2024年12月29日16時から放映されたFNNプライムオンライン(フジニュースネットワーク)の特別番組『新情報×新事実 世田谷一家殺害事件 解決への鍵』において、警察が犯行直後に実施した実況見分時の現場写真が公開され、未解決事件である『世田谷一家殺害事件』が再び世間の注目を集めている。
本記事では、これまで未公開だった現場写真の分析を通じて、犯人と被害者A氏との関係性の有無や事件の経緯について再検証する。
特に、被害者A氏(夫)の携帯電話と思しき物が2階ソファーに置かれていた点や、2階リビングの椅子の位置に注目し、これらの状況証拠を基に事件発生時のA氏の行動や犯行の展開について、以下のような論理的考察を展開する。
犯行現場に残された謎:ソファーに置かれた“携帯電話らしき物”の意味
公開された2階リビングのソファーの写真には、公表されている犯人の遺留品であるヒップバックと思しき物をはじめ、テレビのリモコン、VHSビデオテープ、何らかの冊子類、濃い緑色系の鞄または衣類と思しき物、黒色の布製品と思しき物、黄色の自動車の玩具、リング綴じメモ帳を破った紙片などを確認できる。
これらと共に、1999年2月にサービスが開始されたiモード対応のパナシニック社製ハニープラチナ色系の携帯電話『P501i』(1999年5月頃発売)と思しき縦長の物も写り込んでいる。
この携帯電話と思しき物を被害者A氏またはA氏の妻の携帯電話であると仮定した場合、以下のような推察が可能である。
A氏の携帯電話だった場合に浮かび上がる可能性
写真に映り込んだハニープラチナ色系の縦長の物体が携帯電話であり、かつそれがA氏の所有物であったと仮定する場合、以下の可能性が論理的に導き出される。
当初から2階に置かれていた
この場合、事件発生時にA氏が2階に滞在していた可能性が極めて高く、A氏は携帯電話を2階に残したまま、1階または2階の階段で犯人に襲撃されたと推測できる。
この場合、A氏が2階にいた理由としては、家族の安全確認や来客対応を目的としていた可能性が考えられる。この状況は、A氏が襲撃される以前に、既にリビングで犯人と対面していた可能性を示唆する。
1階にあったが、犯人が2階ソファーへ移動させた
A氏が1階で襲撃された後、犯人が証拠隠滅や偽装工作の意図に加え、携帯電話の発着信履歴やメールの送受信履歴を確認する目的で、携帯電話を2階へ移動させた可能性が考えらえる。
犯人が意図的に携帯電話を移動させたとするならば、A氏の携帯電話には犯行の動機や計画と直結する重要な情報が含まれていた可能性が高い。
被害者A氏が所持していたが、犯人が奪い取り2階ソファーへ移動させた
A氏が1階で襲撃された際、犯人がA氏の所有していた携帯電話を奪い取り、2階へ持ち運んだ可能性が考えられる。この行動は、犯人が冷静かつ計画的に行動していたことを示しており、犯人の心理状態や意図的な行動に関する重要な手がかりとなる。
また、前述のように、A氏の携帯電話には犯行の動機や計画と直結する重要な情報が含まれていた可能性が高い。
携帯電話の配置とA氏の行動動線
A氏の日常生活における携帯電話の所持状況や使用頻度は不明であり、A氏が常に携帯電話を携帯していたか否かは断定できない。しかし、仮にA氏が常時携帯電話を携行する性格や生活習慣であったと仮定するならば、事件発生直前においてA氏と携帯電話は極めて近接した位置関係にあったと推察される。
A氏は事件当時、普段着を着用していたことから、日常の延長線上で行動していたと考えられる。また、1階は仕事場であり、通常業務中であれば携帯電話は1階に置かれるのが自然である。しかし、現場写真では携帯電話が2階ソファーに置かれていた。この状況は、A氏が事件発生時に2階リビングで何らかの対応をしていた可能性が高いことを示し、前述のとおり、犯人と既に対面していた可能性も考えられる。
