グリコ・森永事件 検証-3 『事件前(周到に準備された計画)』

グリコ・森永事件-3

グリコ・森永事件 事件前 周到に準備された計画

「検証 グリコ・森永事件①『事件は滋賀県から始まり滋賀県で終わった』」「検証 グリコ・森永事件②『昭和53年テープの男』」において「警察庁広域重要指定114号事件(「グリコ・森永事件」)」に「関係性があるのでは」とメディア等から指摘されているから「黄巾族:1976年(昭和51年)頃」「昭和53年テープの男:1978年(昭和53年)頃」に触れながら当時の時代背景などの検証を行った。

昭和50年代は、学生運動、左翼過激派のゲリラ事件、外国からの工作員(スパイ)等が平穏な日常に溶け込んでいた時代だった。

今回は グリコ・森永事件の発端の事件、1984(昭和59)年3月18日21時頃、発生した「江崎グリコ社長誘拐事件」までの犯人グループ(「かい人21面相」を名乗るグループ)の動きを検証してみよう。

グリコ・森永事件 犯人グループの動き

過去の新聞・雑誌記事、同事件を扱った書籍などから、事件当日の1984(昭和59)年3月18日21時頃までの犯人グループの準備を整理した図表は以下のとおりである。

報道されている範囲で確認できるグリコ・森永事件の犯人と思われる者(達)の行動および年月日、曜日

犯人(人物)の行動/人物の特徴(人数)年月日時間曜日
昭和53年テープ 江崎グリコ常務宛てに送られてくる
人数(1名~不明)男性A 初老の男性の声
1978/8/17着は木曜日投函は火曜日、水曜日か?
脅迫状の送付に使用された「使い古された速達印」の製造業者は
愛知県豊田市の業者(2000.01.22 毎日新聞)
購入時期不明不明
犯人グループは東京秋葉原で犯行に使用したと思われる無線機、カセットテープを購入
「山下」と名乗る男性が犯行に使われたタイプライターの文字盤を神田の事務機器販売店で購入(1986.03.13 NHKニュース)
1982/12~1983/1頃不明
何者かが江崎グリコ社長の世帯全員分の住民票取得
(2000.01.12毎日新聞)(2000.02.03読売新聞)
(『キツネ目の男:岩瀬達哉,著:講談社』)
1984/3/7水曜日
江崎グリコ社長宅付近での不審者目撃情報人数1名:男性B 30歳後半 身長180センチくらい 筋肉質 ガッチリ型
(『キツネ目の男:岩瀬達哉,著:講談社』)
1984/3/10
12時以降
土曜日
参考・引用:犯人の事前準備および曜日(参考文献:『キツネ目の男:岩瀬達哉,著:講談社』および過去の新聞記事など)

また、犯人グループの一員、 グリコ・森永事件の関係者と思しき「山下」を名乗る30代の男が日本パンライター社製の小型和文用「パンライターP45型またはM45型」を東京都千代田区外神田の事務機器量販店で購入したことを報じる記事のほか、同型のタイプライターが新左翼の爆弾製造に大きな影響を与えた教程冊子『腹腹時計』(1974年(昭和49年)3月発行)や1987(昭和62)年1月24日から1990(平成2)年5月17日までの間に発生した所謂『赤報隊事件』の前身組織といわれる「日本民族独立義勇軍 司令部」が犯行声明に用いた機種と同型との報道も散見される。

なお、 グリコ・森永事件の脅迫文は12ポイントの活字だが「日本民族独立義勇軍 司令部」の犯行声明文は9ポイントの活字であり、 教程冊子『腹腹時計』は、1974年(昭和49年)3月発行のため、「山下」を名乗る男性が購入したパンライターとは別だと考えられる。

