世田谷一家殺害事件に迫る警察の視線—警察は犯人に接近しているのか

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世田谷一家殺害事件は、多くの遺留品とともに犯人のDNAまで残されながら、長年未解決のままである。なぜ、膨大な捜査体制と証拠がありながらも、捜査が進まないのか。

本記事では、警察が犯人に接近している可能性を考慮しつつ、なぜ捜査が進展しないのか、その理由に踏み込み、未解決事件の謎を追う。

近年の解決例に見る手がかりを手がかりに、世田谷事件の特異性と捜査が抱える課題について考察する。

警察は犯人の手がかりを掴んでいるか

未解決事件は、大きく二つに分類することができる。

1・容疑者の特定が困難なケース。

2・容疑者(複数人の場合も含む)がある程度絞られているが、犯人の逮捕や起訴に至る証拠の収集ができていないケース。

世田谷一家殺害事件では、多くの遺留品が残されており、その中には犯人特定に最も有効なDNAも含まれている。

これは非常に重要なことであり、本事件は犯人特定の資料が全く無い事件ではない。犯人と思われる人物が偶然でも捜査線上に浮上すれば、解決に至る可能性がある事件である。

近年では、「広島県福山市明王台5丁目主婦殺害事件(2001年2月6日発生、2021年11月被疑者逮捕。裁判では無罪主張)」、「廿日市女子高生殺害事件(2004年10月5日発生、2018年4月被疑者逮捕、2020年3月無期懲役確定)」、「大阪第一ホテル女性殺害事件(1994年1月16日発生、2007年12月強盗殺人容疑で被疑者逮捕、2008年9月自死)」など、事件発生から長い年月を経て逮捕に至った例がある。

事件名発生年月日逮捕年逮捕までの期間逮捕の端緒捜査対象の有無
大阪第一ホテル女性殺害事件1994年1月16日2007年12月約13年11か月別事件(迷惑行為)で逮捕、DNA型一致
広島県福山市明王台
5丁目主婦殺害事件
2001年2月6日2021年11月約20年9か月別事件(刃物所持)で逮捕、DNA型一致
廿日市女子高生
殺害事件
2004年10月5日2018年4月約13年6か月別事件(暴行事件)で逮捕、DNA型一致
近年解決した主な未解決事件一覧

上記3つの事件の被疑者はいずれも事前の捜査対象者ではなかったため、逮捕に長い時間を要したのであろう。犯人は警察の想定の外にいたのだ。

では、事件から半世紀近い時が流れ、膨大な数の捜査員を投入してきた警察は、果たして一瞬でも世田谷一家殺害事件の犯人Xの影を捉えることができなかったのだろうか。

もし犯人の親族と被害者A氏に何らかの関係性があると仮定するならば、警察は、一度は犯人の影に近づいた瞬間があったのではないか。

犯人Xの親族に事情聴取を行ったものの、Xに関する情報を得ることができなかった可能性があるとすれば、その理由を考察することでさらにXの親族の属性を絞り込むことができるだろう。

容疑者(複数人の場合も含む)がある程度絞られているが、犯人の逮捕や起訴に至る証拠の収集ができていないケースを想定し、ここからさらに大胆な仮説と検証を進めていこう。

捜査の進展が阻まれるケース

事件史の中には、何らかの理由により捜査が進展しなかったケースが存在する。例えば「ロッキード事件」における対潜哨戒機P3Cに関する疑惑や、2001年に発覚した「外務省機密費流用事件」でのキャリア官僚および政治家への流用疑惑などが挙げられる。

1976年に発覚した、元総理大臣の犯罪とされる「ロッキード事件」(1993年12月16日、田中角栄元総理の死去により公訴棄却)は、民間航空機導入に関する賄賂などの捜査、起訴、裁判が行われた。しかし、同事件の本丸はP3C導入に関わる資金の流れであったとする説がある。

日米同盟に基づく日本と米国の防衛に関わる高度な政治問題の前に、日本の捜査機関の手は届かなかったとも言われている。

外務省ノンキャリ職員(サミットなどのロジスティック担当)が起こした「外務省機密費流用事件」は、外務省機密費が官房機密費に逆流していた事実や、機密費管理の不備、使途の不透明性などが明らかになった事件である。この事件では、外務省のキャリア官僚や外務省と関係の深い政治家の関与も噂されていたが、逮捕、起訴、実刑判決を受けた者の中にキャリア官僚や政治家はいない。

