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考察!映画『白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々』ゾフィー・ショルの良心と勇気

ご注意:この記事には、映画『白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々』のネタバレが含まれています。

2006年に日本公開された『白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々』は、白バラ運動(ナチ抵抗運動)の実行者として兄とともにゲシュタポに逮捕され、21歳の若さでギロチンの露と消えたゾフィー・ショルの最後の6日間(1943年2月17日から2月22日)を描いた映画である。

ミュンヘン大学の女子大学生ゾフィー・ショルは、兄ハンス・ショルらと伴にナチ政権を批判するビラを撒いた。ナチの法により逮捕されれば、極刑(死刑)の可能性が考えられるなか、自分の良心に基づき行動した21歳の勇気は人々に様々な感情を抱かせる。

映画『白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々』で描かれるゾフィー・ショルの最後の6日間から彼女の良心、勇気、恐怖、希望を考察する。

映画白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々概要

ドイツ映画『白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々』の監督は、ドイツ出身のマルク・ローテムント。主人公のソフィー・ショルを見事に演じたのは、アドルフ・ヒトラーの人間的側面とナチ第三帝国崩壊の最後を描いた映画『ヒトラー 〜最期の12日間〜(日本公開2005年)』、『エルサレムのアイヒマン』の著者ハンナ・アーレントを描いた映画『ハンナ・アーレント(日本公開2013年)』にも出演したユリア・イェンチ。

また、映画『白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々』は、第55回(2005年開催)のベルリン国際映画祭において、銀熊賞(監督賞)と銀熊賞 (女優賞)、さらに「全キリスト教会最優秀賞」を受賞し、2005年の第78回アカデミー国際長編映画賞にもノミネートされた傑作映画である。

出典:動画配信サイト「ビデックス」公式チャンネル

映画白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々あらすじ

冒頭――「この映画は90年代に新たに出た証言と資料に基づいて作られている」(引用:映画『白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々』日本語字幕版)のテロップとラジオから流れる軽快な流行歌。音楽に合わせ友人と微笑みあいながら歌うゾフィー・ショルの姿が描かれている。

名門のミュンヘン大学で生物学と哲学を学ぶゾフィー・ショルは、同じ大学で医学を学ぶ兄ハンス・ショルらと反ナチ組織の「白いバラ」の一員だった。彼(女)ら、「白いバラ」のメンバーは、言論による非暴力的な反ナチ活動を密かに続け、反ナチ運動啓発のチラシを市民に郵送していた。

チラシには、東部戦線スターリングラードの戦いにおけるドイツ軍の敗北の事実やヒトラー批判、ナチ政権批判、戦争継続の反対、ナチによる欧州各国の占領政策の過ち等が書かれている。

1943年2月17日の夜。兄のハンスは、余剰のチラシをミュンヘン大学構内に撒くことを他のメンバーに提案する。他の「白いバラ」のメンバーは、大学構内での配布等の危険性を指摘するが、ハンスは、全責任を一人で受けると言い、その言葉に触れた妹のゾフィー・ショルが行動に加わることとなる。

1943年2月18日、鞄にチラシを入れたゾフィー・ショルと兄のハンスは、ミュンヘン大学を訪れ、講義中の講堂、廊下、欄干の上などにチラシを置き、最後に欄干の上のチラシをゾフィー・ショルがアトリウムに落下させた。

だが、二人の行動は、大学用務員のヤコブ・シュミットに発見され、ゲシュタポに通報されてしまう。ゾフィー・ショルと兄のハンスは、到着したゲシュタポのロバート・モール等に逮捕され、ミュンヘン市内のゲシュタポ施設に移送され、ゾフィー・ショルはモールからの取調べを受けることになる。

逮捕された当初のゾフィー・ショルは、容疑(「反逆罪、軍の士気喪失の企て、敵対ほう助」)を否認する。それにより、一旦はゾフィー・ショルの釈放手続が始まるが、モーアは、兄妹の住まいへの家宅捜索で得た情報を基に他の「白いバラ」メンバーの関与の有無、東部戦線で負傷し戦地の病院に入院しているゾフィー・ショルの婚約者リッツ・ハルトナーゲルの関与の有無などを追及しながらゾフィー・ショルを追い詰め、追い詰められたゾフィー・ショルは、他の「白いバラ」メンバーを守るため、容疑を認めてしまう。

1943年2月21日ゾフィー・ショル、兄のハンス・ショル、「白いバラ」メンバーのクリストフ・プロープストは、検察官に呼ばれ、起訴を告げられる。罪状は「反逆罪、軍の士気喪失の企て、敵対ほう助」の死刑もあり得る重犯罪だった。

1943年2月22日午前10時――逮捕から5日目、起訴の翌日――民族裁判所(人民裁判)が開廷される。 ゾフィー・ショル、兄のハンス・ショル、クリストフ・プロープストの三名を裁くのは悪名高いローラント・フライスラーだった。

