映画『大脱走』史実をもとにした60年代の傑作映画

映画『大脱走』

ご注意:この記事には、映画『大脱走』のネタバレが含まれています。

映画『大脱走』の概要

映画『大脱走』は、1963年に公開されたアメリカ映画です、日本でも同年に全国公開されました。主演のヒルツ大尉には『荒野の七人』『ブリット』でアクションスターとしてのキャリアを確固としていたスティーブ・マックイーン。

共演俳優たちも非常に豪華です。『グラン・プリ』のジェームス・ガーナー、『ジュラシックパーク』のリチャード・アッテンボロー、『さらば友よ』のチャールズ・ブロンソンなどなどの名優たちです。

メガホンを取ったのは『OK牧場の決斗』『荒野の七人』で、派手なアクション大作を数多く手がけていたジョン・スタージェス。

製作費は400万米ドル、舞台となった捕虜所やトンネル部分のセットをまるまる組みあげ、豪華な俳優陣を揃えました。

そして、映画と共に有名になったのは主題曲「大脱走マーチ」です。作曲したのはエルマー・バーンスタイン、映画音楽の重鎮で名匠のひとりです。制作した代表曲は『荒野の七人』『十戒』『モダン・ミリー』『ゴーストバスターズ』『ワイルド・ワイルド・ウエスト』とジャンルを問わず、名曲を作り続けました。

『大脱走』の上映時間は172分(約3時間弱)の超大作です。昔の映画にありがちな前編後編と分けて、途中で「休憩」部分があることも実に印象的です。戦争映画の代表的な一作ではありますが、色恋が描かれたりはせず、むしろ女性が3時間弱の間で登場するのは、合計でもほんの5分ほどだと思います。

というのも『大脱走』は、実際にイギリスの捕虜将兵たち76名が集団脱走した出来事に基づいた作品なので、ほぼ派手な戦闘シーンもなく、アクションシーンも最後の1時間ほどに集約されているような、虎視眈々というのがピッタリ合うような映画です。

映画の最後に表示される「この作品を犠牲となった50名へ捧げる」というメッセージが、作品の骨太さを際立たせています。

映画『大脱走』のあらすじ

第二次世界大戦時のドイツの森の奥に「第3捕虜収容所」が、ひっそりと建っていました。

そこへ数十台もの軍用トラックが到着しました。中からは数百名もの軍服姿の男性たちが降りてきます。イギリス軍・アメリカ軍(連合国)の捕虜たちが連行されてきたのでした。

彼らの代表のラムゼイ大佐は、ヘルガー所長と対面します。

――脱走の常習犯たちを一箇所に集めて管理しよう、というのですか?――

ラムゼイ大佐の問いにヘルガーは答えず、「ここは脱走不可なので他のことで気を紛らわせて心穏やかに過ごせば良い」とだけ伝えました。

しかし、既に収容所に入った兵士たちは脱走するチャンスを狙い、初日から一悶着起こします。

特にアメリカ空軍のヒルツ大尉は脱走歴17回という筋金入りのクーラーキング(独房王)でした。彼は手に持っていた野球のボールを見張りの死角に放り投げ、様子を伺いますが、所長に気づかれてしまい、彼は初日から独房行きになりました。愛用の野球グローブとボールを手にして――。

その時に野次を飛ばし、一緒に独房へ送り込まれたのがスコットランド出身のアイブスです。二人は独房を出た後に金網を突破して脱走しようと壁越しに計画し始めます。恐ろしいほどの不屈です。

さてその頃、収容所には1人のイギリス人将校が収容されます。彼の存在を確認したイギリス人は静かに沸き立ちます。将校の名前はバートレット、通称「ビッグX」と呼ばれていました。

バートレットは、これまで数多くの脱走計画を牽引した第一人者だったのです。

しかし、同時にナチスドイツのゲシュタポに目をつけられている危険人物でもありました。

バートレットは顔馴染みのピットやマクドナルドに挨拶をすると図書室に脱走計画の代表者たちを集めて、会議をはじめます。

――所長が脱走計画をさせないと言うなら、我々も従おう。しかし、その間に……掘る!――

バートレットは「トム」「ディック」「ハリー」と通称をつけた3本のトンネルを収容所地下に掘り、250名の捕虜たちを脱走させる前代未聞の計画を明かします。

計画の目的は「ドイツ国内による後方撹乱」でした。それができるのも「腐ったみかんを一堂に(集め管理する)」と、収容所へ送り込まれた脱走のプロたちが揃っていたからできることでした。

