ゴッドファーザー

★ご注意:この記事には、映画『ゴッドファーザーPARTⅠ,Ⅱ,Ⅲ』のネタバレが含まれています。

『ゴッドファーザーPARTⅠ,Ⅱ,Ⅲ』考察

ゴッドファーザーPARTⅠ,Ⅱ,Ⅲ 米国人になろうとした生真面目な三男は兄を殺した

シチリアとニューヨーク Clairvoyant report channel

コルレオーネ家3代の歴史の原点シチリアとニューヨーク(アメリカ)をイメージしながら作成しました。ぜひ、動画からの音楽を聴きながら記事をお読みください。

”I believe in America. America has made my fortune. And I raised my daughter in the American fashion.I gave her freedom, but I taught her never to dishonor her family. She found a boyfriend, not an Italian. She went to the movies with him. She stayed out late. I didn’t protest. アメリカはいい国だと信じている。財産も作れたし、娘もアメリカ風に育てた。自由も与えた。家の名前を汚さない限りは。娘に男が出来た。イタリア人ではないが、夜遅くまで遊んでも怒らなかった。”『ゴッドファーザーPARTⅠ』冒頭のボナセーラの台詞

上記は20世紀米国映画の代表作とも評される1972年公開の『 ゴッドファーザーⅠ』、1974年公開の『ゴッドファーザーPARTⅡ』、そして、1990年公開の 『ゴッドファーザーPARTⅢ』 (原作マリオ・プーゾ、監督フランシス・F・コッポラ)の有名な冒頭シーンの台詞だ。

この不朽の名作『ゴッドファーザー』三部作の物語は1901年シチリアから米国に移民した一人の少年の物語から始まる。生まれ故郷のシチリアのコルレオーネ村出身のこの少年は地元のドンに父親を殺され、たった一人で逃げるように米国に移民した。彼はやがて米国のニューヨークで青年となる。

当時の米国内では白人でありながらもマイノリティとして差別や偏見の対象だったとも思えるイタリア人(アイルランド人や東欧からの移民、「白人」ではないがユダヤ人も差別や偏見の対象だった)共同体のなかでこの青年(ヴィトー)は自らの手で人生を切り開いていく。

ヴィトー・コルレオーネは、同胞のイタリア系移民を暴力で搾取するイタリア人街のドンの一人ファヌッチを殺害( 『ゴッドファーザーPARTⅡ』 ) する。

”If he’s Italian — why does he bother other Italians?
やつもイタリア人なら、なぜ同じイタリア人を泣かす?”

その後、ニューヨークのイタリア人街の顔役となり1930年代には自他とも認める『ゴッドファーザー』になるヴィトー・コルレオーネには四人の実子と一人のドイツ系の養子がいる。

『ゴッドファーザー』シリーズは、 ヴィトー・コルレオーネから始まる家族としての「コルレオーネ・ファミリー」(四人の実子は三人が男子、一人が女子)と犯罪組織としての 「コルレオーネ・ファミリー」の約80-100年に及ぶ壮大な物語だが、敢えて主人公は誰かを問われるなら間違いなく二代目のマイケル・ コルレオーネと答えたい。

第二次世界大戦後の1946年頃からの物語を描いたと思われる 『 ゴッドファーザーⅠ』の前半のマイケル ・コルレオーネは、一族のなかで初めての大学卒業者であり、アメリカの戦争に初めて志願し勲章を受けた英雄でもあり、裏の稼業、裏社会で成功したヴィトー・コルレオーネや「コルレオーネ・ファミリー」の大きな期待、次世代に継承するべき野望――表の政治、司法、経済などの世界での活躍する人物を「コルレオーネ」一族から輩出する期待と野望――を一身に受けた三男、まだまだ一人前の男と認めて貰えない少し弱々しく子供っぽい三男などとして描かれる。

そう、マイケル ・コルレオーネは米国人として教育され、米国人として自らの意志で米国の戦争に参加し、その後大学時に知り合ったイタリア系以外の女性と結婚した「コルレオーネ・ファミリー」で初めてのそして唯一の米国人だった。

だが、運命は残酷でもある。

マイケル ・コルレオーネに用意された運命は非常に残酷な運命でもあるが、生真面目で才能豊かな彼はその運命を正面から受け入れつつ、父ヴィトー・コルレオーネの思いでもあり父との約束でもあった「表の世界」での活躍、「表の世界」での成功、合法的な商売、違法性のない組織への変容を模索しながら「ファミリー」を守るために多くの犯罪行為に加担する。なお、当然のことだが「表の世界」での成功が「ファミリー」を守るために一番必要なことだ。

『ゴッドファーザーPARTⅠ,Ⅱ,Ⅲ』 最も大切なものはなにか?

