考察・M資金詐欺: 人々を魅了する都市伝説と権威

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戦後日本の混沌と暗闇の中に秘密資金が眠っている。秘密資金の眠る特別な場所の門を叩ける者は、資金を守る秘密組織に選ばれた者だけだ。

その秘密資金は戦後復興の名の下、選ばれた者にのみ貸し与えられる。無担保、低金利、連帯保証人不要の好条件融資――これらの好条件が与えられるのは、この秘密資金を守る組織が、真に価値あると認めた企業だけだ。ただし、その代償として、総額の数パーセントの融資手数料などが必要となる。

敗戦と戦後社会の裂け目から生まれM資金詐欺について解説、考察をしていこう。

序章:M資金詐欺とは何か?

M資金とは、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が占領下の日本で接収した財産を基に、現在も極秘に運用されていると噂される秘密資金である。その名前の由来は、GHQ経済科学局の第2代局長であったウィリアム・マーカット少将の頭文字から取られていると言われている。

M資金の実在性は公的に確認されたことがなく、公式には架空の存在とされているが、戦後の混乱期に大量の貴金属や宝石類が横流しされた事件や、GHQによる押収資産の不透明な流れなど、M資金に関する噂の根拠となる出来事がいくつか存在する。

戦後の混乱期を背景にするM資金の存在を巡っては都市伝説的な憶測が生まれ、M資金という言葉を使う融資詐欺事件が多発してきた。

これらの詐欺事件では、M資金を利用した無担保、低金利などの巨額融資を受けられるという虚偽の約束を用い手数料などを名目に被害者から金銭を詐取する手口が用いられている。

詐欺師は、貴種と呼ばれる実在の旧皇族や権力者(政治家や官僚)、海外の有名富豪などの名前を使い、実在の彼らの権威や社会的地位を利用して、M資金が持つ神秘的なイメージをさらに高め、被害者を惑わせる。 このような手口を使うM資金詐欺は、その神秘的で壮大な物語の背景と組み合わさり、現在でも語られ続けている。

M資金の歴史的背景

M資金は、戦後の日本における政治と経済の陰に潜む謎めいた存在だ。昭和29年2月3日、『第19回国会衆議院運輸委員会』の場において、M資金と運輸省や造船、鉄道、製鉄業など日本再建に必要な基幹産業各社との関連についての質問が行われた。

それから約75年、そのM資金という言葉の影響力は、現代の21世紀に至るまで続いている。

M資金は、まさに時代の鏡だとも言える。戦後復興期である1950年代の造船、鉄道、製鉄業との陰謀論的な結びつきや、高度経済成長期の航空産業、電力会社の原子力発電事業などにもM資金という言葉が登場し、時代とともに、その影響力を拡大していった。

自らを特別な存在と演出する詐欺師は、上場企業の経営者や実業家など社会的地位のある人々を狙い、被害者にM資金の存在を信じ込ませ、多額の金銭を詐取する。

また、M資金融資詐欺の契約の際に書かれた書類が暴力団などの裏社会の人間の手に渡り、被害者(企業)の中には、それらの事実をネタに脅される事件も発生し、自ら死を選ぶ者もあらわれた。

詐欺の小道具と実際の被害例

詐欺師は虚実織り交ぜた話や、貴種(皇族)、首相、大臣、一流企業の役員名、官僚、日銀関係者、都心の一流ホテルの元地主などの肩書や名前を使い被害者を騙す。

財務省許可の財団法人S会の代表者は、世界的に有名な大富豪と一緒に映る写真を使い被害者を信用させ、長野県内の宗教法人の教祖(代表)女性が主犯格となる事件では実在の総理大臣、大蔵大臣の名前が使われた。

詐欺師は、戦後の復興資金調達のため発行されたと称する実在しない「国債残高確認証」や架空の額面99億9000万円の「普通預金証書」、M資金詐欺に騙された一流企業元社長の念書(詐欺師はM資金詐欺に騙されたと知らずに書いた元社長の融資完了後に200億円を謝礼するという「念書」を他の被害者を騙す小道具に使い十数名を騙した)など様々な小道具を用い被害者を信用させる。

1980年代、20数億円の手形を乱発した大手企業の子会社の元(前)社長は、手形乱発の穴埋めのためM資金(オイルダラー詐欺)詐欺に騙される。同社は有名炭素製品メーカーの子会社であり、同社長は親会社(有名炭素製品メーカー)の役員を兼任していたが、その後、同社(子会社)は倒産する。