アメリカ人のヘンドリーは調達屋、オーストラリア人のセジウィックは製造屋、マクドナルドは情報屋、ピットは掘り出した土を処理する分散屋、イギリス人のコリンは偽造屋、他にも警備係、測量屋、仕立て屋という大切な脱走計画の土台が揃っていました。

そして、トンネル脱出に重要視される掘る係、それも既に何本ものトンネルを掘ってきた「トンネル・キング」こと、ダニーとウィリーもいました。準備は揃っています。ゆっくりと、着々に、みな生き生きとしながら脱走準備をはじめました。

その頃、独房から出たヒルツはバートレットと対面し、250名もの大脱走計画を聞いて驚きます。しかしヒルツとアイブスはその夜に既に独自で脱走計画を企てていましたが、脱走は失敗し、再び独房に連れ戻されます。ヒルツは不屈でしたが、アイブスの精神状態は限界でした。

独房から出たヒルツは、バートレットに呼ばれます。計画に協力して欲しいと前置きされた上で、彼に突飛な申し出をしました。

――単身、脱走してこの収容所の森の向こう周辺を偵察し、わざと戻ってきて情報を伝えて欲しい――というのです。リスクが大きな申し出に一度、ヒルツは断りました。

その頃、トンネルのトムの進行を特に推し進めていました。しかし、トンネルの支柱が足らず崩落事故を何度も起こし、ダニーとウィリーはいつでも危険と隣り合わせ状態でした。しかも、その経験がずっと心の奥に隠していたダニーの閉所恐怖症というトラウマを掘り起こしてしまいます。

ダニー開通まであと少しと迫った7月4日――アメリカの独立記念日。密造酒が捕虜達にサプライズで配られるというイベントが行われ、バートレット達もトム開通と脱走計画まであと少しという安堵感でリラックスしていました。

ですが、ドイツ軍によってトムが見つかってしまい、捕虜達の間に絶望感が広がりました。もうすぐ逃げられると思っていたアイブスにとっては、既に心は限界でした。

彼は金網を乗り越えて逃げようとしましたが、射殺されてしまいます。それを目の前で見たヒルツはバートレットに、偵察目的の脱走をすると告げます。

バートレットは閉鎖していたハリーを開けて、夜通し掘るようにと命令しました。そうしないと偽造したビザの日にちが合わず、計画が霧散してしまうからです。

その夜、ヒルツは死角から金網を乗り越えるとひとり脱走しました、数日後、ヒルツは収容所へ戻り、彼を見つめるバートレットにゆっくり頷きました。情報を持ち帰ったという証拠でした。ヒルツはグローブとボールを渡されると再び独房へ連れて行かれました。

ヒルツが独房から解放されると、バートレットに脱走計画遂行はいつだ?と聞きました。計画は今夜です。ギリギリでヒルツは間に合いました。 捕虜たちはトンネルを潜り、森の中へ――ダニー、コリン、ヘンドリー、バートレットたち含む76名が収容所からの脱出に成功しますが――。

スティーブ・マックイーンのバイクアクションの魅力

映画『大脱走』の代表シーンは、やはり、スティーブ・マックイーン演じるヒルツ大尉がドイツ兵からバイクを奪い、草原を疾走するシーンではないでしょうか。金網の柵を飛び越えるシーンは迫力満点です。

映画『大脱走』は、収容所内での人間関係などのドラマが比較的静かに進む映画です。超一流アクションスターのスティーブ・マックイーン演じるヒルツ大尉のバイクシーンがなければ、収容所内の人間ドラマという枠内の話になっていたかもしれません。スティーブ・マックイーンのバイクシーンが映画『大脱走』の娯楽性を高め、ヒットの要因になったのは間違いなさそうです。

スティーブ・マックイーンがジョン・スタージェス監督に提示した出演条件は、「バイクアクションができること」だとの逸話もあります。

有名な柵を飛び越えるシーンだけは友人のバド・イーキンズが、バイクスタントで演じていますが、ドイツ軍の制服を纏い、バイクでジャンプしながら道路に躍り出るシーンや草原を猛スピードで滑走するシーンはスティーブ・マックイーン自身が演じています。

