長野県松本市のペット業者による動物虐待事件

松本市のペット業者Mによる動物虐待事件

2022年4月8日、動物愛護法違反(虐待)の罪状により長野地裁松本支部で公判中(2022年4月9日現在)のM被告が動物愛護法(殺傷)の容疑で長野地検松本支部に「書類送検」されたとの報道があった。

現在、公判中の動物愛護法(虐待)事件の起訴状によれば、「昨年9月2日、松本市内の2カ所の繁殖場で、計452匹の犬を劣悪な環境で拘束して衰弱させ、虐待したとされる(引用:朝日新聞 2022年3月17日被告、起訴内容認める 松本のペット業者、犬虐待事件初公判)」と報道されており、長野県警による2021年9月のM被告の長野県内の関係先2か所への家宅捜索の際には約1000匹の犬が飼育されていたとの報道もある。

なお、長野地検松本支部は2022年8月9日、M被告が400匹超の犬を虐待した「動物愛護法違反(殺傷)」などの罪で地裁松本支部に起訴した(引用:犬殺傷などの罪、元経営者を起訴 松本のペット業者虐待 朝日新聞2022年8月10日付)」と報道された。

これまでのM被告の事件にはタレントの杉本彩氏が理事長に就任する「動物環境・福祉協会Eva」の活動(2021年9月、同団体が刑事告発:出所,同団体のHPから)などが社会世論などを動かし大きな役割を果たしたとも思われる。

コロナ禍の影響もあり、ペットの購入者が増えているとの報道も散見されるなか、動物愛護法改正(改正動物の愛護及び管理に関する法律:2021年6月1日から段階的に施行)による事件の認知件数の増加をはじめ、犬などのペット動物への「虐待」に対する社会意識の変化などが感じられる。

また、M被告の動物愛護法(虐待)事件での強制捜査(家宅捜査は2021年9月)後の2021年10月29日に更新された長野県のHPには過去5年以上前からM被告が経営する関連施設(繁殖場など)の二か所の事業所に9回の立入検査を実施していたことや前述の2020(令和2)年6月の『動物の愛護及び管理に関する法律』改正(2021年6月1日から段階的に施行)などに触れ「本施設への過去の県の対応についても精査した上で、反省すべき点についてはしっかりと受け止め、今後の事業者への監視指導に活かしてまいる所存です」などと明記している。(外部リンク:長野県HP「松本市の繁殖業者の件について」

改姓動物愛護法の施行に伴い、今後はこれまで以上に県と警察の連携が強化され、悪質な事業者への積極的な処分などが行われるだろう。

以下は、M被告の動物愛護法違反(虐待)事件のこれまでの経緯をまとめた図表である。

2021年11月04日長野県警がM容疑者、外1名(同人は不起訴)を動物愛護法違反(虐待)の容疑で逮捕
2021年12月15日 長野地検松本支部がM容疑者を起訴。外1名は不起訴処分(詳細不明)
2021年12月20日長野地裁松本支部がM被告の保釈を決定 保釈金300万円 同日に保釈される
2022年03月16日M被告の初公判が長野地裁松本支部(高橋正幸裁判官)で開廷。M被告は起訴内容を認める
2022年08月09日長野地検松本支部はM被告が400匹超の犬を虐待した「動物愛護法違反(殺傷)」などの罪で地裁松本支部に起訴
(過去の報道を参考に作成)

最近の主な動物虐待事件ニュース

前述のとおり、世論などの後押しを受けた法改正が進み、それに伴いペットに対する虐待事件の認知件数は増えている。そして、報道などされた事件には非常に悪質な事件もある。

動物虐待検挙が過去最高 170件、猫最多―警察庁  昨年1年間に警察が動物愛護法違反で検挙した動物虐待が前年比68件増の170件で、統計のある2010年以降で過去最高となったことが7日、警察庁のまとめで分かった。社会的な関心の高まりで動物愛護団体や市民からの通報が増えているためとみられる。 検挙したのは199人2法人。虐待された動物は猫が95件で最多となり、犬は60件だった。ほかに馬、フェレット、インコなども対象となっていた。内容は動物を捨てる遺棄が81件で最も多く、餌をやらなかったり不衛生な環境で飼育したりする虐待が48件、殺傷が41件だった。空気銃を使って猫を射殺したとして、千葉県警が昨年6月に40代の男を逮捕するなどの事案があった。

時事ドットコムニュース 2022年04月07日10時06分

図表は、動物虐待の容疑で逮捕など(1名は家宅捜索の報道)された改正動物愛護法が施行された2021年6月1日から2022年4月9日までの主な過去の報道のまとめである。

動物虐待の容疑で逮捕など(1名は家宅捜索の報道)された改正動物愛護法が施行された2021年6月1日から2022年4月9日までの主な過去の報道は

同表の逮捕者などのなかには、その後、不起訴処分(詳細不明)になった者もいるため注意が必要である。

なお、同表6の元警察官は同僚への傷害事件(同僚の手に棒を突き刺す)で既に逮捕、起訴されていた。 また、確認された上記10件の事件のうち、40歳代以上の容疑者は7名であり、30歳代は2名(うち1名はベトナム国籍の男性)、20歳代は1名である。