この仮定に基づく合理的な結論として、A氏は事件発生直前まで2階リビングに滞在し犯人と対面していたが、携帯電話をソファーに置いたまま1階へ降り、階段を上る途中、あるいは上り始めた直後に背後から突如として太ももと臀部を刺されたと推測することができる。
ただし、この仮説を検証するためには、A氏の携帯電話の使用頻度や自宅内での置き場所に関する関係者の証言や生活環境の詳細な分析が不可欠である。加えて、A氏と犯人の間に存在していた可能性のある過去の人間関係やトラブルの有無、さらには周囲の住民や知人からの証言も重要な検証材料となる。 もしA氏が2階で犯人と対面していたのであれば、犯人がA氏の知人であった可能性が極めて高い。
見知らぬ侵入者に対して家主が2階で応対するとは考えにくく、A氏が犯人に対して警戒心を抱かなかったという事実は、両者の間に一定の関係性が存在していたことを推察させる。
犯行の展開と犯人の行動動線
これまでの仮定と考察から、犯行直前、A氏は何らかの理由で1階に降りたと推測され、この隙を突いて犯人は中二階にいた長男に攻撃を加えたと考えられる。
その後、犯人は長男の異変を口実にA氏を再び2階へ誘導し、A氏が階段を上る途中、あるいは上りかけた瞬間に背後から襲撃した可能性がある。実際、A氏の遺体は1階階段下で発見されており、太ももおよび臀部には刺し傷が確認されている。この傷の位置は、犯人がA氏よりも下の位置から攻撃を加えた可能性を示しており、A氏が階段を上る際に背後の下方から刺された可能性が高いと考えられる。
ソファー側を向いたリビングの椅子
事件現場における証拠として、リビングの椅子が壁を背にソファー側を向いて配置されていた点に注目することは、犯人とA氏の関係性、両者の動線や犯行状況を解明する上で重要である。椅子の向きや配置は、犯人の室内での移動やA氏の応対状況を推察する重要な手がかりとなる。
公開された現場写真には、警察が犯人の遺留品と認定しているユニクロ製の黒色『エアテックジャケット』と見られる衣類が掛けられた椅子が写っている。この椅子はリビングの上座側に位置し、壁を背にしてソファーの方向を向いて配置されていた。
この配置から、犯人はエアテックジャケットを椅子に掛け、その椅子に座っていた可能性が高い。さらに、犯人がソファーに座るA氏に対して正対する形で座っていたと仮定すれば、両者は面識があり、犯人がA氏と直接的な対話を試みていた可能性が示される。
このような状況分析は、犯人の行動や心理状態、さらには事件の計画性を読み解くための重要な分析材料である。椅子の配置や向きが意図的であったか、偶然のものであったかを検証することは、犯行の動機や犯人像の特定に資する可能性が高い。
A氏の妻の携帯電話だった場合に考えられる展開
ソファーに置かれていた携帯電話の隣には、濃い緑色系の鞄または衣類と思しき物(以下、鞄と思しき物と記す)が確認できる。この鞄と思しき物が被害者A氏の妻の所有物であると仮定するならば、A氏の妻が鞄の中身を確認する過程で携帯電話を取り出し、ソファーに置いた可能性が考えられる。
この仮定を前提とした場合、鞄と思しき物と携帯電話の関係性から以下の二つの可能性が導き出される。
当初から携帯電話と鞄と思しき物は2階に置かれていた
A氏の妻が日常的に携帯電話を2階リビングに置く習慣があった場合、携帯電話は事件発生時も同様に2階に置かれていたと考えられる。この場合、犯人の行動とは無関係に、携帯電話は事件当初から2階に存在していたと推察される。
携帯電話と鞄と思しき物は寝室のロフトに置かれていたが、犯人が2階ソファーに移動させた
A氏の妻が携帯電話をロフトに置いていたと仮定する場合、犯人が意図的にそれを2階ソファーへ移動させた可能性が考えらえる。この行為の目的は、鞄と思しき物の物色、携帯電話の発着信履歴等の確認及び証拠隠滅や現場の状況を偽装する意図があったと推測される。