ローランド・フライスラーは、三人の被告を恫喝し、罵倒し、侮辱しながら裁判を進めるが、三人の国選弁護人はそれらの言葉を黙って聞き入れるだけだった。産後療養中の妻と生まれたばかりの子を含む3人の小さな子供の父親であるクリストフ・プロープストにも一切の情はない。

ローランド・フライスラーの怒声、侮辱の言葉が飛び交う異常な法廷のなか、兄のハンス・ショルとゾフィー・ショルは、堂々と自分達の主張を述べ、最終弁論でハンス・ショルは、同志クリストフ・プロープストを庇い、ゾフィー・ショルは、「今にあなたが、ここに立つわ(引用:白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々 日本語字幕版)」と言い放つ。

同日の14時30分、死刑判決を受けた三人は、ゲシュタポの施設に移送される。そして、移送先の独居房の中で同日、死刑が執行されることを知らされる。面会を許された両親の前では涙を堪え気丈に振る舞うが、両親との最後の別れの後に彼女の目に涙が溢れる。

17時。刑務所司祭の祝福を受けた三人は、最後の抱擁を交わし、冷たいギロチンが置かれた処刑室に、一人一人、連行される。

最初は、ゾフィー・ショル。その後は、兄のハンス・ショル。ギロチンの刃が落ちる際の金属の摩擦音と共に「自由万歳!」の叫び声が聞こえてくる。それは、兄のハンス・ショルの魂と良心の叫びだったのだろう。

ゾフィー・ショルの不安と恐怖

自らが通う大学の構内で逮捕され、後ろ手錠を掛けられ、ゲシュタポの建物に連行される時の表情。取調べのため兄と引き離される場面の表情。ゲシュタポのモーアから初めて取調べを受け震える手を隠すように押させる仕草など、逮捕から5日後に処刑された21歳の学生ゾフィー・ショルの不安と恐怖を主演ユリア・イェンチは見事に演じている。

自らの選択の結果といえ21歳のゾフィー・ショルの不安と恐怖は想像に余りある。自らの信念を貫くとはいえ余りにも過酷な運命だ。

映画『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』は、ゾフィー・ショル不安と恐怖をも描いた傑作だといえるだろう。

「法」か良心か?

戦争前は仕立屋だったと思われるゲシュタポのモーア(彼にはゾフィー・ショルの一歳年下の息子がいる。息子は東部戦線で戦っているようだ)は、ヴェルサイユ条約から生まれた失業とインフレの国難をヒトラーが救ったと信じているようだ。戦争がおきなければ、彼は田舎の巡査止まりだったとも言う。

ブルジョワ文化を敵視し、財閥(特に国際資本家、ユダヤ財閥)や共産主義からの欧州解放を掲げた国家社会主義(国民社会主義)ナチが、モーアに代表される非エリート層、非インテリ層、ドイツ労働者、貧困者の不満のはけ口となり希望を与えた側面は否定できない。

1943年2月20日の取調べで、ゲシュタポのモーアとゾフィー・ショルの違いが浮き彫りになる。二人の価値観の違いは、モーアの「法があり、人間がいる」「秩序を守るために法が必要だ」「みんなが勝手に善悪を決めたらどうなる?」に対するゾフィー・ショルの「良心に頼るべき」、「法が変わっても心は普遍」「ナチの恐ろしい大虐殺に目を閉じるの?」に対話に象徴される。

目的遂行のために人間感情を押し殺すことを是とするナチとナチの蛮行に目を瞑ることの出来ないゾフィー・ショルの良心。法は人間の幸福追求の手助けするためにある筈だが、その法が人間に苦痛と死を与える。

ゾフィー・ショルは、ナチのユダヤ人への蛮行や精神障碍を持つ児童の虐殺行為(T4作戦)を例に挙げながら、ナチの間違いを指摘する。彼らに哀れみを感じるのは間違っているのか?「(障碍者は)価値の無い命だ」と、言うモーアに「人間の裁けるの神だけだ」「命は尊い」と、ゾフィー・ショルが反論する。

プロテスタンのゾフィー・ショルの良心は、人間に苦痛、恐怖、死を与える法と権力を許せなかったのだろう。ゾフィー・ショルの良心や神の話は、権力ある職業(ゲシュタポ=役人の職)と生活の安定を与えてくれたナチを信じ、神を否定するモーアを不安にさせ苛立たせる。

映画の中の良心の人々

映画『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』のハンスとゾフィーの兄妹は、ナチの法により役人(ゲシュタポ)に逮捕され、司法の場(民族裁判所は一審制)で悪名高きローラント・フライスラーから死刑判決を受け、ギロチンにより処刑される。