<報道>

グリコ・森永事件 タイプ文字盤を買った男 都内電話番号を連絡先に グリコや森永製菓など食品会社に対する一連の脅迫事件は今月18日で発生から2年を迎えますが、脅迫状に使われたタイプライターの文字盤を買った「山下」と名乗る男は当時、販売店に東京23区内の電話番号を連絡先として告げていたことが明らかになりました。一連の事件で犯人グループが企業への脅迫状や警察への挑戦状に使っているタイプライターの文字盤は、事件発生の1年2か月前に東京内神田の事務機器販売店から「山下」と名乗る男が買ったことが警視庁の調べでわかっています。そしてこの男が誰かが捜査のポイントのひとつになっていますが、その後店員の証言から販売当時のくわしいいきさつが明らかになりました。それによりますと「山下」と名乗る男は電話で「9ポイント細丸ゴチック体の文字盤はあるか」と問い合わせ、店員が「手元にないが取り寄せることはできる」と伝えますと「品物が入ったらここへ電話してほしい」と電話番号を告げ「自分は山下」と名乗りました。そして数日後、文字盤が入荷したことをこの電話先に伝えたところ男は「すぐ行く」と云って1時間足らずのうちに店に現われ、代金4万円を支払い、領収証の宛先を「上様」とするよう求めたということです。男が告げた肝心の電話番号は市外局番のない7ケタで東京23区内の番号というところまでは店員の記憶がありますが、番号を書いたメモは捨てられて残っていません。しかし捜査当局では事件発生数か月前の58年暮れに、犯人グループが東京秋葉原で犯行に使った無線機や録音テープを買っていることなどと合わせて「山下」と名乗る男と犯人グループは当時、東京都内に何らかの拠点を持っていた疑いがきわめて強いと見て「山下」姓などを手がかりに東京都内を中心にひき続き文字盤を買った男の割り出しを急いでいます。

NHKニュース 1986.03.13

「グリコ・森永」「朝日新聞襲撃」、脅迫状タイプは同機種-捜査当局、新事実つかむ

昭和五十九年三月に起きたグリコ・森永脅迫事件の犯行グループ「かい人21面相」が挑戦状などの作成に使った和文タイプライターは、同事件より七カ月前の五十八年八月十三日に朝日新聞東京、名古屋本社に対して放火未遂事件を起こした「日本民族独立義勇軍 司令部」が犯行 声明を打ったタイプと活字の大きさは違うものの本体は同機種だった、との新事実が十一日、明らかになった。警察庁など捜査当局は「司令部」を六十二年五月に朝日新聞阪神支局記者殺傷事件を引き起こした日本民族独立義勇軍の別動「赤報隊」の前身となる地下組織とみており、決定的な物的証拠のタイプ本体が「21面相」と同機種だったことに重大な関心を持っている。捜査当局によるとこのタイプの機種は日本タイプライター社のパンライターP45。 「司令部」はこのP45に標準装着されている12ポイントの大きさの活字の文字盤を使って朝日新聞への放火未遂事件の直後「反日・排日・侮日的思想ヲアオル元兇『朝日新聞』ヲ攻撃セリ」との「犯行声明」などを同新聞など四社に郵送している。一方「21面相」は江崎グリコの江崎勝久社長を身代金目的で誘拐して以来、六十年八月十二日の「犯行終結宣言」まで脅迫状や挑戦状を乱発したが、これらは一貫してP45の本体に9ポイントの文字盤を装着して作成しており、両事件ではタイプと文字盤が捜査の焦点だった。 捜査当局によると、P45(12ポイント文字盤を標準装着)は五十五年から五十八年八月まで日本タイプライター社岩井工場で一万六千台生産された。「司令部」はこの内の一台を使った。一方、「21面相」が使った9ポイントの文字盤は五十八年一月二十二日、東京神田の事務機販売会社から「山下」と名乗る男が、文字盤だけを購入したことが分かっている。 9ポイントの文字盤だけを購入したのは既に12ポイントの文字盤を装着したタイプ本体を持っているためともみられる。「21面相」と「赤報隊」については一部捜査関係者の間で「反社会」を主張してマスコミを利用する「情報犯罪」などの点で共通点があるとして「同一犯説」もささやかれていた。しかし(1)「赤報隊」はタイプではなくシャープ製のワープロ「WD20」または「WD25」を一連の事件の犯行声明に使っている(2)「21面相」の主な犯行動機が「金」とみられるのに「赤報隊」は反日思想の宣伝が目的で、殺人事件を起こすなどより凶悪性が強い-などから両事件は別のグループの犯行との見方が有力だった。