サンプル数が10件と非常に少ないためこれらの数字から動物虐待事件の傾向を検証するには無理があるが、1980年代以前に生まれた現在40歳代以降の動物に対する価値観とそれ以降の価値観の違いを考える必要があるのかもしれない。なぜなら多くの人が共有する価値観は時代の空気により変化する可能性もあるからだ。

動物虐待事件は許されない犯罪・犬は人類の最も古い『親友』

M被告の事件は多くの犬を傷つけ、犬を大切な存在だと考える者と社会を動揺させた。犬は「人類の最も古い『親友』(参考:犬は人間の最も古い「親友」 DNAから判明BBCニュース)」ともいわれ、我々と犬との絆は過酷な氷河期にまで遡り、我々とネコなどとの関係も古代まで遡れる。我々と犬やネコやその他の家畜化された動物たちは非常に長い年月を共に生きてきた信頼できる友人なのだ。

最後に他者の命を奪い報酬を貰う仕事を生業とする名作『ゴルゴ13』(さいとう・たかを,著)の作品から人間と犬との関係を引用しよう。

犬は、かげがえの無い、人間のパートナーであり、その関係は神秘的ですらある。そんな犬好きの、誰かが言った。子供が産まれたら子犬を飼うがいい、子犬は子供より早く成長して、子供を守ってくれるだろう。そして子供が成長すると良き友となる。青年となり多感な年頃に犬は年老いて、死ぬだろう。犬は青年に教えるのである、死の悲しみを