同社長は、Tを名乗る東京都世田谷区の詐欺師(61歳)M資金の類型オイルダラー資金など1200億円の融資枠があるとの話を持ち掛けられ、1200億円の融資完了後に200億円の謝礼をTに払うとの念書を書いてしまう。

有名炭素製品メーカーの役員兼倒産した子会社の元(前)社長の念書は、M資金詐欺の信用性を高める小道具とし利用される。この念書を信用の担保と考えた神奈川県内の貿易商など十数名が詐欺の被害に遭ってしまう。

また、1980年代後半、架空の大蔵省発行の還付金残高確認証や銀行の多額の預金証書、証券会社の国債預かり証などの偽造書類を使い、政府要人らに働きかければ国債の償還期限前に6000億円の還付を受けられると虚偽の約束をし、都内の女性社長らから政界工作金の名目で現金や約束手形計約二十億円をだまし取った詐欺グループが逮捕される事件が発生した。

同被疑者らは1979年頃、警視庁に摘発された女性Aを中心とするM資金詐欺グループに騙されたことを期に、M資金詐欺グループに加わったとされ、女性Aらが大量偽造した戦後復興を目的とする「国債残高確認証」を使い東京都内の紙製品販売会社女性社長(75歳)から現金や約束手形を詐取した事件である。 騙された人間の社会的信用を利用し新たな被害者から金を詐取する―上記2つの事件は連鎖する詐欺被害の典型例だといえる。

M資金詐欺の被害者

M資金がマスコミに取り上げられ、人々の耳目を集める切っ掛けとなったのは、後にロッキード事件の参考人となる大庭哲夫元全日空社長の3億円念書事件だろう。

当時、資金繰りに苦しんでいた全日空の大庭哲夫社長の前に、詐欺の前科、前歴を持つ元代議士、鈴木明良が訪れ、「旧日本軍の秘密資金」という言葉を使った巨額融資(融資額は3000億円、返済期限は30年の年利4.5%)の話を持ち込んだ。

この事件は「全日空3000億円融資事件」として知られ、大庭哲夫社長の失脚とロッキード事件への道を開く遠因とされる。大庭社長は自らの署名が入った念書の回収に努めたが、念書は既にコピーされ、その一部は右翼の重鎮、児玉誉士夫の手に渡るなどしていた。

このエピソードは、M資金詐欺がどのようにして社会的な注目を集めるようになったかを示す興味深い事例である。ロッキード事件という大スキャンダルの中で、M資金という概念が初めて広く公にされ、日本の政治、経済と闇社会の関係性に一筋の光が充てられ、それと同時に、戦後日本における秘密資金の存在に対する関心を高めるきっかけともなった。

鈴木明良元代議士が持ち込んだ巨額融資の話は、結局のところ詐欺であったわけだが、この事件を通じて、M資金という言葉が一般に広まり、多くの人々の想像を掻き立てることになった。旧日本軍が戦時中に蓄えたとされる莫大な秘密資金が、戦後の混乱の中でどこかに隠されているという物語は、まるで冒険小説のような魅力を持っていた。

しかし、このような魅力的な物語が人々を惹きつける一方で、それを悪用する詐欺師たちも後を絶たない。M資金詐欺は、戦後日本の経済社会の中で何度も繰り返されてきた。それは、人々が持つ「もしかしたら」という期待や、経済的な不安が詐欺師たちにとって格好の騙しの土壌となっているからだ。

M資金詐欺の歴史を振り返ることは、単に過去の詐欺事件を知ること以上の意味を持つ。それは、人間の心理や社会の動きがどのようにして詐欺という犯罪を生み出し、またそれに対抗していくかを理解する上での重要な手がかりとなるのだ。

図表は主なM資金詐欺の事例である。

第一章:M資金詐欺の起源と展開

当初、M資金詐欺は戦後復興を目的として選ばれた基幹産業の経営者をターゲットにしていた。しかし、日本が敗戦から奇跡的な復興を遂げ、高度経済成長期を経てバブル景気に突入し、世界第二位の経済大国へと躍進すると、M資金詐欺師たちの狙いは変わり始める。

