映画『MINAMATA』解説:海の向こうの監督が描いた水俣病

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「日本村」に放置され、黙殺されようとする光景があります。しかし、時折、その闇に海外から光が差し込むことがあります。

近年には、芸能界最大のタブーともいわれる「ジャニーズ事務所」と大手メディアの「罪」を指摘する番組がBBCにより製作され、「日本村」に大きな影響と変革をもたらしています。

高度経済成長期における日本の波乱の時代に生まれた四大公害病の一つ、それが「水俣病」です。この壮絶な出来事を描いた映画『MINAMATA』について、独自の考察を交えながら解説いたします。

映画『MINAMATA』の概要

報道写真家W・ユージン・スミス氏は、妻のアイリーン・美緒子・スミス氏と共に熊本県水俣市に移住し、日本4大公害病である「水俣病」に苦しむ人々、公害の原因となった科学会社チッソの実態、そして病と闘いながら生きる水俣の人々を撮影し続けました。

その姿を映画化したのが、2021年に公開されたアンドリュー・レヴィタス監督の映画『MINAMATA』です。

主演は『シザーハンズ』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで知られるジョニー・デップで、彼は実際のユージンさんに忠実な演技を披露し、スターの華やかさを抑えて役作りに挑みました。

共演者には、日本からは美波がアイリーン役で出演し、また、ハリウッド映画を中心に活躍する真田弘之、加瀬亮、國村隼も出演しています。映画は2021年9月に公開され、上映時間は115分です。

映画『MINAMATA』のあらすじ

★ご注意:映画『MINAMATA』のネタバレが含まれています。

写真家ユージン・スミスは、落ちこぼれの写真家として回顧展を開催していました。彼は従軍で参加した沖縄戦のPTSDに苦しみ、酒と不眠症に悩まされ、心身ともに健康を害していました。

その中で、日本から富士フィルムのCMの交渉にやってきたアイリーンという日系女性が現れ、秘密裏に持ち込んだ写真や資料をユージンに託しました。ユージンは資料を見て驚き、熊本の水俣で行われていた環境破壊と水銀中毒の隠蔽についての証拠が含まれていることを知りました。彼は日本に対するトラウマを抱えていましたが、この問題を写真に収めることを決意し、雑誌LIFEの編集長に協力を依頼するとアイリーンとともに水俣へ向かいました。

出典:シネマトゥディ:ジョニー・デップ主演『MINAMATA-ミナマタ-』 本予告

水俣での体験は衝撃的で、亡くなった子供を抱える父親や水銀中毒の影響を受けた親子など、被害者たちの苦しみと諦めの顔を目撃しました。特に全身麻痺の青年との出会いが印象的で、ユージンは彼にカメラを渡し、自由に撮影するように託しました。

しかし、水俣での撮影中に、市民たちとチッソ(旧中外製薬)の間での激しい対立が明らかになりました。チッソ側はユージンを呼び寄せ、大金を提供してネガを提出し、黙って帰国するように交渉しますがユージンは拒絶しました。

ユージンは被害者たちの姿や汚染水の証拠写真を撮り続けますが、チッソ側の妨害が続き、彼の暗室が放火されてしまいます。しかし、市民たちがユージンを支援し、カメラを提供してくれたことで、希望が残りました。

ユージンは水俣の被害者たちを撮影し、水俣での環境汚染の実態を証拠として記録しました。しかし、チッソ側はユージンに暴行を加え、重傷を負わせますが、その後、火事を起こした男性が訪ねてきて、ユージンに写真とネガを渡してくれました。

ユージンは回復した後、水俣病の被害者であるアキコの写真を撮影します。彼女と母親の愛情に満ちた瞬間を捉えました。この写真は雑誌LIFEに掲載され、水俣病の問題を世界に広め、ユージンの代表作となりました。

