都知事の娘を騙った詐欺師と長野県塩尻市24歳カップル事件

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石原慎太郎・東京都知事(当時)の娘と偽り、多額の金銭を騙し取った女性がいた。

彼女は長野県上田市で『ミイヤコーポレーション』の名を掲げ、石原慎太郎都知事の娘と偽り、約140人の主婦から9億円以上を詐取した疑惑の渦中で自殺した。

彼女が集めた9億円の金の行方は霧の中だ。

一時、2002年10月12日の夜に長野県塩尻市奈良井川河川敷で発生したAV女優と交際男性の不審な死(長野県塩尻市24歳カップル事件)と関係が噂されたミイヤコーポレーション事件について詳述する。

ある女性の死

2002年9月5日(木曜日)15時15分頃、長野県上田市材木町2丁目の某ビル3階に所在する『ミイヤコーポレーション』の事務所内の給湯室で一人の女性(以下、A代表)、50歳が自殺した。

A代表の遺体が発見された場所は、JR『上田』駅から東方向へ直線距離で約1.5キロメートルに位置する3階建てビルだった。A代表が経営する『ミイヤコーポレーション』は、2001年12月頃から同ビルに入居していた。

A代表がはいていたパンプスは、片方ずつ離れた場所に無造作に脱ぎ捨てられていた。給湯室のドアも開け放たれたままだった。 A代表の事務所にはペットボトルとコップが二つ置かれていた。朝から複数の若い男性が出入りしていたともいわれる。

また、A代表は3台の携帯電話を所有していたが、そのうちの一つが見当たらない。その後も見つかったとの報道はない。A代表の夫は「自殺とは思えない」と語り、その言葉が不審の影をさらに深めた。

都知事の娘を名乗る女性

A代表は1952年9月頃、長野県上田市で製材業を営む父親の再婚相手の子として生まれた。高校は名前を勝手に使われた石原慎太郎元都知事が関係するプロダクション所属の俳優M氏と同じだった。

彼女は1975年頃に結婚し、息子と娘を儲けたことがわかっている。夫は洋服の仕立てや宅配便の配達など、転職を繰り返すが、事業に失敗し借金を抱えていたという。彼女は借金返済と家計のため、上田市内の夜の飲食店で働き始めた。彼女自身も約20年前から複数の偽名を使い詐欺まがい手口で借金を繰り返していた。

その後、1996年頃、夫婦は長野県上田市丸子町内に戸建て住宅を新築するが、なぜか夫婦は同市内の賃貸物件に住んでいた。事件当時、A代表は夫、息子、母親の4人でこの賃貸物件に住んでいた。A代表の死後、この賃貸物件から約1000万円分の宝くじの外れ券と銀行の帯封が見つかっている。

夫婦が建てた新築物件の宅内には、最新型の電化製品や外国製の高級家具が置かれていた。A代表はポルシェなど複数の高級外車を乗り回していた。彼女は連日、『ミイヤコーポレーション』の社員と共に上田市内の繁華街に繰り出していた。一回の洋服の買い物に100万円。タクシーでの移動を常とし、1年3か月の社員との飲食に約3,400万円を使う生活だった。

現役都知事の娘を名乗るA代表の疑惑報道は、2002年8月24日から始まる。A代表はメディアからの質問に答え、「都知事の娘ではない」、「石原プロとは関係ない」などと述べたが、A代表の関係者によれば、彼女は1996年頃、某地方銀行の現役頭取から「知事と某女優の娘だ(同頭取は否定している)」と知らされたと吹聴していたという。

疑惑報道から約一週間後、彼女は集めた金の行方や協力者、黒幕の存在の有無などの真相を語らぬまま、謎の死を遂げた。彼女の死は謎を残したまま、自殺として扱われている。

『ミイヤコーポレーション』

事件の舞台装置となる『ミイヤコーポレーション』は、2000年11月、ワイン製造・販売やアパレル事業を目的に長野県上田市で設立され、2001年12月頃にA代表が自殺した長野県上田市材木町2丁目の某ビル3階に事務所を移したといわれる。

A代表は、「1週間で倍にして返す」、「私は石原慎太郎の落胤」、「石原プロモーション」、「大手お笑い芸能事務所」、「大物俳優、大物芸人」と関係があるなどと説明し、同市内の主婦などに事業資金の出資を募った。

