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映画『楽園』考察

★ご注意:この記事には、映画『楽園』のネタバレが含まれています。

令和1(2019)年10月に公開された日本映画『楽園』

監督は『64-ロクヨン- 前編/後編(参考:「『64(ロクヨン)』と功明ちゃん誘拐殺人事件」)』などの瀬々敬久、出演は綾野剛、杉咲花、佐藤浩市、黒沢あすか(参考:「映画『六月の蛇』考察~奇妙な「救い」の物語~」)。

映画『楽園』について考察していこう。

映画『楽園』あらすじ

平成16(2004)年7月10日(土)、午後3時頃、田園風景が広がる地方の村のY路地で7歳(行方不明になった年月日、時間、少女の年齢は、行方不明現場となるY字路に後日設置された情報を呼びかける看板に記載された情報から。また、物語の冒頭、※1,ラジオから北朝鮮の拉致被害者「曽我ひとみ」さんがジャカルタで夫や子どもと再会のニュースが流れている。これは、平成16(2004)7月9日(金)の実際のニュースである。映画で描かれている少女行方不明事件は、同ニュースの翌日の事件)の少女が消えた。

少女の祖父は同町内に所在する某神社(ロケ地は長野県飯山市)の氏子総代を務める、所謂、地域の顔役的人物である。少女の名前は「愛華」。消えた少女とY路地まで一緒にいた同級生の名前は「紡(つむぎ)」。映画『楽園』の物語は、この「紡」と幼少期に母親と共に難民として来日した「豪士(タケシ)」、親の他界に伴い生まれ故郷に戻った「Uターン組」の「田中善次郎」、「田中善次郎」の集落の区長(顔役)で年齢90歳の「黒塚」とその孫「黒塚久子」などを中心に描かれている。そして、この小さな町に起こった二つの重大事件――1つは少女行方不明事件。もう1つは、「田中善次郎」が起こした近隣住民6人殺傷事件――と、『楽園』とは?「人間」とは?「罪」とは?「罰」とは?などのテーマが、美しい田舎の田園風景のなかで語られているように感じる。

ここからは、出来るだけネタバレのないように気を付けながら、映画『楽園』を考察していこう。

※1,物語の冒頭に北朝鮮拉致被害者「曽我ひとみ」さん関連の実際のニュースを流した制作側の意図はわからない。多様な想像ができる。そして、わからないのがいい。様々な意図を想像する。想像させるのが名作だ。そもそも、「意図などないのかもしれない」の答えまで含めて。

『楽園』の孤独

映画『楽園』中心人物の「紡」「豪士」「田中善次郎」は、孤独である。また、彼(女)らを取り巻く行方不明少女「愛華」の祖父「藤木五郎」の魂も孤独だ。「田中善次郎」の被害者「黒塚」の孫であり「善次郎」に思いを寄せる「黒塚久子」も孤独だ。

映画『楽園』は孤独な人間を描いた映画だともいえる。

幼少期に母親と一緒に異国から来日した「豪士」に友達はいなかった。彼は子供の頃から虐められ、馬鹿にされ、疎外されてきた「楽園」の異邦人だ。そのような彼に母親以外の者が話しかけることもない。毎日、毎日、偽ブランド品を乗せた白色ワゴン車を運転しながら神社の境内などで移動リサクルショップ(車での販売だが)を開き、自宅ではコンビニ弁当を食べる日々。そんな彼に優しい言葉をかけてくれたのは、行方不明になった7歳の「愛華」だ。「愛華」の無邪気な深い意味もないであろう子供らしい言葉と仕草が――

そして、唯一、「豪士」に偏見なく「人間」として接してくれたのが、19歳頃(行方不明事件から12年後のため19歳頃と推測される)になった「紡」である。

この「紡」も孤独だ。彼女は「愛華」の事件の責任を背負っている。前述の「行方不明現場となるY字路に後日設置された情報を呼びかける看板」と一緒に掲げられた寄せ書きにある彼女は言葉は――

