、以下の様に彼女の過去ツイートのスクリーンショットを投稿している。
画像のせい香さんはフード付きのコスプレ衣装を身につけ、顔は画像編集で完全に隠した姿であり、提供されている情報も、身長が165cm位で眼鏡をかけている事、住所が千葉県佐倉市である事(家族によるとせい香さんの身長は161cmであるとされ一致していない)のみである。
出典:せい香さんの交際相手とされるR氏の、2024年2月現在確認できる最後のツイート。せい香さんの過去ツイートのスクリーンショットを添付して、拡散とDMを求めている。
しかし、せい香さんが7月5日に職場へ出勤していない事をその日のうちに投稿し、6日の時点で失踪の正確な時間帯を把握している所から、家族とも接点があるのは確実であろう。このアカウントは、少なくとも表面上は、この投稿以降2024年2月現在に至るまで一切の活動を停止している。
失踪直前までせい香さんと親しく会話していたF氏のアカウントも、前述の2018/07/04 16:26の発言の後、せい香さんによる2018/07/04 20:35の、「めっちゃ買い込んだ」という発言に「お前…まさか…」と反応して以降、その日の22時31分まで、「約束が違う」「戻ってこい」等の呼びかけを続けていたが――<F氏>2018/07/04 22:31「それが彼の為だとか言ってんじゃねーよ・・・(´;ω;`)」――という投稿を最後に、Twitter (X)上で会話した事があり、フォロワーとして動向を把握できる筈の、翌々日のR氏による「この人を探しています」のツイートにも拡散等の反応を見せる事はなく、R氏と同様、2024年2月現在に至るまで一切の活動を停止している。
自室に残されたせい香さんのスマートフォンからは、「睡眠薬」「自殺」といったキーワードによる検索履歴が見つかった。詳細に調べたのであれば、その結果として、当該の“睡眠改善薬”が目的の達成に最適であるという結論に達するとは少々考えにくいのであるが、番組内でコメントを求められた薬剤師によると、彼女が購入した量であっても、アルコールと併用すれば、命の危険を誘発することが十分あり得る量なのだという。
スマートフォンのメモ帳アプリには、失踪発覚の3日後である7月8日に佐倉駅で、人と会う約束がある事が記録されていた。自室内のカレンダーにも同様の予定が記入されており、せい香さんが「睡眠薬」「自殺」のキーワード検索をした事や、睡眠改善薬の大量購入は、衝動的なものであった可能性が示唆されている。しかし、8日に約束のあった相手には、会いたくない旨の連絡をLINEで送っているといい、その日の約束も実現してはいないようである。
家族はせい香さんの失踪から3ヶ月ほど経過した2018年の9月末には、TBSテレビの公開捜索番組『緊急!公開大捜索‘18秋』に出演、失踪から1年後の2019年7月4日にはインターネットTV局であるABEMAのニュース番組ABEMA Primeに出演し、情報提供を求めた結果、TBSテレビには東京都・秋葉原での目撃情報が2件寄せられている。
1件目は、2018年8月。秋葉原のメイド喫茶に、せい香さんに似た女性が、男性と共に客として訪れていたという情報。2件目は2018年9月16日。やはり秋葉原で、情報提供者が訪れた“ハリネズミカフェ”の女性店員がせい香さんに似ていたという情報であった。
特に2件目の情報は、彼女が元々アニメやゲームに興味を持っており、秋葉原に惹きつけられる素地がある事に加え、ウサギを飼い、ハリネズミのマスコットを机の上に飾る等小動物好きでもあった事、ハリネズミカフェは秋葉原でも店舗は2軒と希少であり、検証が容易である所からも注目されたが、失踪事件の解決には繋がっていない。
2020年12月、事態に変化があった事がABEMA Primeで報じられた。いつ主が戻ってきてもよい様に、失踪時のまま保存されていたせい香さんの部屋から、いつの間にか帽子二つとコート数着、財布の中から更に千円札が一枚なくなっていたのだという。
母親Aさんは、せい香さんが自分たちに生存を伝えるためのメッセージとしてこのような事をしているのではないかと話し、その理由としては、せい香さんには“知的障害”があり、たとえ家族であっても自分の思いをうまく伝えられないからなのではないかと推測している。
せい香さんは自宅の鍵を置いて家を出た為、元は自宅とはいえ、侵入はそう容易ではない筈であるが、失踪が計画的なものであり、どうしても物資が足りなくなった時には自宅から持ち出す事も想定していた場合、合鍵を作っておく等の準備を整えていた事も可能性としては考えられる。
また、防犯上の問題は承知の上で、鍵を持っていないせい香さんが、家族の留守中でも家に入れるよう、家族が敢えて自宅の玄関ドアに施錠しないままでいる事も考えられる。
番組にゲスト出演していた西村博之氏は、せい香さん自身が自宅に侵入した事を前提として「本当に困っているならもっと金目のものを持ち出すはずであり、失踪から三年近く経過している事を考えると、既に生活の基盤は整っているのではないか」と指摘しているが、インターネット上では「再び事件に注目させて警察等を動かすための、家族による自作自演なのではないか」とみる向きもある。 母親Aさんは、どんな事があったとしても、自分たち家族はせい香さんの味方であると話し、戻ってきたせい香さんの目に止まるよう、彼女の自室の机の上に開いたノートにメッセージを記書き置きしている。
