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映画『ブラジルから来た少年』解説と考察~ナチ残党VS.ナチ・ハンター

★ご注意:この記事には、映画『ブラジルから来た少年』のネタバレが含まれています。

映画『ブラジルから来た少年』概要

1979年4月に開催された第51回アカデミー賞で主演男優賞、音楽賞など3部門にノミネートされた映画『ブラジルから来た少年(The Boys from Brazil)1978年公開』。

1967年に出版され原作小説の著者は、傑作ミステリー『死の接吻(A Kiss Before Dying)』や1968年に映画化された『ローズマリーの赤ちゃん(Rosemary’s Baby)』などのアイラ・レヴィン(1929年8月27日-2007年11月12日)。

監督は『猿の惑星(1967)』、『パットン大戦車軍団(1970)』『パピヨン(1973)』などの作品でアカデミー賞受賞歴のある名監督フランクリン・ジェームス・シャフナー(1920年5月30日-1989年7月2日)。 主演は「sir(一代限りの勲位)」の称号を持つ英国の伝説的俳優ローレンス・オリヴィエ、20世紀を代表する俳優グレゴリー・ペック(『アラバマ物語(1962)』でアカデミー賞主演男優賞受賞)、無冠の名優とも呼ばれる名優ジェームズ・メイソンであり、重厚かつ威厳のある二人の名俳優、ローレンス・オリヴィエ演じるナチ・ハンターとグレゴリー・ペック演じる死の天使ヨーゼフ・メンゲレの対決場面は名優の激突といっても過言ではないだろう。

映画『ブラジルから来た少年』あらすじ

物語は南米のパラグアイのレストラン「ハイデンブベルク(ハイデンベルクはドイツの古都の名でもある)」から始まる。

張り込みをする元ユダヤ青年自衛団のメンバーでユダヤ系アメリカ人ナチ・ハンターのバリー・コーラは、店に到着した1台のメルセデス・ベンツの尾行を開始し、ナチの残党グループ(ナチス会)のメンバーの秘密会合を突き止め、会合に出席したアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所の元主任医師で「死の天使」ヨーゼフ・メンゲレの秘密計画と極秘指令を盗聴に成功する。

死の天使と呼ばれた戦争犯罪人ヨーゼフ・メンゲレの計画と指令は、2年半のうちに米国、西ドイツ(現在のドイツ)、英国、カナダ、スウェーデン、ノルウェー、オーストリア、オランダ、デンマークに住む年齢65歳の公務員男性94人を殺すことだった。

バリー・コーラは、盗聴した会話と内容をオーストリアに住む老齢の有名ナチ・ハンター、リーベルマン(リーバーマン)に電話で伝えるのだが――

調査を始めたリーベルマンは、その過程で大きな違和感に気づく。

その違和感は、ナチの残党一派(ナチス会)に殺されたと思しき、複数の年齢65歳の男性の妻の年齢が42歳前後であること、夫婦の間の1人息子の年齢が14歳前後であること、その少年の容姿(顔色が悪く黒い髪に青い眼が特徴)や声や陰気で傲慢な性格や振る舞いなどが全て同一であること、その少年たちは、写真、音楽など芸術的な嗜好を持ち、非常に頭の良い子供だが、わがままで他人の不幸などへの共感力には乏しいこと――

そして、リーベルマンは、生前のヒトラーと死の天使ヨーゼフ・メンゲレの極秘計画を知ることになる。それは、ヒトラーのクローンを誕生させ、誕生した子にヒトラーの少年期と同じ環境を与え、ヒトラーの完全コピーを創り、ナチを再興させるという内容だった―― 極秘計画により誕生した幼いヒトラーのクローン達は、ドイツ系移民などが1927年に設立したブラジルで最も古い航空会社(現在はない)ヴァリグ・ブラジル航空の飛行機で米国などにわたり、北方人種(ノルディック)系家庭の養子となり――。ナチ残党一派とナチ戦犯を追うリーベルマン(リーバーマン)。

秀逸なラストシーンは正義とは?人間とは?裁きとは?寛容とは?人権とは?などのナチの蛮行を知る20世紀中盤以降の人類の普遍的なテーマへと繋がっているようでもある。

映画『ブラジルから来た少年』実在のモデル

映画『ブラジルから来た少年(The Boys from Brazil)』は、総統アドルフ・ヒトラーの完全コピー(生物的なクローン及び性格、性質面でのコピー)を創りだそうとするナチの元幹部(戦争犯罪者)とそれらの元ナチ戦争犯罪人を追うナチ・ハンターの物語である。

第二次世界大戦敗戦後――ナチ党幹部、親衛隊幹部、親衛隊員などの戦争犯罪人は、ナチの秘密組織オデッサ(ODESSA:Organisation for ex-SS Members)やカトリック教会(ローマ教皇庁)などの助力(ナチの元幹部はカトリック宣教師のパスポートを使用して南米に逃亡したとされている)を得て南米などに逃亡する。

なお、秘密組織「オデッサ」が登場する映画作品には、『ジャッカルの日』、『第四の核』などの著者でスパイ・戦争小説の巨匠フレデリック・フォーサイス原作の『オデッサ・ファイル(1974)』やダスティン・ホフマン、ローレンス・オリヴィエ主演の『マラソンマン(1976)』などがある。なお、『マラソンマン(1976)』では、ローレンス・オリヴィエが死の天使ヨーゼフ・メンデレをモデルにしたクリスティアン・ゼル博士を演じている。また、映画『オデッサ・ファイル』は、本作(『ブラジルから来た少年』)でローレンス・オリヴィエ演じる古老のナチ・ハンター「リーベルマン」のモデルであるサイモン・ヴィーゼンタールが実名で描かれている。

