映画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』の魅力とは?~ホラーの「お約束」を踏まえて解説~

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観客を怖がらせるホラーと、観客を笑わそうとするコメディ。この2つは真逆に思えるものの、意外と相性が良い。作品数では他のジャンルに若干劣るものの、「ホラーコメディ」というジャンルも確立されていることからも、人気があることが分かる。

筆者ももちろんホラーコメディが大好きだ。そして、その中でも『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』を偏愛している。

今回は、本作の魅力をたっぷり語っていきたい。

映画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』の作品概要

映画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』は2010年に公開されたホラーコメディ作品である。監督はイーライ・クレイグ。主演をタイラー・ラビーンとアラン・テュディックが務めている。

本作は比較的激しいスプラッターを描きながらも、(大)流血沙汰と同居する軽妙な笑いが特徴的かつ魅力的だ。その上、スプラッター描写もリアルに寄りすぎず、ギリギリでギャグのラインを保っている。血の描写が苦手な人にはおすすめできないが、ある程度耐性がある人ならば大丈夫だろう。

タイトルにある「タッカーとデイル」とは主人公の名前だが、2人の掛け合いも小気味良くおもしろい。話の流れが変わる構成といい、最初から最後まで飽きさせない作品だと言えるだろう。

あらすじ

古ぼけてはいるが念願の別荘(山小屋)を購入した、心優しい2人組のタッカーとデイル。休暇のために別荘に向かっていた2人は、道中で大学生の一団と出会う。デイルはその中の女性の一人(アリソン)に心惹かれるが、見た目の怖さも相まって、大学生全員から警戒されてしまった。

気を取り直し山荘に別荘に到着した2人。実物を目にして喜ぶ2人だが、その場所はかつて、凄惨な殺人事件が起こった場所でもあった。場面は変わり、山荘の近くで大学生たちがキャンプをしていることも判明する。

その日の夜、釣りに興じるタッカーとデイルの目の前でアリソンが湖に落下してしまった。すぐにアリソンを助け、別荘で介抱しようとする2人。しかし、その様子を見た大学生たちが誘拐事件だと勘違い、さらには2人を殺人鬼だと思い込んでしまう。

デイルの介抱を受け、彼の心優しい性格に気づくアリソン。しかし、他の大学生はアリソンを殺人鬼から助けようと考え、タッカーの目の前で自ら事故死していくのだった。

ホラーの「お約束」を詰め込んだ作品

ホラー映画の「お約束」を知っているだろうか。この「お約束」とは、主にスラッシャー/スプラッター映画で使われることが多い設定のことを指す。

本作は、こうしたお約束を存分に詰め込んでおり、その詰め込まれ具合がおもしろさの1つになっている作品だ。

では、ホラー映画のお約束にはどんなものがあるのだろうか。本作に使われているものの中から、有名かつ分かりやすいものをいくつか挙げてみた。

一つ目は「被害者は大学生の集団」というものである。

キャンプをする大学生が、次々に殺人鬼に襲われる。こうした設定は、80年代から現在のホラー映画において頻繁に使われるものである。『13日の金曜日』や『ミッドサマー』が代表的な作品だ。

本作ももちろん、大学生の集団が被害者となる。ただし、タッカーやデイルは一切手を下していない。彼らが勝手に勘違いした挙句、木に串刺しになったり、木材の粉砕機に突っ込んでしまったりなどして、勝手に死んでいくのである。

「犠牲者」という表現はふさわしくないかもしれない。一番当てはまる言葉は、「思い込みの強さによる事故死」だろう。

次に、「ファイナルガール」というお約束が挙げられる。これは、ホラー映画の中で最後まで生き残る女性のことを表す言葉である。

ファイナルガールは、80年代に公開されたスラッシャー/スプラッター映画の多くに登場している。主人公であることがほとんどで、美人ではあるものの知的さが勝る、少し控えめな見た目であることが多い。『ハロウィン』のローリー・ストロード、『エルム街の悪夢』のナンシー・トンプソンなどが有名だろう。場合によっては、『エイリアン』のエレン・リプリーも当てはまるかもしれない。

本作では、アリソンがファイナルガールに該当するだろう。

アリソンを見ていると、「金髪」という、最初に殺人鬼に狙われることが多い「セクシー美女」の特徴と、知的さというファイナルガールの特徴の両方を併せ持っていることが分かる。「最初にデイルが声をかける」=「最初に狙われる」という、お約束を使った認識の齟齬を起こすつもりなのかもしれない。ちなみに、本作にもしっかりとセクシー美女が登場している。

三つ目は、チェーンソーの存在だ。

チェーンソーは本来、木を切るための道具である。燃料や衣服の巻き込みなどを考えると、武器にはあまり向いていない。しかし、殺人鬼とチェーンソーは切っても切れない関係である。

殺人鬼がチェーンソーを持つというシチュエーションは、おそらく『悪魔のいけにえ』を発端としているのだろう。この作品には、チェーンソーを振り回す「レザーフェイス」という殺人鬼が登場している。別の記事でも触れたかもしれないが、チェーンソーと結びつきやすいジェイソンは一切チェーンソーを使っていない(ナタがメインである)。