この2つの事件に共通するのは、経済犯罪であること、そして事件の背後に非常に高度な政治、特に外交や防衛に関わる問題がある場合、捜査機関が十分に手を及ぼせない点である。しかし、一般国民の被害者家族を狙った強盗殺人事件である世田谷一家殺害事件の背後に、そうした高度な政治的背景、特に外交や防衛の問題が関わっているとは考えにくい。

世田谷一家殺害事件において、警察が犯人Xに接近しながらも捜査が進展しない理由は、上記のような政治的な要因ではなく、別の要因によるものであると推測される。

Xの親族が閉鎖的な集団に関係していると仮定する場合

極端な思想の団体やカルト的宗教団体の中でも、特に反権力的で閉鎖的な組織が関与する事件は、未解決となるケースがある。

この場合の未解決とは、特定の団体の構成員が犯罪に関与していると推測されるものの、団体の閉鎖性や秘密主義、反警察・反政府・反社会的な性質が障壁となり、被疑者の特定に至らない場合や、被疑者の特定がある程度進んでいるにもかかわらず、団体がその事実を知って被疑者をかくまう場合を指す。

特定の団体の構成員が犯罪に関与した可能性があると考えられている主な事件としては、1962年2月発生の「後藤巡査殺害事件(暴力団構成員の関与が噂される)」、1977年4月発生の「浦和車両放火内ゲバ殺人事件(過激派の関与が考えられる)」、1984年1月発生の「尾崎清光殺害事件(暴力団の関与が噂される)」、1987年から1990年にかけて発生した「赤報隊事件(右派思想団体の関係者や特定の宗教団体関係者の関与が噂される)」、1991年7月発生の「悪魔の詩訳者殺人事件(イスラム教原理主義者とされる外国人の関与が噂される)」などが挙げられる。

事件名発生日関与が噂される団体
後藤巡査殺害事件1962年2月暴力団
浦和車両放火内ゲバ殺人事件1977年4月過激派
尾崎清光殺害事件1984年1月暴力団
赤報隊事件1987年から1990年右派思想団体、宗教団体
悪魔の詩訳者殺人事件1991年7月イスラム教原理主義
特定の団体の構成員が犯罪に関与した可能性があると考えられている主な未解決事件

これら5つの事件に共通する点として、まず挙げられるのは組織防衛と隠蔽体制である。

各事件において、組織が構成員や関係者を守るための防衛・隠蔽体制が存在し、特に暴力団や思想団体、宗教団体においては、組織内の情報を外部に漏らさない閉鎖的な環境と仕組みが成立している。

また、これらの事件には、団体内から職業的な犯罪者や過激思想を持つ者が選ばれて関与した可能性が考えられる。暴力団や過激な思想団体は、組織の目的に基づき犯罪行為を遂行する傾向があり、その環境下ではメンバーが犯罪を厭わない傾向があるといえる。

さらに、これらの事件では、捜査妨害が行われた可能性も指摘できる。組織の秘密主義や圧力によって、関係者からの証言が得られず、情報の外部流出を防ぐ体制が取られ、捜査機関にとって障壁となったことが推測される。

動機が組織の理念や防衛に基づいている点も共通している。犯行の動機は個人の利益ではなく、組織の理念や防衛を目的としており、革労協による内ゲバ、右翼団体の思想的攻撃、宗教団体の教義に基づく防衛行動など、組織の思想や目的が背景に存在しているといえる。

加えて、国際的・政治的な要素が絡む事件もある。特に「悪魔の詩訳者殺人事件」のように、国外の思想や国際問題が絡む事件では、外交問題や国際的な捜査協力の限界が解決をさらに困難にする要因となっている。こうした共通点が、事件の未解決や捜査の難航に大きく影響していると考えられる。

警察が犯人Xに接近しながらも捜査が進展しないと仮定するならば、その理由は他の要因によるものだと推測される。

Xの親族が捜査に非協力的だと仮定する場合

事件当時、10代であったと思われるXは、Bなどの親族と同居していたと考えられるため、Xの親族はその凶行を知っている可能性が高いと想像される。

事件当時、10代であったと推察されるXは、Bなどの親族と同居していたと考えられるため、Xの親族はその凶行を知っている可能性が高いと想像される。 Bはもちろん、被害者A氏の知人である。