あいちゃん ごめんなさい

映画『楽園』

もう一人の主人公「善次郎」はどうだろうか。彼も孤独だ。彼の妻は病に倒れ30代で他界した。村を出て都会で働きながら結婚した彼。時代はいつだろうか?たぶん、60年代頃だろう。妻の実家のパン屋を継ぎ、大好きな犬を飼い――生まれ故郷に戻った彼は些細なことから「村八分」になってしまう。彼の孤独は加速する。彼の孤独は夫に先立たれた「村」の区長(顔役)の黒塚の孫「久子」でも癒せない。善次郎は過去の思い出に逃げ込むが――そこは魂の牢獄なのだ。誰もいない魂の独居房なのだ。

『楽園』からの追放

些細なことで「村八分」となった「善次郎」は、生まれ故郷の「楽園」から追放された存在だ。追放され、存在を消され、先祖を侮辱され、さらにそれだけでは済まず幾多の「罰」が彼に与えられる。飼い犬の散歩の禁止。ゴミ出しの禁止。そして、先祖の墓にペンキを塗られ――

「善次郎」は言う。

どこにも行かない

映画『楽園』 「善次郎」の台詞

そう、善次郎はどこにも行かなかった。排除されても村に残った。生まれ故郷に残った。死んだ妻と住みたかった場所に残った。だからこそ、6人死傷事件を――

では、「豪士」は、どうだろうか?残念ながら彼は最初から「楽園」の住人ではない。この「楽園」は、会員制の「楽園」なのだ。「寄り合い」、「祭り」、「同族」、「氏子」、先祖代々からの営みのなかで継承される会員資格。難民申請で来日した彼はその資格を最初から有していない異邦人だ。

そして、そのような異邦人達の役目は、閉鎖的で固定された共同体のための人柱となることだ。7歳の少女「愛華」の行方不明事件から12年後に発生した同様の事件(この事件は解決する)の際の村人の言葉が印象的だ。「集団生活してるアフリカの黒人が怪しい」、「中古車センターの人が怪しい」、「豪士が怪しい(これを言い出したのは「紡」の父親)」。村人は「楽園」に侵入した闖入者を人柱にする。それは、どの時代、どの国でも同じなのだ。

『楽園』からの逃亡

「豪士」の死の後、「紡」は村を出て東京の青果市場に勤めながら一人暮らしを始める。彼女は追放された訳ではない。彼女は自らの意志で村から出たのだが、そこには「愛華」の祖父「藤木五郎」などからのプレッシャーもあったのだろう。

生前の「豪士」に彼女は訊ねている。

どっか行きたいですか?自分のことを誰も知らない町とか

映画『楽園』 「紡」の台詞

その時の「豪士」の台詞はこうだ。

どこへ行っても同じ。どこにもない

映画『楽園』 「豪士」の台詞

「楽園」はどこにもないと言う「豪士」と「楽園」だと皆が信じ維持しようとする生まれ故郷で強い疎外を感じている「紡」。

「紡」は、一旦、「誰も自分のことを知らない町(街)」に逃げ出したのだが――

「村社会」の掟 「縁」の掟

「村社会」には掟がある。その掟は長い年月を超え、その共同体のなかで生き続ける。そして、地縁や血縁やその他の過去から継承さえる様々な「縁」がその「掟」を正当化する。

掟に逆らう者(「善次郎」のように悪意のない行為でも)は、共同体を守るためを理由に排除され、人柱にされ――異邦人は最初から入会の資格さえ貰えない。

現代社会には2つの側面がある。「孤独な無縁の社会」と強力な掟で縛られる「縁を基本とする社会」だ。どちらの社会がいいのだろうか?どちらの社会が「楽園」なのだろうか?それともどちらも「楽園」ではないのか?