この時期になると、彼らはより手軽な標的である中小企業の経営者に目を向け始めたのだ。

戦後日本とM資金の伝説

M資金に関連する噂の出所と思われる記録は、昭和22年8月13日「第1回国会衆議院 隠退蔵物資等に関する特別委員会」石橋湛山大蔵大臣の答弁だろう。石橋蔵相は、GHQが旧日本軍から差押えた1千数百億円の物資(建築材料や機械)が日本政府に引き渡されたと述べ以下のように続ける。

(前略)その行方を突きとめたい。1千数百億円の物資が日本の政府に引渡されたとするならば、一体どこに引渡されたのか。私は閣議にもち出して調べてみました。内務省その他の諸君に来てもらって調べたのでありますが、役所にある資料は、とてもそんなものはありません。わずか2、3千万円くらいのものが内務省あたりの手を経たようでありますが、1千数百億円のものは、どこへどう行っておるかわからない(後略)

第1回国会 衆議院 隠退蔵物資等に関する特別委員会第8号昭和22年8月13日

上記の議事録からも明らかなように、石橋蔵相はGHQから返還された1千数百億円相当の建築材料や機械の所在について答弁している。しかし、M資金詐欺に関する過去の報道では、この1千数百億円分が金、絵画、宝石類の形であり、その行方が不明であると報じられていることがある(ただし、いずれにしても、当時の金額で1千数百億円分の物資が不明である事実に変わりはない)。

旧日本軍からGHQによって差し押さえられた1千数百億円相当の物資が行方不明になり、この失われた莫大な価値を持つ物資がM資金の原資とされ、この資金が日本の復興のために密かに運用されているという、M資金という壮大な物語の始まりだろう。

また、「第7回国会衆議院予算委員会第16号 昭和25年2月16日」での世耕弘一代議士(自民党参議院議員、世耕弘成の祖父)は、1946年4月中に隠された金、銀、白金、合計1500本(50トン以上、当時の価格で数百億円相当)が東京湾から引き上げられたとされる「噂」について質問する。

この質問に対して、池田勇人蔵相は以下のように答弁している。

(前略)東京湾の金の延べ棒その他につきましては、寡聞にして私は聞いておりません。(後略)

第7回国会 衆議院 予算委員会第16号昭和25年2月16日

世耕弘一代議士は、引き続き、東京湾から引揚げられたと噂されている貴金属ついての質問を続ける。質問を受けた伊原理財局長は、東京湾から引揚げられたのは、銀塊(30トン、2億5000万円相当)である。この銀塊について、世間に様々な噂があるが、実際のところは、終戦後に陸軍が「臨時貴金属数量等報告令」に基づき、政府に対して約30トンの銀塊が東京湾にあると申告している。この銀塊は、司令部によって接収され、その後、司令部の民間財産管理局によって略奪物資と認定されている等と答弁し、金、銀、白金、合計1500本(50トン以上、当時の価格で数百億円相当)が東京湾から引き上げられたとの噂を否定している。

1945(昭和20)年8月15日の敗戦から数年後、既にM資金詐欺の土壌が育ち始めていたといえるだろう。

それから約30年後の1982年9月、連合軍が1945年9月から約5年間の間、日本政府、日銀、民間から強制的に接収した総額2億ドルの「接収貴金属」が、対日平和条約(1951年サンフランシスコ平和条約)草案作成時に米英の間で焦点となっていたことが外務省の外交文書から明らかになった、と報じられた(参考:『M資金のルーツ日本の金塊米英が争奪に火花2億ドル対日政策変更で返還』朝日新聞1982年9月20日付)。

報道は、連合軍によって接収された総額2億ドルの貴金属の使途を巡る米国と英国の対立を伝えている。接収された貴金属を、日本の侵略行為によって損害を受けた国々に分配し、賠償に充てるべきだと主張する英国と、朝鮮戦争を契機とした対日政策の変更を理由に、これらの貴金属を日本に返還すべきだと主張する米国との間の駆け引きが報じられている。

結局、米国の主張が英国によって承認され、「接収貴金属」は日本に返還された。この返還された約2億ドル相当の「接収貴金属」が、M資金伝説の原点となったとの説があるようだ。

GHQが旧日本軍から差押え所在不明となった1千数百億円相当の物資(建築材料や機械)、東京湾から引き上げられた銀塊(30トン、2億5000万円相当)、そして連合軍が接収した約2億ドル相当の貴金属。これらの話題が人々の想像力をかき立て、M資金詐欺という壮大な物語の背景になったようだ。