法を犯し、裁かれ、刑罰(死刑)を受ける。ゲシュタポの尋問、ローラント・フライスラーから受ける最大級の侮辱。逮捕の恐怖。拷問の恐怖。死刑の恐怖。

法を使い最大限の恐怖を国民に与え国民を統制しようとするナチと良心の人々の戦い。法に背いたことが発覚すれば、責任を取らなければならない。それは死を意味する。

だが、良心に突き動かされ、ナチの法を犯し、責任を引き受けた人々がいた。映画の中の彼(女)等は、ナチの蛮行と彼(女)等の良心と勇気を永遠に語り伝えるだろう。以下は、名作映画の中で描かれた良心の人々である。

作品名作品の概要解説と考察
『シンドラーのリスト』(1993年)オスカー・シンドラーはナチ党党員であり、最初は自分の利益のために行動する。だが、ゲットーや絶命収容所のユダヤ人囚人達に関わるなかユダヤ人囚人を助けるために全ての私財を投げ出す。また、彼はユダヤ人少女とキスをした罪で逮捕されている。
『ワルキューレ』(2008年)貴族(伯爵家)出身のクラウス・フォン・シュタウフェンベルクは、ドイツ国防軍将校などによるヒトラー暗殺計画(1944年7月20日事件)の中心的人物である。プロイセン貴族出身者が多数を占めるドイツ国防軍は、エリート意識と伝統の誇りを持ち合わせ、ヒトラー(オーストリア生まれの元伍長)に反感を抱く者もいたが、全ての軍人等はヒトラー個人への忠誠を誓っていた。だが、ドイツ国防軍の将校であるクラウス・フォン・シュタウフェンベルクらは、忠誠と法を破りヒトラー暗殺計画(ワルキューレ作戦を立案、実行する)。「ワルキューレ作戦」は、偶然が重なり失敗に終わり、即日処刑されたクラウス・フォン・シュタウフェンベルク等を除く多くの計画関係者が悪名高いローラント・フライスラーにより侮辱され死刑判決を受け、ピアノ線を使った絞首刑に処されたといわれている。
『ヒトラー暗殺、13分の誤算』2015年1939年11月8日のヒトラー暗殺未遂事件のゲオルク・エルザーは、職人(大工)、工場労働に従事する「大衆」のなかのドイツ人だった。1939年11月8日のヒトラー暗殺未遂事件の後に逮捕されたゲオルク・エルザーはゲシュタポから激しい侮辱と拷問を受ける。ヒトラー暗殺未遂事件を組織的犯行だと見立てるゲシュタポは激しい拷問により共犯者の名前を言わせようとするが、彼は他の者の名前を口に出さなかった(結局、ナチは単独犯だと結論つける)。中世の魔女裁判のような拷問に耐えた彼は、その後、ダッハウ強制収容所に送られ、1945年4月9日に処刑された。それはナチス敗北の約1カ月前の処刑だった。
実話に基づく人間の良心と勇気を描いた主な有名反ナチ名作映画

その他、反ナチレジスタンス運動/ナチ要人(「金髪の野獣」「鋼鉄のハートを持つ男」と呼ばれたハイドリヒ)暗殺を描いた『ハイドリヒを撃て!「ナチの野獣」暗殺作戦(2016.)』、絶滅収容所の反乱(『サウルの息子(2015.)』)、「良心的兵役拒否者」を理由にナチに処刑された実在の農夫フランツ・イェーガーシュテッターを描いた米国映画(『名もなき生涯(2019年)外部リンク:映画『名もなき生涯 (原題:A Hidden Life)予告編moviecollectionチャンネル』)など映画のなかで描かれる良心は枚挙にいとまがない。

上記の作品や『白バラの祈りゾフィー・ショル、最期の日々』は、実在した無名の良心の「象徴」となる物語でもある。

「ヒトラー」とは何なのか?

第一次世界大戦により世界(欧州)の様々な価値、制度が破壊される。ドイツ皇帝の退位、ロシア社会主義革命、オーストリア=ハンガリー帝国の崩壊によるハプスブルク家の衰退、アメリカの台頭と国際資本の台頭。

ドイツとの国境に近いオーストリア=ハンガリー帝国のブラウナウ・アム・イン生まれのアドルフ・ヒトラーは、学校生活に馴染めなかった。彼の最終学歴は義務教育卒業(中等教育=実科学校中退)である。

さらに、当時(1998年以降は大学)は職業訓練学校だった「ウィーン美術アカデミー」の受験に失敗し、社会と時代の漂流者となるが、欧州を破壊した第一次世界大戦に生き甲斐を見つける。

だが、ヒトラーの活躍を認め、鉄十字勲章と伍長の階級を彼に与えたドイツ帝国は英米仏に敗北し、ドイツとドイツ民族は、中・東欧の中心的立場から敗戦国民の烙印を押されてしまう。