映画『楽園』は、それらを問いかけてもいるように感じる。

捨てられる不安/失った者の喪失感

映画『楽園』に登場する3人の主人公「紡」「豪士」「善次郎」は大きな不安と喪失感を抱えている。

「豪士」の不安はいつも一緒にいる母親から捨てれる不安。

「紡」と「善次郎」は失った者の喪失感を抱えている。

異国の地で生まれ、母親と2人で日本に来た「豪士」。彼にとって母親を失う、または、誰かに奪われる恐怖と絶望は計り知れない。

「紡」「善次郎」は、失った者達だ。「紡」は、同級生の「愛華」をY字路で失い、「善次郎」は両親と妻を亡くしている。

過疎の村でそれぞれが抱える不安と喪失感。

その不安と喪失感が――二つの事件の背景にあるが――「紡」とこの「村」に変革をもたらすようにも感じられる。

拾う者/捨てる者

愛華が消えた「平成16(2004)年7月10日(土)午後3時頃のY路地」。3人の主人公「紡」「豪士」「善次郎」は、その場にいた。

そこで、「豪士」は、母親を失う不安から商品の偽ブランドを捨てようとしていた。

そこで、「紡」は「愛華」の悪意のない意地悪に不満を持ちながら「愛華」から貰った花の冠を捨てた。

そこで、「善次郎」は、青い車の運転者が捨てた犬(「善次郎」はその犬にレオと名付ける。この瞬間、「善次郎」とレオは互いに特別な存在となる)を拾った。

捨てる者、拾う者。消えた者、喪失した者。運命は皮肉である。「楽園」から去った者は、Y路地の左を道を行く。

映画『楽園』モチーフと思われる4つの事件

ここからは、映画『楽園』のモチーフと思われる実際の4つの事件を紹介しよう。関係性の深い事件は「栃木小1女児殺害事件」と「山口連続殺人放火事件」だと思われるが、差別、村八分、追放、孤独が犯行の遠因にあると報道や裁判で認定されている「奈良県月ヶ瀬村女子中学生殺人事件」と「津山事件」も紹介したい。

奈良県月ヶ瀬村女子中学生殺人事件

奈良県月ヶ瀬村女子中学生殺人事件は、閉鎖的な小さな村で平成9(1997)年5月に発生した未成年者略取誘拐、殺人、死体遺棄事件である。後の裁判で無期懲役刑が確定し服役中に自殺したO元受刑者(事件当時25歳)は、事件頃(1997年7月時点)、491人世帯、人口1996人の奈良県にあった村に住んでいた(参考:奈良・少女不明事件 重傷を負わせたこと知れたら「村にいられない」丘崎容疑者 毎日新聞 1997.08.10)。

閉鎖的で非流動的で古い習慣や「村の掟」の残る静かな過疎の村で、彼は朝鮮半島出身の父親と被差別部落出身の母親の非嫡出子として生まれた。彼の家は極貧だった。被害者と同じ中学に通っていたが、「一年の時から登校拒否を繰り返していた。卒業後、飲食店や風俗店などでアルバイト。今年三月ごろまでは建設作業員をしていた。その後は職に就いておらず事件当時、無職だった。(引用:生徒を送迎、捜索にも参加 丘崎容疑者 沖縄タイムス 1997.07.23)」

狭い村のなかで村八分の扱いを受けていたO元受刑者は、偶然に見かけた近所の女子中学生に「送っていく」と声をかけたが無視されたため、自分の運転する車で跳ねたと供述している。また、彼は殺害の動機について「(前略)(重傷を負わせたことが)知れたら村におられず、隠し通すしかないと思った(中略)「思ったより重傷だったので、殺害するしかないと思った」と供述していたが、捜査本部がさらに追及したところ、充代さんをはねて大けがをさせたことが知れわたると、村で生活できなくなると思って殺害を決意したことを明らかにしたという。(後略)(引用:奈良・少女不明事件 重傷を負わせたこと知れたら「村にいられない」丘崎容疑者 毎日新聞 1997.08.10)」と供述したらしい。