また、有名な逸話ですが、ヒルツ大尉を追うドイツ軍のバイクとサイドカーの場面でドイツ兵士役を演じているのもスティーブ・マックイーンです。スティーブ・マックイーンの遊び心と、ジョン・スタージェス監督の懐の深さを感じます。

映画『大脱走』には、チャールズ・ブロンソン、ジェームス・コバーン、リチャード・アッテンボロー、ジェームス・ガーナー、ドナルド・プレザンスなど60年代を代表する豪華俳優陣が出演しています。 ですが、やはり、映画『大脱走』は、スティーブ・マックイーン抜きでは成立しない娯楽映画の名作だといえるでしょう。

史実の「大脱走」のその後とは?

映画『大脱走』は、第二次大戦中に行われた実際の脱走劇をモチーフにしています。

それは、「ビックX」ことロジャー・ブッシェル主導で行われた220名の脱走計画です。実際には劇中と同じ76名が脱走に成功しますが、ロジャー含め50名がゲシュタポに殺害されました。

映画『大脱走』のドイツ収容所の所長と連合軍捕虜たちの間には、古き良き騎士道精神的な「敵」への尊敬の念や礼節がありますが、ゲシュタポにはその精神がありません。知的な騙し合いの一面を持つドイツ兵と連合軍捕虜の収容所内の静かな戦いを描いた映画『大脱走』のなかで唯一の残虐行為がゲシュタポによる行為だともいえます。

さて、実際の大脱走のその後とはどうなったのでしょうか?

無事に脱走に成功し祖国へ戻れたのは少人数でしたが、その中の3人は偽名を使い収容所に無事を知らせました。収容所では、新たに「ジョージ」と名付けられた新たなトンネル採掘がはじまっていました。ジョージは開通しますが積雪が深かったため、非常口として活用することになったようです。捕虜達は終戦後に解放され帰国しました。

「クーラーキング」でもあったヒルツ大尉に、実在のモデルがいたことをご存知でしょうか?

劇中ではヒルツ、ヘンドリーたちは米軍捕虜として収容されていますが、実は第三捕虜収容所には米軍はいなかったことが、大脱走の原作者、ポール・ブリックヒルにより語られています。 ヒルツ大尉自体は、映画のオリジナルキャラクターということになります。しかし、英国兵捕虜のアレックス・リーズ氏は、第二次世界大戦でヒルツのように何度も脱走を試みた捕虜として有名な人物です。ヒルツ大尉は、アレックス・リーズ氏など脱走を試みた多くの兵士たちがモデルだったのかもしれません。

最後までヒルツ大尉が続けた「一人キャッチボール」の意味

主人公、ヒルツ大尉の行動は、少し冒険屋で向こう知らずに見えます。虎視眈々と計画的に堅実にトンネルを掘る指示を出す「ビックX」ことバートレットとは対照的です。バートレットは、脱走を捕虜による戦争戦術、捕虜の使命、捕虜の任務と考えているようですが、ヒルツ大尉は少し違うようにも思えます。

一匹狼体質で最初から最後まで脱走を繰り返し、捕まると独房に放り込まれています。実際に初日から脱走を企ててルーガー所長の逆鱗に触れ独房に20日へ送り込まれました。

その時には慣れたように、戦友のゴフからグローブとボールを受け取ると、独房でボールを壁打ちして時間を過ごします。

独房入りを絶望視するのではなく、命の危険もあるにも関わらず、独房を出たらどう脱走しようか.?など考えているようにも見えます。兵士というよりも人間としてのチャレンジ精神が凄まじいとも思えます。 それは世代を超えて、時代を超えて、いつ見ても観客の心を揺り動かし力強く鼓舞してくれるのです。


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あめこWebライター

投稿者プロフィール

人間の淡い感情や日常を描く事が、得意な物書きです。
寝ても覚めても根っからの映画好きです。
戦後から最近までの国内外の映画、アニメ、ゲームなどサブカルが得意です。
特に三船敏郎、志村喬という往年の東宝俳優が昔から好きで、昔はファンブログも書き綴っていました。

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