A氏の妻と長女は、ロフトのベッドで犯人に襲撃されている。この襲撃は急襲であった可能性が高いが、1階または2階で発生したA氏と犯人の間の口論や暴行により、怒声や悲鳴、衝撃音などがロフトまで響き、妻と長女が目を覚ましていた可能性がある。
仮に携帯電話がロフトに置かれていた場合、犯人の行動が迅速であったことや緊急時の混乱によって、A氏の妻が即座に緊急通報を行うことは困難であった可能性もある。しかし、犯人からの襲撃の後、妻と長女はロフトから降りた後もさらに襲撃されていることが判明している。この状況を踏まえると、携帯電話が妻のものであり、かつロフト内にあったと仮定するならば、ロフト内で襲撃を受けた後でも緊急通報を行うことは理論上可能であったと推測できる。
しかし、実際に緊急通報が行われなかったことを鑑みると、携帯電話が妻の所有物でなかった可能性や、携帯電話が寝室ではなく別の場所に置かれていた可能性が考えられる。あるいは、そもそも携帯電話が妻のものでなかった可能性も否定できない。 ただし、妻が日常的に携帯電話を寝室に持ち込んでいたかどうかは不明であり、この点を解明するためには、携帯電話の所有者が誰であったのか、さらにA氏および妻が日常生活の中で携帯電話をどのように使用・管理していたのかについての詳細な情報収集が極めて重要である。
血痕なきトイレの謎:犯人の行動動線を再考する
公開された現場写真には、玄関、2階の廊下、リビングに血痕が付着した犯人の靴跡が確認できる。しかし、これらの血痕付き靴跡は長男の部屋およびトイレ内には認められない。トイレ内の写真には、犯人が物色したとされるA氏の妻が使用していたと思われる二つの鞄が残されている。
これまでの報道によれば、犯人はトイレを使用しながら負傷した手の止血を行い、同時に妻の鞄を物色していたとされる。だが、トイレ内に血痕が存在しないことは、犯人が靴を脱いでトイレを使用していた可能性を残す。この行動は、証拠の拡散を防ぐ意図的な配慮であった可能性があり、犯人が冷静かつ計画的に行動していたことを示すと考えらえる。
一方で、犯人が風呂場などで靴底に付着した血痕を洗浄した後にトイレを使用した可能性も否定できないが、いずれの状況においても靴跡の欠如は、犯行直後に冷静に行動し、証拠の隠滅や捜査攪乱を意図していた可能性が高いと考えることができる。
さらに、犯人がA氏、長男、妻、長女を襲撃する以前にトイレを使用し、トイレ内では鞄の物色のみを行っていた可能性も考えられる。または、血痕の付着した靴跡は捜査を混乱させる目的で、犯行後に意図的に玄関から2階の廊下、リビングを歩き回り、痕跡を残した可能性もある。
加えて、鞄の物色行為そのものが犯人の動機と関係している可能性も考慮する必要がある。被害者家族の交友関係等の背景情報が、犯行の計画性や目的を浮き彫りにする重要な要素となり得る。
これらの仮説は、犯人がA氏を訪問していた可能性や、襲撃時に靴を履いていなかった状況を示しており、犯行の計画性や動機の解明に役立つ重要な視点となるだろう。
鞄の物色行為が示唆する犯人の動機と捜査攪乱の可能性
前述のとおり、公開された現場写真には、A氏の妻が使用していたとされる二つの鞄がトイレ内に残されている。この鞄の物色行為については、犯人の動機や捜査攪乱の可能性を含めた複数の視点から分析する必要があるだろう。
犯人の狙いが「鞄に収まる物」であった可能性
犯人が鞄を物色していた事実は、犯行の動機が鞄に収めることができる小型かつ価値のある物品(現金、貴金属、通帳、重要書類、デジタルデバイスなど)の略奪を目的としていた可能性を推察させる。
しかし、一家全員を殺害するという犯行の過激性は、単なる窃盗目的とは考えにくい。仮に金品が狙いであれば、家族全員を殺害することはリスクが高く、通常の物盗りの行動パターンとは整合しない。この点から、犯人が特定の証拠や秘密情報(たとえば脅迫状、交渉記録、携帯電話、USBメモリなど)を隠滅・回収する意図があった可能性が浮かび上がる。