詐欺の始まりと初期の手口とその後の展開

M資金詐欺の始まりは明確ではないが、M資金詐欺の原型と思われる秘密資金が各民間銀行に保管されており、それらの資金が復興のため秘密裡に運用されているといる話に関連する詐欺の噂は1950年前後から存在している。

この時期の物語と後に広まったM資金詐欺の物語の主な違いは、隠匿された秘密資金の保管場所と運用者にあるだろう。初期の話では、秘密資金は各民間銀行に保管されており、その運用も各民間銀行が行っているとされる。当然だが、運用される金額の規模はそれほど大きくないと考えられる。

しかし、その後のM資金に関する物語では、大蔵省や日本銀行の地下に保管された莫大な秘密資金が登場する。地下に眠るその莫大な資金の運用者の背後には旧皇族、政治家、官僚など、特別な権威と権限を持つ人物が存在していると、その物語は進む。

M資金詐欺の物語は、社会情勢に応じて変化している。「還付金残高確認証」などの偽造書類が物語に追加され、世界的に有名な富豪が登場するなど、やがて、物語はより複雑で壮大なものになる。当初、M資金詐欺は戦後復興に必要な基幹産業への特別優遇融資という話として、主に大企業を対象に行われていた。しかし、物語は次第に変化し、苦境に立つ中小企業も詐欺のターゲットなった。M資金詐欺は社会情勢に適応しながらその被害範囲を広げている。

近年、発覚した大手飲食チェーン運営会社の役員が被害者となったM資金詐欺事件では、犯人グループが、英国の元スナイパーやFRB(米国の連邦準備銀行を統括する連邦準備制度理事会)関係者などを名乗っている。 非日常的なM資金詐欺の物語は、時代と共に変化しながらも、社会の裏側で息を潜め、獲物を狙っている。

第二章:詐欺のメカニズム

詐欺のメカニズムは、騙す側(詐欺師)が騙される側(被害者)を欺くために用いる一連の心理的操作や手法を指す。

詐欺師は、被害者が疑問を持つ余地を与えず、または疑問を持ってもそれを表明する前に行動を促すことで、被害者を騙す。詐欺を防ぐためには、提案された取引や提案に対して健全な懐疑心を持ち、事前、事後に十分な情報収集と検討を行うことが重要である。

但し、個人情報保護の意識が高まる中で、事前や事後の情報収集が困難な状況が生じているとの指摘もある。これは、個人情報を守るために、個人や企業が情報の公開に対して慎重な姿勢を取る結果の一つでもある。

その結果、詐欺師に関する情報や、詐欺の手口についての詳細な情報を得ることが難しくなる。このような状況は、詐欺を未然に防ぐための情報共有や、被害に遭った後の対応策を講じる際にも障害となり得るだろう。したがって、個人情報の保護と詐欺防止のための情報共有のバランスを取ることが、今後の大きな課題となると思われる。

詐欺のメカニズムは、被害者の心理的な弱点や欲望を巧みに利用することにある。詐欺の基本的なメカニズムは以下のステップで構成されている。

1・信頼の構築

詐欺師は、被害者との信頼関係を築くために、親しみやすさや共感を示すことがある。詐欺の最初のステップは詐欺師による被害者との関係性を確立から始まるといえるだろう。さらに、詐欺師は被害者からの信頼を得るため、専門性の演出を行う。詐欺師は、専門知識や権威を装い、被害者に信頼感を抱かせ、時に盲信させることがある。

M資金詐欺の物語には、皇族や名門家系、権威ある人物が登場する。これらの人物は、一般的に高い社会的信用と尊敬を受けている。詐欺師はこれらの人物の名前を不正に使用することで、被害者に対して信頼感を植え付け、話の信憑性を高めようとする。

これらの名前を使うことで、詐欺師は被害者に対して、自分たちが高い社会的地位や権威と関連しているという印象を与え、詐欺師の提案が「特別」で「信頼できる」という印象を強化する。