以下は、映画『ブラジルから来た少年』の2人の主人公のモデルであるサー・サイモン・ヴィーゼンタールとヨーゼフ・メンゲレ(本作では実名で描かれている)の略歴である。

リーベルマンのモデル
サー・サイモン・ヴィーゼンタール
(Sir Simon Wiesenthal、1908年12月31日-2005年9月20日)
死の天使ヨーゼフ・メンゲレ
ヨーゼフ・メンゲレ

(Josef Mengele、1911年3月16日-1979年2月7日)
1908年
当時のオーストリア・ハンガリー帝国でユダヤ人の家庭に誕生
1911年
当時のバイエルン王国(現在のドイツ)で会社経営者の家庭に生まれる
1936年
ナチに併合されたチェコスロバキアのプラハ工科大学を卒業
1935年
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンなどで遺伝学、医学、人類学を研究し、人類学の博士号取得
1941年
独ソによるポーランドが解体後のポーランド総督府内(現在はウクライナ領内)のルヴフ・ゲットーゲットーに強制移住
1938年
親衛隊入隊。「口唇口蓋裂の家系調査」の研究で医学博士号取得
1942年
現在のオーストリア領内のマウトハウゼン強制収容所に強制収容
1942年
軍医として第5SS装甲師団に配属。東部戦線負傷するが第一級・第二級鉄十字章などを授与
1945年5月5日
アメリカ軍によりマウトハウゼン強制収容所が解放される。
その後、元ナチの秘密警察(ゲシュタポ)や強制収容所の看守などの追跡を開始
1943年
親衛隊軍医としてアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所に配属
1960年5月
アルゼンチンのブエノスアイレスにおいて偽名で生活していた元親衛隊中佐アドルフ・アイヒマンの逮捕に貢献。なお、アイヒマンはホロコースト政策の最重要人物の1人である
1945年1月17日
ソ連軍によるアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所解放前に他の強制収容所に移動
1977年
アメリカのロスアンジェルスにホロコーストの記憶を風化させないなどの目的とする非政府組織施設が設立され、サイモン・ウィーゼンタール・センター(本部アメリカ・ロスアンジェルス)と名付けられる
1949年
南米アルゼンチンに逃亡
2004年
英国政府から「sir」の勲位を授与。フランス政府からレジオンドヌール勲章を授与。
1960年以降
サイモン・ヴィーゼンタールなどの尽力によりアドルフ・アイヒマンが逮捕。チリ、ブラジルなどに逃亡
2005年
ウィーンの自宅で死去
1979年
ブラジルのサンパウロの海岸での海水浴中に脳卒中により死亡

1992年
ブラジル政府がDNA鑑定により上記サンパウロで溺死した人物を本人と断定
サー・サイモン・ヴィーゼンタール及びヨーゼフ・メンゲレの略歴

第一次世界大戦(1914年7月28日~1918年11月11日)直前の1900年代前半の中央ヨーロッパ(当時のバイエルン王国とオーストリア・ハンガリー帝国)に生まれた2人の人間。

何の罪も犯していないにも関わらず、(偶然に)ユダヤ人に生まれたことだけを理由に強制収容所に送られ、多くの親族が殺されたサイモン・ヴィーゼンタールと強制収容所内のユダヤ人などに人体実験を行った「医師」ヨーゼフ・メンゲレ。

正義(当然だがサイモン・ヴィーゼンタールの正義は私刑ではない。彼は正式な裁判での公正な判決による正義の実現を求めている)の実行のために戦うサイモン・ヴィーゼンタールと戦争犯罪人として逃亡者となったヨーゼフ・メンゲレ。

2人の対照的な人生から我々はこれからも学びを得るだろう。

生物学的なヒトラーのクローンと思想的なヒトラーのクローン

1997年2月22日、哺乳類としては世界初の体細胞クローン雌羊のドリーの成功が発表された。

体細胞クローン雌羊のドリーの成功の報道を受け、「(前略)一九七八年に公開された映画『ブラジルから来た少年』は、戦後ナチスの医師がヒトラーのクローンをつくり、第三帝国の再来を期すというストーリーが展開する。話が独裁者ヒトラーのクローンだから恐ろしいが、これがエジソンやアインシュタインのような社会貢献をした人のクローンなら良いのか。海外のインターネット上では、すでに美人モデルの卵子や高学歴男性の精子が高額で売買されている。(後略)(引用:クローン人間を考える 自然界の法則を覆す行為 厳しい国際規制が必要 京都新聞 2002年12月31日付)」など、映画『ブラジルから来た少年』を引用しながらバイオテクノノジーに対する賛否両論(概ね否定の報道が多いが)の報道がなされた。

また、2010年代には、映画『ブラジルから来た少年』を引用しながら、歴史修正主義やヒトラー的な差別思想をヒトラーの思想的なクローン、ヒトラーのコピー、現代のヒトラーなどと指摘する言説も現れる。

映画『ブラジルから来た少年』リーベルマンの言葉

技術の進歩と過激で危険な思想に我々はどのような基準を用いて対処する必要があるのだろうか。それとも対処の必要はないのだろうか。 映画『ブラジルから来た少年』の主人公エズラ(原作はヤコフ)・リーベルマンの言葉がヒントになるかもしれない。

94人のヒトラーのクローン少年を殺すため名前と住所教えろと迫るユダヤ青年自衛団デビッドにリーベルマンは言う。

罪のない者を殺させるわけにはいかない

映画『ブラジルから来た少年』字幕版

そう、94人のヒトラーのクローン少年には罪はない。彼らは何も罪を犯していない。

リーベルマンは少年の名前などが書かれたリストの紙を燃やしてしまう。


※引用文献
クローン人間を考える 自然界の法則を覆す行為 厳しい国際規制が必要 京都新聞 2002年12月31日付


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