なお、USBメモリは2000年6月に一般販売が開始されており、犯行時点(2000年12月)には既に利用可能であった。このため、USBメモリのようなデジタル記録媒体が犯人の標的であった可能性も現実的に考慮すべきである。
鞄の物色が「物盗り」と思わせる捜査攪乱の可能性
鞄の物色行為自体が、捜査機関に物盗り目的の犯行だと誤認させるための偽装工作であった可能性も考慮する必要がある。通常、精神疾患や薬物使用、知能に問題を抱えていない窃盗犯が家族全員を殺害することは過剰であり、動機と行動が不自然である。この不整合は、犯人が真の目的(個人的な恨み、証拠隠滅、報復など)を隠すために、意図的に鞄を物色した痕跡を残したと解釈可能である。
犯行の計画性を考慮すると、鞄の物色行為は、犯人の冷静かつ計画的な行動の一環であり、捜査の攪乱を狙った偽装行動であった可能性が高い。
捜査への影響と分析の方向性
物盗り偽装説に基づく場合、捜査の焦点は、犯人が実際に物品を持ち去ったのか、あるいは意図的に物色行為のみを残したのかを精査する必要がある。もし持ち去られた物品が存在しない場合、鞄の物色は単なる攪乱行為であった可能性が高まる。一方で、特定の物品が消失していた場合、その物品の性質や価値を詳細に分析することが、犯人の動機や犯人とA氏家族との関係の解明に直結する。
さらに、鞄の中身が整理されていたか、乱雑であったかといった物色の痕跡の詳細も、犯人の計画性や心理状態を読み解く重要な手がかりとなる。
鞄の物色行為は、犯人が鞄に収まる特定の物品を狙った行動であった可能性と、物盗り犯に見せかけるための捜査攪乱であった可能性の双方が考えられる。これらの仮説を検証するには、失われた物品の有無や他の物色行為の痕跡、さらには家族の交友関係や生活状況に関する詳細な調査が不可欠である。
したがって、鞄の物色行為の分析は、犯人の真の動機や犯人像の解明に直結する重要な要素であり、事件解決への鍵となり得る。
総合的考察:犯行の推定経緯
本記事の分析と状況証拠を総合的に考察すると、以下のような犯行の経緯が合理的に推測できる。
犯人は事件発生時、A氏と2階リビングで対面していた可能性が極めて高い。この際、犯人はリビングの椅子に着席し、A氏はソファーに座っていたと考えられる。この状況は、ソファー上に携帯電話が置かれていた事実と整合する。
その後、A氏は何らかの理由で1階へ降りたと推測される。犯人はその隙を突き、中二階にいた長男に危害を加えた。その後、犯人は1階に降り、A氏に対して長男の異変を告げることで、A氏を再び2階へ誘導したものと考えられる。
この誘導の過程で、犯人は階段を上る途中のA氏に対して背後から襲撃を加えた可能性が極めて高い。犯人がA氏の後を追って階段を上ったと仮定すると、A氏の太ももおよび臀部に確認された刺し傷は、背後からの攻撃であったことと状況的に一致する。この刺創の位置は、階段を上る際の被害状況と整合し、犯人が計画的かつ意図的にA氏を襲撃したことを強く示唆している。
以上の推論は、犯人がA氏およびその家族の生活動線や住宅構造を熟知していた可能性、さらには冷静かつ計画的に行動していた可能性を示している。犯人の行動は、突発的な襲撃行動と計画的な証拠隠滅や捜査攪乱を含む複雑な行動に基づいていた可能性が高い。
犯行態様から、犯人は精神疾患などの症状を抱える無秩序型に分類されつつも、捜査攪乱を図るだけの知能を有する人物であると推測される。しかし、この仮説を検証するためには、さらなる物的証拠の収集と、犯人の行動動線や心理的動機の精緻な分析が不可欠である。
◆参考資料
FNNプライムオンライン『新情報×新事実世田谷一家殺害事件解決への鍵』2024年12月29日16:00~放映
◆世田谷一家殺害事件・考察シリーズ