A代表が被害者主婦などに提示した事業計画書(説明書)には、『株式会社ミイヤコーポレーション』と記されていたが、実際には法人登記されていなかった。

被害者のなかには、同社の役員や社員になった者もいた。彼らは自身の親、親戚、友人、知人などに出資話を持ち掛けた。典型的なマルチ型ポンジ・スキーム(投資詐欺)の手口である。

高級な服を着て、高級外車を乗り回し、派手な生活を演出しながら、著名人の名前を無断で使い他人から金を奪う。

典型的な詐欺師の手口に騙された主婦の一人は1000万円以上を出資し、返金がないまま自己破産を余儀なくされた。

これらの詐欺の手口は、『M資金詐欺』からの変わることがない。

関連記事『考察・M資金詐欺: 人々を魅了する都市伝説と権威』

A代表の「騙しの手口」は、古典的であるが巧妙でもある。某ビル3階への移転祝いに、石原都知事の名前で花が届き、同事務所には、石原氏の秘書を名乗る男性(以下、B氏)や「石原プロモーション」の女性(以下、C氏)、小泉政権で文部科学省大臣を務めた遠山敦子氏の姉を名乗る女性(以下、D氏)から電話が入る。時には、偽造した石原慎太郎知事を借主とする借用書を使い被害者を「信者」に変える。

A代表が金を集めた手口は二通りあった。元金を含んだ配当(1週間50%)を約束する出資形式か、借金を持ちかけるかだ。期限が迫ると、新たな金を集めて切り抜けようとした。

2002年4月末、A代表は社員たちに消費者金融からの借入を命じた。ファイナンス部門立ち上げ、上田市内の消費者金融の買収を目的に、「体験」と称し、複数の消費者金融から借金をさせ、出資させた。複数の社員が消費者金融から借入れた金額は合計1億円に上る。

この事件で、A代表に関係した多くの人々が300万円前後の借金を背負うことになった。 A代表は、多額の資金を集め続けたが、その使途は謎のままだ。集めた金を「東京に運んでいた」、「息子の口座に送金を指示された」という証言もあるが、A代表の死によりその真相は闇に葬られた。

共犯者たち

都知事の娘を名乗り多額の資金を集め、その金の流れ、使途などを告白することなくA代表は逝った。一つだけ確かなことは、同事務所に電話を入れた石原氏の秘書を名乗る男(B氏)、「石原プロモーション」の女(C氏)、小泉政権で文部科学省大臣を務めた遠山敦子氏の姉を名乗る女(D氏)がいたことだ。

これらの人物はA代表の共犯の可能性がある。特にD氏は警察の捜査対象になったとの話もある。遠山敦子氏の姉を名乗るD氏は、『ミイヤコーポレーション』の実質上ナンバー2と噂されるが、彼女を直接見た者はいない。

電話で聞いた声はA代表の声に似ていたという。果たしてD氏は誰なのか。実在の人物なのか。その謎は未だに解けていない。

また、B氏、C氏も正体は明らかになっていない。B氏は若い男の声、C氏は38歳の女と言われているが、「石原プロモーション」に該当する人物はいない。

ただし、A代表の娘婿(同婿)が『ミイヤコーポレーション』に関係していることは明らかだ。被害者が消費者金融から借りた金の振込先は同婿の東京都内の口座だった。

果たしてA代表に共犯者はいたのか。A代表は黒幕に利用された使い捨ての駒だったのか。詐欺をはじめとする組織的、継続反復的な違法行為の影には反社会勢力の影が見え隠れする。

噂された『長野県塩尻市24歳カップル事件』との関連性

2002年10月12日夜、長野県塩尻市の奈良井川河川敷で、燃えている乗用車が発見された。

車内外からは、男女の遺体が見つかり、そのうちの一人がAV女優の芸名「桃井望」(24歳)だった。彼女の遺体は車から10メートルほど離れた草むらで炎上しており、焼け焦げた姿は見るも無惨だった。

現場は焼損の激しさと消火活動で荒らされ、捜査は難航したが、彼女の死因は刺傷だった。

車内で発見された男性は彼女の交際相手・会社員のS氏(24歳)だった。二人の死を無理心中とするには矛盾が多い。

二人は裸足だった。自宅のPCの電源は入ったままだった。運転者の男性は後部座席で発見され、彼女は車外で見つかった。それは、何者かに自宅から拉致され無理やり車に乗せられたことを想像させる。