北海道新聞 1992.08.12

グリコ・森永事件 最後に「北」が残った 江崎社⻑に恨み持つ⼯作員 

(前略)捜査当局内で、ことさら公安が有⼒視したのが左翼犯⾏説だった。挑戦状には「かげきはくずれ」と⾃らを名乗る記述があり、グリコ本社放⽕など同時多発ゲリラの⼿⼝は過激派を連想させた。「かい⼈21⾯相」が登場する六年前の昭和五⼗三年、⼤阪府豊中市の江崎グリコ役員宅に送り付けられた「脅迫テープ」には、「過激派の連中が私の所に来ました」「(その)リーダー格の男が京都の学⽣」などの⼀節があった。「かい⼈21⾯相」は、京都⼤学近くの「百万遍コピーセンター」で脅迫状のコピーをしていたことが分かっている。同コピーセンター横の「第⼀勧銀百万遍⽀店」で昭和五⼗年に起きた現⾦約五千万円の強奪事件も左翼犯⾏説が根強く、この奇妙な接点が、グリコ事件左翼説を後押しした。挑戦状に使われた⽇本タイプライター社製のパンライターと同じ機種が、爆弾製造法のバイブル「腹腹時計」でも使われていたため、左翼犯⾏説に加え、朝⽇新聞襲撃事件の⾚報隊関与説までが⽣まれた。(後略)

産経新聞 1997.07.04

グリコ・森永事件 金と時間と人 事前準備 犯行

「かい人21面相」を名乗るグループは、グリコ・森永事件の最初の事件「 江崎グリコ社長誘拐事件 」(1984(昭和59)年3月18日21時頃 発生)までの間、脅迫文に使用する「パンライター」を偽名と思しき名前で購入、被害者一家の世帯全員分と思われる住民票を取得している。また、犯行の約一週間前には現場の下見をしていたと考えれる不審者も目撃されており、被害者の家族の構成や被害者宅の立地、外から見える建物の様子や間取り、家族の動きなどの情報を集め事前に犯行計画を練り同犯行を実行したと推察される。

グリコ・森永事件 遺留品

以下は図表は「江崎グリコ社長誘拐事件」および一連の同事件に使用された犯人グループが「犯行以前」から所持、所有していたと遺留品である。

同遺留品のうち、愛知県豊田市内の業者が製造した使い古された「速達印」は、犯人グループ(特に脅迫状を書いた人物)が日常生活で使用し消耗したとも思われる。

犯人グループが「犯行以前」から所持、所有していた遺留品

さらに、以下の図表は 「江崎グリコ社長誘拐事件」の犯行時に使用された遺留品であり、犯人グループは同誘拐、監禁事件の「ため」だけに購入した物品および購入場所である。犯人グループは、これらの物品を「大阪府枚方市」内で物品を購入、購入金額は約8000円である。

「江崎グリコ社長誘拐事件」の犯行時に使用された遺留品

グリコ・森永事件の犯人グループ(かい人21面相)は、以前から金と時間をかけ事件を計画、準備していたのだろう。そこからは「金」に困った者達による突発的な犯行だとは想像し難い。 グリコ・森永事件の動機には「金」以外の動機がありそうだ。ある者は彼らの動機に怨恨をある者は株価操作(これも金だが)を見るが、それ以外の「なにか」(勿論、犯罪の動機は複合的だが)を感じてしまう。そして、「かい人21面相」とは何者達なのか。次回は「かい人21面相」について考察してみよう。

(4「目撃された者たち」につづく)


★引用文献

グリコ・森永事件 タイプ文字盤を買った男 都内電話番号を連絡先に NHKニュース 1986年3月13日付

グリコ・森永事件 最後に「北」が残った 江崎社⻑に恨み持つ⼯作員 産経新聞 1997年7月4日付

「グリコ・森永」「朝日新聞襲撃」脅迫状タイプは同機種-捜査当局、新事実つかむ 北海道新聞 1992年8月12日付

★参考文献

・書籍

『キツネ目 グリコ森永事件全真相 岩瀬達哉 2021年3月 講談社』

『未解決事件 グリコ・森永事件捜査員300人の証言 NHKスペシャル取材班 2012年5月 新潮社』

・映像

『NHKスペシャル 未解決事件File.01 グリコ・森永事件』

そのた、新聞記事、個人ブログ、個人SNSなどを参照しました。


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Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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