詐欺師は、権威ある人物の名前などを利用し、一般人がアクセスできない特別な情報や機会を持っていると信じさせる。

2・欲求の利用

詐欺師は、人間の貪欲を利用し、それを誘発する。少ない投資金額で高い利益を得られるという約束や、一攫千金を実現できるという甘言で、被害者の貪欲を刺激する。

M資金詐欺の場合、数パーセントの融資手数料や紹介料を支払うことで、数億円や数十億円の好条件融資を受けられるという話が典型的である。

また、詐欺師は人間の恐怖を利用する。被害者を不安に陥れ、急いで決断させるために、損失の恐怖や緊急性を煽る。

これにより、被害者は冷静な判断を失い、詐欺師の言う通りに行動してしまうことがある。

3・誤解の誘導

情報を操作し、情報を歪曲させるのも詐欺師の手口である。詐欺師は重要な情報を敢えて隠し、誤解を招くような情報を提供することで、被害者の判断を混乱させる。このようにして、被害者が正確な情報に基づいた合理的な判断を下すことを妨げる。

さらに、詐欺師は複雑さを利用する。詐欺師は、複雑で理解しにくい話や条件を提示することで、被害者の判断力を鈍らせる。このようにして、被害者が状況を正確に把握し、合理的な判断を下すことを困難にさせる。

M資金詐欺の場合、敗戦とGHQの統治という複雑な歴史的背景を基に物語が始まる。旧皇族や政治家などを登場させることで、被害者が合理的な状況判断をすることを困難にする。このようにして、詐欺師は被害者の理解を曖昧にし、信じ込ませやすい状態を作り出す。

さらに、権威ある人物の名前を使うことで、詐欺師は被害者に対して誤った信念や期待を植え付ける。

2009年公開の『クヒオ大佐』は、実在の日本人結婚詐欺師を描いた映画である。英国王家、ハワイの王家の末裔を詐称する彼(本名のイニシャルはS)は、米軍パイロットのジョナサン・エリザベス・クヒオ大佐と自称し女性から金品を詐取する詐欺師だった。彼の事件と彼が語る荒唐無稽な物語は、英国王家やハワイの王家、米軍の権威と信用や人間の確証バイアスなどを利用した典型的な詐欺の一例である。

4・時間圧力と感情的圧力

詐欺師は、被害者に対して、時間圧力と感情的圧力を加える。時間を区切り決断を急がせ、緊急性を強調する。決断を急がなければ大きな機会を失うことになると誤解させ、被害者が合理的な判断を下すことを阻害する。

また、詐欺師は、被害者の感情に訴えかけ、合理的な判断を妨げる。名門家系や権威ある人物との関連を示すことで、被害者は「一度きりの大きなチャンス」と感じ、合理的な判断を下し難くなる。

このように、M資金詐欺における皇族や名門家系、権威ある人物の名前の利用は、被害者を騙すための信頼構築と専門性の演出などの詐欺のメカニズムの核心部分に直接関連している。

5・被害者の心理

人間には、確証バイアスがある。確証バイアスとは、人が自分の持っている信念や仮説を支持する情報を選択的に収集、解釈、記憶する心理的傾向のことを指す。このバイアスにより、人は自分の信じたいことや既に信じていることに合致する情報に対しては受け入れやすく、それと矛盾する情報に対しては無視したり、その重要性を低く評価したりする傾向がある

確証バイアスは、意思決定の過程で特に顕著に現れる。確証バイアスは客観的な判断を歪め、非効率的な意思決定や誤った判断を引き起こす原因となる。

確証バイアスは情報を収集する際にも影響を及ぼし、自分の信念に合致する情報源や意見のみを探し出してしまうことがある。このため、多様な視点や情報に触れる機会が減少し、偏った情報に基づいて意思決定を行うリスクが高まる。

この確証バイアスの心理が、詐欺に気づかない原因となるともいわれている。

また、経営判断などの際に使われる言葉に、コンコルド効果(サンクコスト:埋没費用)がある。

コンコルド効果(サンクコスト:沈没費用)は、既に支出されて回収不可能なコストのことである。人間はサンクコストに強く影響される傾向があり、これが合理的な判断を歪める原因となることがある。

サンクコストの典型的な例は、超音速旅客機コンコルドの開発プロジェクトに多額の資金を投じた後、そのプロジェクトが商業的に失敗することが明らかになった場合でも、既に投じた費用(サンクコスト)を惜しみ、さらに資金を投入し続けた事例である。