服役中に自殺した奈良県月ヶ瀬村女子中学生殺人事件のO元受刑者に「豪士」が重なる。

なお、O元受刑者逮捕後の報道のなかには、殺害動機を「わいせつ目的」とする報道やそれを論調を補強するためだと思われるO元受刑者宅からアダルトビデオなどが家宅捜索により押収されたなどの記事も散見されるが、後の裁判で「わいせつ目的」の事実認定はされていない。

一部のメディアはいつの時代にも、「人間」「罪」「罰」を単純化する。

そう、一部メディアの単純化には気をつけねばならない。

栃木小1女児殺害事件

栃木小1女児殺害事件は、平成17(2005)年12月、当時の栃木県今市市(その後、日光市に合併)で発生した、未成年者略取誘拐、殺人、死体遺棄事件である。

目撃者がおらず、遺体が誘拐現場の栃木県今市市から約60キロメートル離れた茨城県警管轄地域の茨城県常陸大宮市内山林で発見されたこともあり、捜査は難航する。

約10年後の平成26年(2014年)4月、別件の販売目的で大量の偽ブランド品を所持していた商標法違反容疑で逮捕されていた32歳の男性が栃木小1女児殺害事件を自供したため、事件は一気に動き出す。

その後、この自白供述の信憑性、任意性が争点となり、令和2(2020)年3月4日の最高裁の上告棄却決定によりK被告の無期懲役が確定した事件である。

逮捕後および裁判中の報道によれば、K受刑者は平成4年頃(K被告が10歳前後の頃)から旧今市市(現在の日光市)で暮らし始め、「母親を手伝って関東各地の骨とう市でアクセサリーや陶器などを売る仕事を始めた。(参考・引用:栃木・小1女児殺害 逮捕の男 女児宅近辺で生活 母手伝い骨とう市で仕事 NHKニュース 2014.06.03)」といわれている。また、K受刑者は、台湾国籍だったが、平成21(2009年)5月に帰化している。

性格的には「人前では話がうまくできなくなるタイプで、話し掛けても「はい、はい」としか返事をしなかったといい、人付き合いが不得手だったという。(引用:人付き合い苦手 毎夜コンビニ弁当 女児殺害で逮捕の勝又容疑者 時事通信 2014.06.03)」といわれ、K受刑者の義父は、「昔から引きこもりのような生活をしていて、見た目は優しい感じだったが注意をすると人が変わったように脅してくることもあった。物事の善し悪しがわからないまま育ち、ナイフなどの刃物も集めていた。(引用:栃木・女児殺害 容疑者の元義父 事件関与の気がした・いつか逮捕とNHKニュース 2014.06.03)」と語っていたようだ。

海外から日本に移住、身寄りは母親、毎日コンビニ弁当、人付き合いが苦手――K受刑者は映画『楽園』の「豪士」のモデルのようだ。

津山事件

津山事件は、横溝正史の有名小説『八つ墓村』などのモチーフとなった戦前の事件である。この事件は戦前の地方の小さな村の中にある濃密な「縁」が背景にあるといわれている。また、自殺した犯人が肺結核を理由に徴兵検査に落ちたことも関係するといわれている。

非常に濃密な「縁」が複雑に絡み合う小さな村の大事件。

自殺した犯人が「善次郎」に重なってしまう。

津山事件の被害者と遺族 1938年5月 毎日新聞社「昭和史 第8巻」作者不明

山口連続殺人放火事件

平成25(2013)年7月、山口連続殺人放火事件は、山口県周南市の限界集落で発生した5人を殺し、放火した事件であり、加害者Hには平成31(2019)年8月、死刑判決が確定している。