せい香 家族が心配しているから
出典:ABEMA Prime 2020/01/07消えた帽子とコートは、帰宅していることを伝えるメッセージ? 失踪から1年半、娘の帰りを待つ家族
家に帰ってきてほしい。
連絡でもしてほしい。せい香の帰りを家族
みんなで待っているからね
一人 悩まないでほしい。
手がかりとその検討
ここから、千葉県佐倉市21歳女性失踪事件(山野下せい香さん行方不明事件)の手がかりとその検討に移ろう。
山野下せい香さんについて
失踪したせい香さんは前述の通り当時21歳の女性で、身長は161cm (交際相手によると165cm位)、体重は45kgと全体的に痩せ型で、色白。眼鏡をかけている事が多いが、外しても日常生活が可能な程度の視力はあったという。
右手首には火傷等の傷があるというが、これが自傷によるものかどうかは明かされていない。公開された自室のデスク上のレイアウトからは、利き手は右である事が窺われる為、仕事先である調理場等で負った負傷である可能性のほうが高いのかもしれない。
少なくとも2015年5月から運用されている彼女のTwitter (X)内で、自傷を匂わせる発言は見当たらない。 性格については人見知りで内気とされるが、少なくともTwitter (X)上の発言からは、その様な性質を見てとる事は難しい。むしろ考えた事を吟味せずに口に出してしまうタイプであるようにさえ見える。
自宅では母親Aさん、妹との三人で生活をしており、せい香さんの書き置きには父親の幸せを願う文言が含まれているが、別に暮らしている理由は不明である。
Twitter (X)上には母親が男性を自宅に招いた(そして、その事に良い印象を持っていない)と思われる投稿があり、別居の理由は両親の離婚である可能性がある。
出典:山野下せい香さんのTwitter (X)プロフィール
趣味はゲームやアニメで、イベント参加やコスプレにも興味があったようだ。Twitter (X)での投稿のほとんどはこれらの趣味と、恋愛や交際相手についての思いを吐露するツイートで占められている。また、プロフィールにもあるように料理好きであったようで、フードデザインに関する教育を受け、卒業後の進路も飲食店を選択している。
2020年1月7日放送のABEMA Primeで家族が明かした所によると、せい香さんには知的障害があった。彼女の住む千葉県佐倉市には、フードデザインコースが設置された特別支援学校が存在し、その卒業生である可能性が高い。尤も、ツイートや書き置きの文章を見る限り、日常生活や意思の伝達に支障はありそうにない。
しかし、母親Aさんの説明によると、(障害のために)「たとえ相手が家族であっても、思いを伝えることが苦手」なのだという。知的障害にはASD (自閉症スペクトラム障害)が伴う場合がある事が知られており、その典型的な症状として、こだわりの強さや興味の偏り、相互的なコミュニケーションの困難がみられるという。Aさんの説明は知的障害というよりはこのASDの特徴に近い。
確かに、Twitter (X)上の発言を見た限りではあるが、せい香さんの発言は歯にものを着せず攻撃的である一方で、自分が裏切られた事や、他者の行いで受けた精神的苦痛を訴え、慰めや配慮を求めるものも多い。他者が自分の発言で傷ついたり、憤慨したりしている事を読み取れず、近しい人々が次第に自分から離れていったり、態度が冷たくなっていく理由をASDのために理解できない事が、「生きづらさ」を招いていたとも考えられる。
“睡眠改善薬”について
せい香さんが購入した睡眠改善薬の成分は、古くから風邪薬等にも配合されてきたアレルギー症状を抑える薬品であり、その副作用としての鎮静作用(眠気を誘う)を睡眠の改善に利用したものであって、多くの睡眠薬のように意識を消失させるような作用はない。また、風邪薬でいつも眠気が出る訳では無いように、安定した効果が見込める訳でもない。
人体に対する半致死量についての確実なデータは無いが、“睡眠改善薬”として販売されて以来、その鎮静効果を狙ったオーバードーズの対象となる事例が増加したという。同じ成分の比較的安価な抗アレルギー薬を大量摂取、死亡した例も存在するが、件の“睡眠改善薬”48錠に含まれる薬品の量はその10分の1程度である。とは言え使用方法によっては命の危険があるのは前述の通りである。
せい香さんに、この“睡眠改善薬”の使用歴があるかどうかは不明であるが、失踪当日の「まぁ!効果はあるだろ!」という発言からは少なくともオーバードーズの経験は無いのではないかと思われる。正規の使用量で眠気が起きる事を確認した程度の経歴であると考えるのがしっくりくる。