男性は愛車を大切にしていた。河原に侵入すれば彼の改造した愛車の下部を傷つけることになる。桃井の身体には刺し傷があり、その包丁は右利きの彼の左手に握られていた。

S氏の遺族が確認したところ、彼の頭蓋骨には殴られた痕があった。車のドアはすべてロックされ、鍵は車内から見つかった。男性は事件の数か月前に80万円を貸しているが、借用書に記された名前の人物は存在しない。また、彼はマルチ商法、中古車販売ビジネスの副業をしていたといわれ、消費者金融との契約もあった。

長野県警は当初、事件を無理心中と判断し、男性の遺族にその旨を伝えたが、これには多くの疑問が残る。

男性の両親はこれに異議を唱え、被疑者不詳の殺人罪で告訴した。事件の捜査を求める署名は1万人分集められたが、県警の捜査本部設置は却下された。

男性が加入していた保険会社は「自殺」として保険金支払いを拒否したが、両親は民事訴訟を起こし、2007年に長野地方裁判所は「第三者による他殺」と認定し、保険金の支払いを命じた。

当初、警察は「長野県塩尻市24歳カップル事件」と「ミイヤコーポレーション事件」に関係があると考えていた。両事件が長野県内で発生し、発生時期が近いこと。S氏がマルチ商法に関与し、消費者金融から借入れをしていた可能性があること。さらに、両事件に反社会的勢力が関わっている可能性があることが、その理由だろう。

まとめ

A代表の詐欺事件と長野県塩尻市24歳カップル事件、どちらも謎に包まれた複雑な背景を持つ。

A代表は石原慎太郎都知事の娘を名乗り、多額の資金を集めた末、謎の死を遂げた。一方、塩尻市でのカップルの不審死事件も多くの疑問を残す。

両事件には共通点が多く、反社会勢力の影がちらつくが、真相は未だ闇の中だ。

これらの事件は、今後も数多の謎を呼び続けるだろう。


◆参考資料
毎日新聞『長野の会社代表「都知事の娘」かたり9億円「石原プロと事業」架空話で出資金』2002年8月24日付
信濃毎日新聞『上田の事業グループ都知事の娘…名乗り9億集金出資者告訴へ』2002年8月24日付
毎日新聞『自称「娘」詐欺疑惑都知事名義で偽借用書返済に窮し、出資者に』2002年8月25日付
信濃毎日新聞『上田のグループ集金問題有名人との関係、強調巧妙な方法』2002年8月25日付
信濃毎日新聞『上田のグループ集金問題代表に一問一答「半分以上は返済済み」』2002年8月25日付
朝日新聞『石原都知事の娘装い、9億円を集める被害者の会が告訴』2002年8月27日付
毎日新聞『自称「都知事の娘」、社員だまし「借金体験」消費者金融から1億円を集める』2002年8月27日付
信濃毎日新聞『上田のグループ集金問題出資者の会から事情聴く警察』2002年8月27日付
日刊スポーツ『渡哲也、石原プロとの関係かたった詐欺に怒る』2002年8月29日付
毎日新聞『都知事関連話で金集めた女性、自殺被害者らに不安と失望』2002年9月6日付 
産経新聞『ニセ都知事の娘首つり自殺?9億円詐欺疑惑の渦中』2002年9月6日付
信濃毎日新聞『上田のグループ集金問題9億円使途分からず返済に苦悩』2002年11月19日付

読売新聞『河川敷車両火災の2遺体塩尻の男性と東京の女性』2002年10月16日付
読売新聞『捜査本部設置訴訟 県警側が争う姿勢「捜査、適正に行っている」』2004年2月14日付
中日新聞『長野の2人焼死『男性は他殺』認定保険金訴訟で地裁支部初動捜査は無理心中』2007年1月23日付
中日新聞『他殺判決確定へ塩尻の2人死亡生保側控訴せず』2007年1月31日付
朝日新聞『両親、情報に懸賞金塩尻男女死亡「殺人で捜査を」』2007年3月8日付

新潮社『新潮45』2008年6月号
創出版『創』2002年11月-12月号


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Jean-Baptiste Roquentin運営者

投稿者プロフィール

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。
Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。
小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。
分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。

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