最終的に、市民たちの闘いが実り、裁判でチッソ側に敗訴が言い渡され、水俣病の被害者に対する保障が実現しました。この勝利は水俣病発症から13年後の出来事でした。

海外から描いた水俣病

映画『MINAMATA』の公開当時、ジョニー・デップなどの有名なハリウッドスターが出演していたにもかかわらず、日本国内でのプロモーションが限定的で、映画館の端にひっそりと上映された理由にはいくつかの要因が影響していました。

  1. テーマの重さ: 映画『MINAMATA』は水俣病という重いテーマを扱っており、このテーマは日本国内では非常に敏感で、取り扱いが難しいものでした。環境破壊から生じた公害病に関する映画は、一部の観客にとっては辛い現実を直視することが難しく、映画館で観る意欲を喚起しにくい要素があった可能性があります。
  2. 水俣市の反応: 水俣市自体は、映画の上映に対して消極的な意見も存在しました。映画の公開時点で数十年が経過し、若い世代には水俣病の歴史や背後にある問題があまり知られていないことから、上映の必要性を疑問視する声もあった可能性があります。
  3. コロナ禍の影響: 公開当時は新型コロナウイルスのパンデミックが影響を及ぼしており、映画館での上映状況や人々の映画鑑賞意欲にも影響があった可能性が考えられます。
  4. 日本における描写の難しさ: 日本国内で水俣病を描く映画は、テーマの重要性にもかかわらず、大規模に公開されることは少なかったという背景があります。公害問題や裁判、環境汚染に関わる社会的な問題は、日本社会で取り上げにくい側面もあり、映画がそれらの問題に光を当てたことで、一部の人々にとっては過去のトラウマを再び取り上げることになる可能性があったでしょう。

しかし、映画『MINAMATA』は海外から見た視点で水俣病の問題を描き、住民たちの怒りやチッソ側の隠蔽体質、写真家ユージン・スミスへの迫害を生々しく描写しました。この映画は国際的に注目され、環境問題や公害の問題に対する意識を高める一助となりました。

日本国外からの視点で描かれたことで、水俣病の問題が国際的な舞台に持ち込まれ、世界に大きな影響を与える機会を提供したと思います。

海外から描かれる「日本」は、時に日本国内ではタブー視されるテーマを独自の視点で捉えることがあり、その結果、日本の文化や歴史的な出来事を新たな光で浮かび上がらせることがあります。以下はいくつかの例です。

  1. 『太陽』(The Sun)アレクサンドル・ソクーロフ監督 この映画は、第二次世界大戦末期から戦後にかけての昭和天皇を描いています。昭和天皇は日本国内では神聖視される存在であり、その人間的な側面を描くことは非常に難しいテーマでした。アレクサンドル・ソクーロフ監督は、天皇を人間としての一個体として捉え、戦争末期の混乱と戦後の混乱に取り組みました。このアプローチは、日本国外からの視点であり、日本の歴史に対する新しい解釈を提供しました。
  2. ドキュメンタリー『二郎は鮨の夢を見る』(Jiro Dreams of Sushi) このドキュメンタリーは、日本の寿司職人である「すきやばし次郎」の店主小野次郎氏を追った作品で、彼の情熱と芸術的なアプローチに焦点を当てています。寿司文化と日本の伝統的な手法を紹介しながら、小野氏の人間ドラマも描かれています。この映画は、日本の料理文化と芸術性を国外に紹介し、新たな視点から日本を探求しています。
  3. 『J-POPの捕食者 秘められたスキャンダル』(BBCドキュメンタリー番組)本作は日本芸能界の最大のタブーともいえるジャニー喜多川氏(1931年10月23日~2019年 7月9日)の長期間に渡る性加害問題に焦点を当てた番組です。 ジャニー喜多川氏は自ら創立した芸能事務所「ジャニーズ事務所」(2023年10月に「SMILE-UP.」に名称変更)に所属する数百人以上の未成年男児に対し性的加害を与え続けたと言われていますが、関係性と利害関係を持つ日本のテレビ局、新聞、雑誌、広告主企業は大きな声を上げませんでした。