この場合、既に支出されたコストは回収不可能であり、それを基に将来の投資決定をすることは合理的ではないが、サンクコストの誤謬により、さらなる損失を招く判断が下されることがある。

このような判断は、「損切り」を避け、既に失われた費用を取り戻そうとする心理から生じるが、結果としてさらなる損失を招くことになる。人間は常に合理的判断が出来る生き物ではないのだ。 これらの詐欺のメカニズムを理解することは、詐欺を未然に防ぐための重要なステップである。被害者がどのようにして騙されるのかを知ることで、疑わしい状況を見極め、適切な対応をとることが可能になるだろう。

結論:M資金詐欺から学ぶ教訓

戦後の混乱期、日本は経済的、社会的に大きな変革期を迎えていた。その時代の不安定さと、新たな秩序への模索は、不確実性の時代であった。そのような時代の中、敗戦の影と戦後社会の裂け目から、一つの詐欺が生まれた。それがM資金詐欺である。

M資金とは、存在自体が疑問視され、公的に否定されている。それにもかかわらず、このM資金を巡る詐欺が後を絶たない。大企業の経営者や著名人がそのターゲットになり、巨額の金銭が動き、大きな社会問題となる事件も少なくない。

また、M資金詐欺が息を引き返すのは、景気後退や銀行の貸し渋りなど、資金繰りが悪化する時代である。経済が不安定になると、人々はより良い投資先や資金調達の方法を求める。

そこにM資金詐欺師たちは、非現実的な好条件をちらつかせ、疑い深いはずの経営者や投資家たちをも騙すのである。

この詐欺の手口は、M資金が実在し、それを管理する組織が存在するという設定から始まる。そして、特定の企業や個人にのみ融資や投資を行うという話で信用を得る。必要なのは、ある程度の前金や手数料という名目で巨額の金銭だ。しかし、結局のところ、約束された資金は一向に現れず、多くの人がその餌食になった。

M資金詐欺がなぜ成功するのか。その理由は、人々が持つ「もしかしたら」という希望、そして経済的な不安から来る判断力の鈍化にある。

また、戦後から続くM資金の都市伝説が、詐欺師たちにとって都合の良い背景を提供しているのも事実だ。人間は非日常的な都市伝説が好きだ。選ばれた自分だけが知る真実と事実。自分だけが「知る」、「知っている」から得られる恍惚感には薬物のような効果があるようだ。

M資金詐欺から学ぶべきは、どれ程、魅力的な話でも、背後にある真実をしっかりと見極めることの重要性である。

そして、経済的な不安定さが人間の判断を狂わせることがあるという歴史的教訓や人間は常に合理的で正しい判断が出来る生き物ではないという人間の習性を忘れてはならない。


◆参考資料
『M資金で一億円詐取組員や3人を逮捕』朝日新聞1978年11月6日付
『M資金詐欺背後に謎の女性』朝日新聞1980年10月1日付
『M資金詐欺英富豪の写真も利用』朝日新聞1980年10月3日付
『証書は私が売った』朝日新聞1981年9月14日付
『M資金のルーツ米英が争奪に火花』朝日新聞1982年9月20日
『M資金に前社長の念書』朝日新聞1983年4月26日付
『M資金詐欺主犯を収監 首相名使い』朝日新聞1984年4月24日
『M資金話にだまされ計画現金など20億円詐取警視庁が3人逮捕』読売新聞1987年6月26日付
『4500億円還付をエサ元被害者一転だます側』読売新聞1991年12月28日付
『心のスキ狙M資金亡霊の誘い取引の実態に迫る』朝日新聞1993年2月6日付
『経世会金庫から流出と誘いニセ証書の換金図る』毎日新聞1993年8月11日付
『またぞろM資金、大企業経営者コロリ無担保保証人なしで数百億円貸します』毎日新聞1994年3月30日付
『私はこうしてだまされた実録・あるM資金事件経済事件』朝日新聞1994年12月12日付
『宝塚市長室で架空融資交渉大蔵関連団体名乗る人物正司市長も同席』読売新聞1998年8月12日付
『ニセ国債詐欺M資金小道具に使う還付金残高確認証海外なら換金可能と』読売新聞1988年4月23日付
『ニッポン・闇金融の主役M資金資金繰り悪い企業狙い再び暗躍』エコノミスト1996年8月27日付
・国会議事録


◆昭和の事件:考察・解説


Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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