確実にこの世から去ろうと考えているのであれば、もっと時間をかけて大量に買い込むか、自宅において、実験的にオーバードーズを試す等の段階を踏むように思われる。彼女は当日夕方になって「とりあえずあれを買いに行こう」とツイートし、その後は「もう大丈夫だよ。自分のやりたい事見つかったから(´∀`) 心配しないでw」「ちゃんと君らのとこ見てるから またね」と、直前までのネガティブな発言とは違い、どこか肩の荷が下りたような発言を続けている。 1998年に発生した「ドクター・キリコ事件」では、致死性の毒物を与えられた自殺志願者たちの多くが、“お守り”としてそれを保管し、それを服用せず踏み止まった事が知られている。いつでも使える“お守り”がある事への信頼感が「生きづらさ」を軽減する事はあり得るだろう。
複数アカウント運用疑惑
せい香さんはTwitter (X)で親しくやり取りをするアカウントが複数存在したが、そのうちの、少なくとも一つのアカウントを作成した際の確認メールが彼女自身のスマートフォンから見つかっているという。
勿論、複数アカウントを使い分ける事自体は禁止行為でも何でもなく、むしろよくある事なのであるが、彼女はそのアカウントを自分に有利な発言をする“味方”としてDMでのやり取りの自作自演をし、交際相手にそのやりとりのスクリーンショットを送っていたのだという。
そのアカウントが特定されておらず、失踪直後から突然それらのアカウントにほとんど動きが見られなくなる事、総じてせい香さん自身と口調が似ている事、交際相手とみられるアカウントが失踪のひと月前に作成されたばかりのものであった事等の要素から、インターネット上では、失踪の直接の原因であると思われる交際相手との別れも含め、全て何者かの自作自演なのではないかという極端な見方がされる事もあるが、会話をくりかえす内に口調は互いに似てしまいがちであるし、少なくとも最後までせい香さんに思いとどまるよう呼びかけていたF氏のアカウントには一年近くの運用歴があり、趣味嗜好にも当初から違いがあった事から、別人である可能性が高いと思われる。せい香さんの失踪にみられる衝動性を考慮すると尚更である。
自宅への侵入者について
せい香さんの失踪から数日の間に一回と、失踪から一年半までの間にもう一回と、彼女の自室から紙幣、衣類がなくなったという件であるが、家族で口裏を合わせた上で自作自演を行なった可能性は低いように思われる。せい香さん本人が自由に自宅へ侵入できる状態であることが判明してしまうと、障害があるとは言え、自活が可能な成人女性の家出である事が確定してしまい、警察が動く可能性を一層低くしてしまう恐れがある。
一方で、母親Aさんにせい香さんの生存の可能性を示して少しでも安心してもらいたい一心で、家族や知人らが彼女の侵入を偽装する事はあり得るように思う。西村氏は自宅にカメラ等を設置して真相を確かめるよう助言しているが、その後設置したかどうかを含め、何らかの動きは報告されていない。
せい香さん本人に自宅へ侵入する動機があるかどうかは何とも言えない。一般的には、西村氏の言う様に、金目のものを持ち出す以外に自宅へ忍び込む理由は考えられないように思われるが、ASDを持つ彼女特有のこだわりによって、例えばどうしても手元に置いておきたい衣類等があったとも考えられる。
真相考察
せい香さんが自発的失踪を遂げ、今も生存している可能性は高い。発達障害や感情のもつれから、人間関係やTwitter (X)でのやりとりでコミュニケーションの齟齬を生じ、「生きづらさ」を募らせた彼女が一時は自殺も考えたのは間違いないだろうが、同時に、その一端を担ったスマートフォンを手放して、“お守り”の睡眠改善薬だけを手に、一人で深夜の街に出た瞬間には、奇妙な解放感を感じたのではないだろうか。
インターネットやSNS上で完結してしまう希薄な人間関係が、無縁社会と呼ばれる社会問題の一因となり、個人の孤立を助長している事もまた事実ではあろうが、そもそも家族との関係や、現実の恋愛、SNS上の友人関係にさえも生きづらさを感じてしまった者に、人との絆や繋がりを説いたところで苦痛しか呼び起こさない時もあるだろう。そういった時に必要なのは、一旦距離を置いてみる事である。
地縁血縁で人間関係が固められていた時代には、どれほど生きづらくても、逃げ出して人生のリセットを図る事は許されなかったが、現代では生まれた土地を遠く離れて働く事も、必要な時だけ適宜繋がりを求める事も可能である。
せい香さんは飲食店での実務経験や料理の腕もあり、飲食業界が人手不足の昨今、身分証等が無くとも職を得る事は可能である様に思われる。巡り合わせが良ければ、同じ様な「生きづらさ」を知る理解者を得る事も出来ているかもしれない。
たとえ一度の「リセット」では上手くいかなかったとしても、彼女はもはや、どこにでも行く事が可能であろう。
そして、生きてさえいれば、いずれは家族や友人たちの思いと向き合い、うまく自分の思いを伝えることができる日が訪れる事もあるだろう。
いずれ、その日が来ることを願ってやまない。
◆参考資料
『ノートに謎の一文とTwitterに不思議なリプライを残し、娘が失踪…母親「声を聴かせて欲しい」』ABEMA PRIME 2019年7月4日
『消えた帽子とコートは、帰宅していることを伝えるメッセージ? 失踪から1年半、娘の帰りを待つ家族』ABEMA PRIME 2020年1月7日
◆女性の行方不明事件