警察がBに対し、捜査対象や情報提供者、参考人として接触していると考えるのが一般的である。前述の考察から、本事件には高度な政治的背景、特に外交や防衛の問題が関与しているとは考えられない。

警察がXの親族に接触しながらも、Xが捜査の手から逃れ続けている理由について、さらに考察を深めていこう。

ここで重要な着眼点は、被害者A氏が1956年頃の生まれであり、大学在学中が1970年代後半であると考えられることから、周囲に進歩的な人物が多かったと推測できる点である。

捜査側に予断がある場合

被害者A氏の経歴から、知人であるXの親族Bは同世代か年長者であると推測される。また、過激な進歩的団体との交際情報がないA氏の知人であるBも、進歩的ではあるが過激ではない団体に近しい人物であろう。この背景により、警察がBに対して予断や偏見を持ち、捜査対象から外した可能性が考えられる。

まず、A氏が過激な団体とは距離を置く人物であったことから、A氏の知人であるBも同様に無害であると見なされ、警察がBに偏見を持ちやすかった可能性がある。Bの進歩的ではあるが過激ではない性格が、捜査の網から外れる要因となったといえる。

また、「進歩的であるが過激ではない団体」とのつながりが、警察の捜査において軽視される傾向があった可能性もある。警察はより過激な背景を持つ人物に重点を置き、Bに対する捜査の優先度が低かったと推測される。

さらに、Bが同世代か年長者であると考えられることから、警察はBを「捜査対象にしなくても安全な人物」と判断し、若年層や明確な反社会的背景を持つ人物に捜査を集中させた可能性もある。以上の要因から、警察がBを捜査対象から外した背景には、A氏との関係性やBの性格・背景に対する予断と偏見が存在したと考えられる。

ここで問題となるのは、犯人がBではなく、Bの親族であるXであるという点である。警察がBに対して予断と偏見を抱き、Bを捜査対象から外した結果、Bの親族であるXにまで捜査が及ばなかった可能性が考えられる。この状況により、真の犯人であるXが捜査の網を逃れる結果となった可能性が高いといえる。

また、被害者A氏が高学歴であることから、知人であるBも同様に高学歴であると推測されるが、もしBが政治的・社会的に大物である場合、警察が予断と偏見を持ち、Bを捜査対象から外した可能性がある。

Bの影響力や社会的地位により、警察は慎重な対応を求められ、Bに関する捜査の優先度を低くするか避ける選択をした可能性が考えられる。

加えて、警察内部での配慮や忖度が働き、Bの親族であるXへの捜査が及びにくくなった結果、真の犯人であるXが捜査の網を逃れている可能性もある。

さらに、Bが「大物」であることから無害であるとの先入観が強まり、Bおよびその親族Xに対する偏見が生じ、捜査が十分に行われなかった可能性があり、結果としてXが真相究明を妨げる要因となっているといえるだろう。

まとめ

世田谷一家殺害事件は、多くの遺留品や犯人のDNAが残されているにもかかわらず、未解決のままである。

本記事では、犯人の特定が難航している背景には、犯人Xの関係者やX親族の非協力、警察の先入観、社会的・政治的な影響力が絡んでいる可能性について考察した。

だが、真相究明の道が完全に閉ざされているわけではない。過去に長期未解決事件が突如解決した例に見られるように、新たな証拠や捜査技術の進展が道を切り拓くこともあるだろう。

今後の捜査に期待するとともに、世田谷事件が問いかける未解決事件の闇についても注視していきたい。


◆参考資料
産経新聞「26歳女性殺害被告大阪拘置所で自殺」2008年9月28日付
産経新聞「民家に下着不法投棄の男DNA一致14年前の女性殺害で再逮捕へ」2007年12月25日
朝日新聞「女児下着着用後、民家に投棄容疑茨木の48歳男逮捕」2007年12月3日付
読売新聞「捜査難航の20年前の主婦刺殺、67歳容疑者が急浮上「記憶にない」と否認」2021年10月26日配信
時事通信「14年前の高2殺害で逮捕山口の35歳会社員-指紋、DNA型一致」2018年4月13日配信


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Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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