街には失業者が溢れ、生活、人生に不満を抱いた大衆は、過激な無政府主義者、社会主義、共産主義者、国粋主義者、民族主義者となり殺し合いが始まる。

ヒトラーもそのような大衆の一人だった。そして、大衆の不満がヒトラーを後押し、ヒトラーに敗戦国ドイツの救世主の役割を与えた(勿論だがナチの巧みなプロパガンダが大衆に影響を与え勢力拡大を後押ししたことに異論の余地はないだろう。時代、社会制度の崩壊、価値観の崩壊、大衆一人一人の不満、ナチのプロバガンダ、ナチ政権の賛同することにより得られる利権等が循環しながら、ナチズムの円は大きくなり、欧州と世界を戦禍に飲み込む。ただし、ナチズムは民族主義が根底にあるため、民族を超越する共産主義や新自由主義のような広がりはないだろう)。

そう、「ヒトラー」とは大衆の心にある「悪徳」の「象徴」なのかもしれない。

良心と勇気とは?希望とは?

プロテスタントの裕福な家庭に育ち(父親は自由主義者の町長)名門ミュンヘン大学に通うゾフィー・ショルや兄のハンス・ショルは、エリート層に違いないが、彼らの抵抗運動(白バラ運動)は、彼らの経験、感性、教養などに裏打ちされた「良心」から生まれたのだろう。

ゾフィー・ショルは、父の「困難な状況でも正直に生きろ」、兄の「強い精神と優しい心」という言葉を口にする。

国家からの規制が多岐に渡るナチ政権時代のドイツは、国家、社会、人間関係が牢獄と監守の役目となった時代だ。大衆の「悪徳」が巨大な権力を持ったヒトラーを誕生させた時代だ。その時代の中でも、「自分の基準」「良心」を保ち続けることが出来た白バラ運動の彼ら彼女らを勇気づけたのは何だろうか?

自己満足か。エリート層への期待か。大衆へ期待か。信仰心か。若さか。純粋さか。

司法取引をチラつかせながら、仲間の名前を言えと迫るゲシュタポのモーアにゾフィー・ショルは答える。

自分だけ助かるために仲間を裏切れと?

映画『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』字幕版

嘘、密告、裏切り、大量虐殺――「悪徳」が幅を利かすナチ政権下。多くの大衆は、保身などを理由に沈黙し、「悪徳」を放置し、「悪徳」に消極的にせよ加担する。だが、ゾフィー・ショルには、それら全ての「悪徳」が許せなかったのだろう。沈黙も保身も時には「悪徳」の一つになるのだ。

両親との別れにゾフィー・ショルは言う。

――天国で会いましょう――

ゾフィー・ショルの言葉は、ナザレのイエスを思い出させる。

イエスは答えられた、「わたしの国はこの世のものではない。もしわたしの国がこの世のものであれば、わたしに従っている者たちは、わたしをユダヤ人に渡さないように戦ったであろう。しかし事実、わたしの国はこの世のものではない」。

ヨハネ福音書 18章36節「ワードプロジェクトHP」

刑の執行を前にした裁判後の収容先(刑務所)に、両親が面会に来る。取調べを担当のゲシュタポのモーアが訪れる。ゾフィー・ショルと同年代の息子を持つゲシュタポのムーアは何を感じたのだろう?彼は、ゾフィー・ショルに慈悲を与えようとしながらもナチの法に従ったようにも思える。

ユダヤ人の大量移送に関わり、イスラエルで処刑されたアドルフ・アイヒマンのように、モーアもナチの役人の職を全うしただけだと言い訳するかもしれない。なお、アイヒマンの人物像とアイヒマン裁判の詳細については、ハンナ・アーレント著『エルサレムのアイヒマン』(1963年)が有名である。

刑務所の女看守が規則を破り、ゾフィー・ショルに一本の煙草を与え、ハンス・ショルとクリストフ・プロープストに会わせる。三人は女性看守から貰った一本の煙草を回し飲む。 ナチの役人も人間だ。彼ら彼女にも良心や他人への哀れみ情や良心がある。ただ、良心に従う勇気がないだけかもしれない。良心を貫く勇気を持つことは難しいが、良心と勇気が人間の希望なのだ。

まとめ

1943年2月22日、ゾフィー・ショルはギロチンにより21歳の短い生涯を終える。だが、「白バラ抵抗」に参加し、処刑された若者は、時代の殉教者となった。

ナザレのイエスの物語が2000年の時を超え語り継がれているようにゾフィー・ショルと「白バラ運動」の若者の物語が語り継がれていくとこを切に願う。

映画『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』もその一つである。


参考文献
『白バラの声 ショル兄妹の手紙』ハンス・ショル,ソフィー・ショル著,訳山下公子,新曜出版,2006.

参考Webサイト
映画『白バラの祈り ゾフィー・ショル、最期の日々』公式サイト


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