古い映画ではあるが今見てもおもしろい作品だ。お約束の始まりを見たいなら、鑑賞をおすすめしたい。

本作にもまた、印象的なチェーンソーのシーンある。それは、タッカーが蜂に襲われ、それを振り払おうとチェーンソーを振り回すシーンである。この場面は、完全に前述の『悪魔のいけにえ』のラストシーンをオマージュしたものだろう(ぜひ見比べほしい)。

タッカーにはもちろん害意はない。しかし、やはり勘違いした大学生が勝手に死んでしまう。

最後に、物語の舞台そのもののお約束についても触れておこう。

本作は、ボロボロの山小屋や、その近隣にあるキャンプ場および湖を舞台としている。こうした舞台設定そのものがホラー映画のお約束の1つである。代表作としては、『13日の金曜日シリーズ』や『死霊のはらわた』などが挙げられるだろう。

『13日の金曜日』はキャンプ場で繰り広げられる惨劇が描かれるうえ、ジェイソンの住まいはボロボロの山小屋である。対して『死霊のはらわた』は、山小屋そのものが舞台となっている。

この2つの作品は多少文脈が異なるが、山小屋が殺人鬼(もしくは得体の知れないもの)の根城であることは共通している。本作の大学生がやたらと勘違いを繰り返すのも、このお約束に基づいたものだ。

しかし、観客はタッカーとデイルが心優しいおじさんであることを知っている。「いかにも」過ぎる舞台設定と、大学生たちの勘違いっぷりが、本作の笑いの源と言えるだろう。

スプラッター&コメディー&ヒロイックさ

本作の魅力は、スプラッターとコメディーとヒロイックさが見事に融合していることにある。中でも、スプラッターとギャグの掛け合わせが非常に素晴らしい。ホラーコメディだけでなく、過激な流血シーンとギャグを重ねた作品をいくつか知っているが、個人的には、本作が一番コメディーとしてのクオリティが高いと感じている。

目の前で繰り広げられるのは血みどろの惨劇である。なのに、なぜこんなにおもしろいのか。その理由は、大学生たちのあまりにもな勘違いっぷりと、それに翻弄される2人のおじさんの対比にある。

大学生は、完全にタッカーとデイルを殺人鬼だと信じ込んでいる。顔が怖い上、体格も大きく、自分に自信がないデイルの口下手さが怪しさに拍車をかけてしまった。その上、彼らがいる場所は曰く付きと来ている。

対して、タッカーとデイルは基本的に動揺しているだけだ。彼らは基本的に優しい性格で、人に危害を加えるような人物ではない。であるにも関わらず、勘違いで大騒ぎされた挙句、勝手に目の前で死んでいくのである。それも、非常にグロテスクな死に方をするものだから余計に悪い。

見ている側からすると、命をかけた迷惑行為をしかけてくる大学生に困らされている「人の良いおじさん」という構図に見えるため、2人の不憫さがおもしろさを際立てるのだ。その上、見続けるうちに2人が少し可愛く見えてくるという事態も起こる。

そして物語が進んでいくと、スプラッターとコメディーに、ヒロイックさという要素が加わることになる。それまで気弱だったデイルがアリソンを守るため、本当の殺人鬼と対峙するのである。

ここで描かれるデイルは、自己肯定感の低さを完全に消し去っている。コメディチックな演出も随所に見られはするものの、どちらかと言えば「ヒーローの覚醒」に近い雰囲気がある。

この大流血コメディーからヒーローが生まれていく様子も、本作を見る楽しみの1つである。

また、本作のラスボスにあたる人物だが、最終版に置いて見た目に大きな特徴が出る。いわば、バットマンのトゥーフェイス状態になるのだが、これも殺人鬼の二面性というか、狂気性を表現しているように感じた。

まとめ

いくらコメディーと銘打たれていたとしても、残酷な描写が頻出するスプラッター系の映画ということもあり、本作を避けている人も多いのではないだろうか。

しかし、蓋を開けてみれば本作は絶品のコメディーで、血の描写が苦手でない限り、おすすめしたくなる作品だ。時折B級の香りを感じはするものの、それすらも本作の魅力である。

ぜひ、一度『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』を鑑賞してみて欲しい。激しい描写と共に、コメディー映画を見る楽しさを味わえるはずだ。

公式映像資料(YouTube)

🎥参考映像(出典:シネマトゥデイ)映画『タッカーとデイル 史上最悪にツイてないヤツら』予告編


オオノギガリWebライター

投稿者プロフィール

ココナラをメインに活動中のWebライターです。2017年より、クラウドソーシング上でwebライターとして活動しています。文章を読んで、書く。この行為が大好きで、本業にするため日々精進しています。〈得意分野〉映画解説・書評(主に、近現代小説:和洋問わず)・子育て記事・歴史解説記事etc……

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