ここで歴代ドン・ コルレオーネの殺害人数をみてみよう(映画『ゴッドファーザーPARTⅠ,Ⅱ,Ⅲ』で描かれている殺害人数)

歴代のドンの名前直接殺害人数殺害指示の被害者数
ヴィトー・コルレオーネ2人0人
マイケル ・コルレオーネ2人約17人
ヴィンセント・コルレオーネ3人0人
参考: 映画『ゴッドファーザーPARTⅠ,Ⅱ,Ⅲ』

なお、上記の殺害指示の被害者数の殺害「指示」は、状況的に「ドンの指示」があったと推察される「指示」である。

また、前述のとおり 映画『ゴッドファーザーPARTⅠ,Ⅱ,Ⅲ』は二代目マイケル ・コルレオーネを主人公とした物語のため、映画のなかで描かれていない一代目ヴィトー・コルレオーネ、三代目ヴィンセント・コルレオーネの殺害指示の被害者数の暗数も多いだろう。

そして、前述の 二代目マイケル ・コルレオーネ殺害指示で殺された者のなかには実の兄(次男)もいる。

I, uh, betrayed my wife. I betrayed myself. I’ve killed men, and I ordered men to be killed. No, it’s useless. I killed… I ordered the death of my brother; he injured me. I killed my mother’s son. I killed my father’s son. 私は―妻を裏切りました。自分にも偽りを…人を殺し―人を殺させた。―やはりムダです。兄を…人に命じて私に背いた兄を殺させました。私の母の息子を…私の父の息子を…映画『ゴッドファーザー PART Ⅲ 日本語字幕版』

約30年ぶりに枢機卿に懺悔するマイケル ・コルレオーネは兄殺しを告白しながら嗚咽する。

兄弟殺し…人類の最初の殺人。『カインとアベル』の物語として聖書に記された恐ろしい罪。彼の罪は「神の救いを超えている」罪だ。だからこそ彼は常に苦しみのなかにいる。

マイケル ・コルレオーネ は世界有数の地位、名誉、権力、金を得るがその魂は永遠に苦しみのなかにある。

そして、 マイケル ・コルレオーネは多くの者からその地位、名誉、権力、金を狙われる。生真面目な彼は家業の「ファミリー」を守るため、血族の「ファミリー」を守るため、 全力で敵を排除するが敵は次から次へと現れ、彼から大切な人、大切な思い出、大切な家族を奪っていく。

最も大切なものはなにか?

彼は血族の「ファミリー」を守るために家業の「ファミリー」を世界有数の「家」に育てようとするが、その試みとコルレオーネ家の宿命が彼の魂を永遠の苦しみに追いやってしまう。

繰り返しになるが二代目のドン、 マイケル ・コルレオーネ は非常に優秀で生真面目だ。彼は世界有数の金持ちへ王手をかけた。 マイケル ・コルレオーネは家業としてのファミリーの危機を救った「コルレオーネ・ファミリーの中興の祖」だ。

『ゴッドファーザーPARTⅠ』の前半で描かれた「まだまだ一人前の男と認めて貰えない少し弱々しく子供っぽい三男」が重い責任を懸命に果たそうとするなかで一族で最も成功した(三代目ヴィンセント・コルレオーネの功績および三代目「コルレオーネ・ファミリー」のその後は不明だが)ドン・コルレオーネになった。

そう、彼は俗にいわれる二代目のボンボンではない。

だが、その過程でマイケル ・コルレオーネは多くのモノを手にしたが多くのモノを失いすぎた。

彼と父親ヴィトー・コルレオーネの違いはなんだったのだろうか。それは性格か?時代か?価値観か?それらを含めたもっと複合的な違いか?

ヴィトー・コルレオーネとマイケル ・コルレオーネの大きな違いは一つは、マイケルが相続人だったことだろう。彼は父親から多くのモノを相続した。それは権力、金、地位、多くの友人や仲間や味方であり、多くの敵と嫉妬などの他人からの負の感情だ。

そして、それらはヴィトー・コルレオーネが真にマイケルに遺したかったモノではない。父は息子に「表の世界」で活躍する道を遺したかったのだ。

米国人として教育され、米国人として自らの意志で米国の戦争に参加し、勇敢に戦い勲章を授与され、イタリア系以外の女性と結婚した「コルレオーネ・ファミリー」で初めてのそして唯一の米国人のマイケル・コルレオーネ。

祖国、故郷を追われ自らの意志と力で米国に渡り米国の裏社会に君臨したシチリア生まれのヴィトー・コルレオーネ。

彼は自分の息子に自分が果たしたかった米国人としての成功を遺したかっただろう。血族「コルレオーネ家」のために…

シチリアを追われた一人の男がアメリカに渡り血族のファミリーをつくった。

彼ら家族は信じている。

”I believe in America” アメリカはいい国だと信じている。

アメリカに渡った多くの移民。これからアメリカを目指す多くの者。

彼(女)らはそう信じている。


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Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste Roquentinは、Albert Camusの『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartreの『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場する主人公の名を組み合わせたペンネームです。メディア業界での豊富な経験を基盤に、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルチャーなど多岐にわたる分野を横断的に分析しています。特に、未解決事件や各種事件の考察・分析に注力し、国内外の時事問題や社会動向を独立した視点から批判的かつ客観的に考察しています。情報の精査と検証を重視し、多様な人脈と経験を活かして幅広い情報源をもとに独自の調査・分析を行っています。また、小さな法人を経営しながら、社会的な問題解決を目的とするNPO法人の活動にも関与し、調査・研究・情報発信を通じて公共的な課題に取り組んでいます。本メディア『Clairvoyant Report』では、経験・専門性・権威性・信頼性(E-E-A-T)を重視し、確かな情報と独自の視点で社会の本質を深く掘り下げることを目的としています。

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