事件当時63歳だったH死刑囚は、「(前略)約20年前に都会から故郷に戻り、両親をみとった。(中略)病気のゴールデンレトリバーを拾って病院へ連れて行き、その後もずっと飼っていた。(引用:山口・連続殺人容疑者逮捕 山奥の集落 深めた孤立 両親死亡後 周囲に攻撃的態度 愛媛新聞 2013.07.27)」といわれている。

また、H死刑囚は、「村おこしを提案」などもしていたようだが、他の住人からは受け入れられず、自宅敷地に上半身裸のマネキン人形を置いたりしていたようだ。

生まれ故郷に戻り孤独を深めた60代の男性による大量殺人事件。

この事件とH死刑囚は「善次郎」のモデルだ。

映画『楽園』Y路地の先

1人の少女が消えたY路地。

その日、その時、そこにいた3人の主人公「紡」「豪士」「善次郎」。

「紡」の幼馴染で「紡」に好意を抱く「野上広呂」は闘病中だ。

彼は「紡」に言う。

5年後生存率50% 俺がんばるわ。

映画『楽園』 「野上広呂」の台詞

消えた少女はY路地の左の道に行った。

「善次郎」の家と集落はY路地を左の道に入り進む。

母親に捨てられる不安のなか涙を流していた「豪士」は、Y路地の左側の道に空きスペースに車を停めていた。

「善次郎」は呟いた。

森に戻すんだ。もう誰も住む人間もいなくなる。先祖から続いた場所がなくなるんだ。

映画『楽園』 「善次郎」の台詞

「野上広呂」から「楽園をつくれ」と言われた「紡」は、Y路地のどちらの道を歩くのか?

左の道か、右の道か。

映画のなかに――答えは用意されているようだ。


★「奈良県月ヶ瀬村女子中学生殺人事件」引用・参考文献
生徒を送迎、/捜索にも参加/丘崎容疑者 沖縄タイムス 1997.07.23
奈良・月ヶ瀬事件 「皆どうすれば…」 わずか26戸の村のつきあい、苦悩深く 読売新聞 1997.07.25
奈良の中2連れ去り 絞り出すような声でついに自供 丘崎容疑者 中日新聞 1997.08.02
充代さん事件 丘崎容疑者「無視され腹立った」 四駆ではねた動機を供述/奈良 読売新聞 1997.08.07
奈良・少女不明事件 重傷を負わせたこと知れたら「村にいられない」--丘崎容疑者 毎日新聞1997.08.10
丘崎服役囚が自殺 奈良・月ケ瀬村の中2女子殺害 朝日新聞 2001.09.19

★「栃木小1女児殺害事件」引用・参考文献
栃木・旧今市の小1女児殺害:あす初公判 物証なく自白焦点 弁護側、無罪主張へ 毎日新聞 2016.02.28
栃木女児殺害公判 最終陳述 「いわれない罪」被告、涙声張り上げ 茨城新聞 2016.03.23
栃木・女児殺害 容疑者の元義父 事件関与の気がした・いつか逮捕と NHKニュース 2014.06.03
人付き合い苦手=毎夜コンビニ弁当-女児殺害で逮捕の勝又容疑者 時事通信 2014.06.03 
栃木・小1女児殺害 逮捕の男 女児宅近辺で生活 母手伝い骨とう市で仕事 NHKニュース 2014.06.03

★「山口連続殺人放火事件」引用・参考文献
山口・連続殺人容疑者逮捕 山奥の集落 深めた孤立 両親死亡後 周囲に攻撃的態度 愛媛新聞 2013.07.27
【ネットろんだん】山口5人殺害 限界集落の容疑者に“奇妙な同情”産経新聞 2013.08.02

★「津山事件」 引用写真 津山事件の被害者と遺族 1938年5月 毎日新聞社「昭和史 第8巻」作者不明

映画『楽園』公式サイト


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Jean-Baptiste Roquentin

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。 Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。 小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。 分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。