これらの映画や作品は、日本を異なる視点から捉え、国内ではタブー視される問題やあまり取り上げられないテーマや視点を提示し、日本の構造的問題点や多様性および歴史的な側面を探求する手助けとなっています。

海外の映画制作者やアーティストは、日本の外から見た日本に新たな光を当て、異なる視座から日本を理解し、日本社会に秘められた問題点を追及しようと努力しています。

ユージン・スミス氏が映し出す「事実」と「温もり」

ユージン・スミスの物語は、水俣病と影響を世界に伝えた重要な一章となりました。彼は水俣に移住し、チッソの病院で苦しむ患者たちや汚染の実態をリアルに捉え、その写真は水俣の現実を露わにしました。

しかし、ユージンは一方で、水俣には明るい光も存在することを発見しました。無邪気にカメラを撮る青年や、胎児性患者でありながら家族から愛情を受けるアキコとの出会いは、ユージンの心に深い影響を与えました。彼らの存在は、水俣に住む人々の強さや愛情を象徴し、ユージンの写真には希望と人間の尊厳が表れました。

特に、アキコと母親が入浴する写真は、愛情と共感と感動の瞬間を捉えています。この写真はLIFE誌や写真集『MINAMATA』に収録され、ユージンの代表作として認識されています。モノクロのフィルムを通じて、ユージンは水俣市の現実を世界に伝え、公害問題への啓発と意識向上に貢献しました。

ユージン・スミスの活動は、写真家としての才能だけでなく、人間性と倫理観に裏打ちされたものであり、彼の作品は世界に感銘を与えました。

『MINAMATA』その後……

ユージンが水俣について撮影し、1975年に発表した写真集『MINAMATA』は、彼の最後の作品となりました。彼は水俣病の原告側と協力し、チッソの従業員たちの実力排除に巻き込まれ、重傷を負いました。

しかし、それにもかかわらず、彼はLIFE誌と写真集を出版し、水俣の現実を広く世界に伝えました。ユージン・スミスは1978年に傷の後遺症によりこの世を去りました。

水俣病裁判は1987年に国と会社の責任を認め、原告の完全勝訴となりました。しかし、胎内中毒や患者から生まれた子孫たちの水俣病認定は認められず、2023年の現在でも水俣病裁判は続いています。

「水俣」の問題は未解決のままであり、継続的な法的闘争が行われています。

また、ユージンの元妻であるアイリーンは、水俣に触れるきっかけとして環境問題に積極的に取り組み、京都に住むようになりました。

彼女は水俣の出来事から得た経験を活かし、環境問題に関する情報発信や啓発活動を行っています。

まとめ

映画『MINAMATA』は、水俣病の問題を通じて環境破壊とその影響に焦点を当て、人為的な環境破壊がもたらす苦しみと闘いを描いています。この映画が福島原発事故や他の環境問題と結びつけられるのは、環境破壊とその影響が地域や世界中で続いている現実を示すためです。

環境破壊による健康被害や社会的影響は、一つの地域や時代にとどまるものではなく、長期間にわたって続くことがあります。

映画『MINAMATA』は、過去の事件から学び、現代の環境問題に対する警鐘を鳴らす役割を果たしています。これらの問題を知ることは、将来の環境保護と持続可能な社会を構築するために重要です。

映画は、歴史的な出来事や環境問題についての意識を高め、議論を喚起する力を持っています。

映画『MINAMATA』が環境問題や社会的正義に対する関心を喚起し、対策を取るための一歩となることを期待します。

私たちは過去の教訓を忘れず、未来の世代により健康で持続可能な環境を提供する責任を共有する必要があります。


◆社会派の海外映画考察・解説シリーズ


あめこWebライター

投稿者プロフィール

人間の淡い感情や日常を描く事が、得意な物書きです。
寝ても覚めても根っからの映画好きです。
戦後から最近までの国内外の映画、アニメ、ゲームなどサブカルが得意です。
特に三船敏郎、志村喬という往年の東宝俳優が昔から好きで、昔はファンブログも書き綴っていました。

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