ゴルゴ13 (Volume111) 黄金の犬 (SPコミックス コンパクト)さいとう・たかを,著 2007/12/28 リイド社

動物を虐待する者達にも命の奇跡と儚さを――感じて欲しいと切に願うばかりだ。


オススメの記事

2021(令和3)年9月29日の早朝、長野県議会議員の自宅兼経営先事務所内で同県議の妻N氏が遺体で発見された。長野県警は首を絞められた痕跡のある遺体の状況などから殺人事件の疑いで捜査を進めているとの報道がなされた。(参考:長野・塩尻 県議の妻変死 首に絞められたような痕 殺害された疑いで捜査 NHKニュース2021年9月30日付)事件発生から1年以上が過ぎた令和4(2022)年11月29日、現職の長野県議員丸山大輔容疑者が殺人の容疑で逮捕(逮捕は2022年11月28日)の報道がなされた。丸山大輔容疑者は容疑を否認しているという。...
長野県塩尻市の殺人事件と近年の家族間(殺人等)事件の事例 - clairvoyant report
渋谷通り魔事件の概要本記事は「渋谷通り魔事件」の15歳の女子中学生の氏名、SNS、学校などを特定する内容ではありません。本記事は頻発する「無差別殺傷事件」に関する考察記事です。2022(令和4)年7月26日、加藤智大死刑囚(39歳)の死刑が執行された。加藤智大元死刑囚(事件当時25歳)は、2008(平成20)年6月8日、休日の(東京都)秋葉原の歩行者天国で発生した無差別殺傷事件「秋葉原無差別殺傷事件(死亡7人、負傷10人)」で現行犯逮捕され、その後、殺人罪などの罪により2015(平成27)年に死刑が確定していた。それから約一...
渋谷通り魔事件(15歳の女子中学生による犯行)から考察する無差別殺傷事件 - clairvoyant report
教員・教師・教諭などによる児童・未成年に対する性暴力事件が後を絶たない。また、近年に逮捕などされた教員・教師・教諭などの加害成人、被害者児童は男女の性別を問わない。2021年度中に「児童・生徒にセクハラ・わいせつ行為で処分された教員は9年連続で200人を越えた」、「処分された公立小中高と特別支援学校、幼稚園の教員は215人」、「被害者やその保護者が望まないため告発しなかったケースが49件あった」(引用:「児童・生徒にわいせつ行為やセクハラ…教員215人を処分 21年度 9年連続200人越え 東京新聞2022年12月27日 20...
教員・教師・教諭などによる性暴力事例 - clairvoyant report
2019年から始まった新型コロナウイルス (COVID-19)の猛威は、日常生活を一変させ、日本経済や世界経済に大きな打撃を与えた。2020(令和2)年、日本政府は新型コロナ感染症により打撃を受けた(受ける)個人事業主、中小企業などへの緊急的な支援・対応策「持続化給付金」「家賃支援給付金」などの給付を開始した。急激に悪化する経済情勢のなか、緊急性が最重要視される「持続化給付金」「家賃支援給付金」などは、申請・審査が簡略化されたため、不正受給(詐欺事件)が横行した。 経済産業省(中小企業庁)の発表によれば、2023(令...
持続化給付金詐欺の主な逮捕者・事例(5つの事件の共通点) - clairvoyant report
2022年6月22日、東京都青少年健全育成条例違反の容疑で小川雅朝(おがわ まさとも)容疑者が逮捕された。小川雅朝容疑者は、自らをハウル・カラシニコフと名乗り(法人格のない)任意のボランティア団体『歌舞伎町卍会』の代表を自称していた。NHK 2022年6月22日 19時11分 配信東京・新宿区で16歳の少女にわいせつな行為をしたとして32歳の容疑者が逮捕されました。容疑者は、新宿の歌舞伎町で「トー横キッズ」と呼ばれる家出中の少年少女の相談に乗るなどの活動をしていました。容疑を否認しているということです。逮捕されたのは、職...
小川雅朝(ハウル)は過去に薬物事件で有罪判決を受けていた?高校球児か? - clairvoyant report
2022年10月以降、全国の8都県内において、同一グループの犯行の可能性が疑われる14件の強盗事件が発生し、「京都、大阪、福岡などの6府県でも昨年以降、一連の事件との関連が疑われる強盗や窃盗事件などが起きているという(引用:連続強盗で14都府県警集め捜査会議 警察庁、首謀者検挙を指示 毎日新聞 2023年1月27日配信)一連の連続強盗事件グループの指示役といわれる「ルフィ」こと渡邉優樹容疑者とは何者なのか?渡邉優樹容疑者とともに「過去の特殊詐欺」に関わる逮捕状(参考:「ルフィ」名乗る人物ら4人、フィリピン収容施設...
「ルフィ」こと渡邉優樹容疑者とは何者なのか? - clairvoyant report
闇バイトとは、組織化された犯罪集団等がSNSに高額報酬を謳う求人募集を掲載し、求人に応じた未成年者を含む若年層の男女が組織的犯罪に加担し報酬を得ることをいう。求人側が募集文句に「タタキ」「受け」「運び」等の犯罪を匂わせる隠語を使うこともあるが、闇バイト求人の大きな特徴は、「100万円の報酬」など常識の範囲を超える高額報酬の提示である。闇バイトに関係する重大事件は、2021年以降、14都道府県で50件以上(参考:「闇バイト」対策強化へ、月内にも省庁横断の閣僚会議…資産情報の流出防止策も検討 読売新聞 2023年3月...
闇バイト「貧困の連鎖」と「族の崩壊」 - clairvoyant report
事件概要2023年12月22日(金曜日)18時30分頃、神奈川県横須賀市衣笠に所在するファミリーレストラン内で知人女性の胸部を日本刀で刺した殺人未遂容疑で自称:佐藤央雄容疑者(52歳)、住所、職業不詳が逮捕された。その後、被害者女性は死亡したとの報道があるため、佐藤央雄容疑者の容疑は殺人に切り替わるだろう。クリスマス前の金曜日夕刻――ファミリーレストラン内での凶行――社会に大きな衝撃を与える事件だ。事件発生2023年12月22日(金曜日)18時30分頃発生場所神奈川県横須賀市衣笠被 害 者1名(女性)凶  器日本刀容  疑逮...
佐藤央雄容疑者は元暴力団か?神奈川県横須賀市内ファミレス殺人(未遂)事件 - clairvoyant report
2004年5月、千葉県から沖縄県へと跨がる未成年者誘拐事件が日本全国に衝撃を与えた。この事件は、住所、職業不詳の47歳、A容疑者によって引き起こされ、単なる犯罪行為にとどまらず、社会が直面している深刻な問題を浮き彫りにした。 事件発生時、A容疑者は10歳の女児を8日間にわたって連れ回し、その間、女児の健康や安全への懸念が高まった。幸いにも女児は無事保護され、この事件から多くの教訓が得られた。事件概要2004年5月某日18時頃、千葉県内に住む顔見知りの女児を誘拐した疑いで、A容疑者が逮捕された誘拐後、女児とA容疑者...
10歳女児沖縄連れ去り事件の教訓 - clairvoyant report
2024年3月28日、経済安全保障上の重要情報へのアクセスを、政府が信頼性を検証した個人に限定する「セキュリティ・クリアランス」制度の設立を目指した法律案について、衆議院内閣委員会で参考人による質疑が行われた。この制度では、日本の安全に重大な影響を与える恐れがある情報を「経済安全保障上の重要情報」として指定し、その情報へのアクセスを政府が事前に信頼性を検証した民間企業の従業員を含む限られた人々に制限する内容が提案されている。セキュリティ・クリアランス制度日本では以前から、国家の安全保障に不可欠な情報...
影の戦争:セキュリティ・クリアランスとスパイ防止法・有名スパイ事件と情報戦 - clairvoyant report
2024年3月11日、『冤罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟』は衆議院議員会館で結成総会を開催し、発足した。設立趣意書には、冤罪犠牲者の速やかな救済には捜査機関が保持する証拠の活用、再審手続きの明確化と透明化が必要であり、冤罪の疑いが明らかになった際には迅速に裁判のやり直しが行えるよう法整備を行うべきだと記されている。再審事件の報道を契機に国民の再審制度への関心が高まり、法改正が喫緊の課題として認識されているため、制度改革に取り組む時期が来ていると述べられており、これを背景に議員連盟...
飯塚事件:日本の司法制度の課題と冤罪のリスク - clairvoyant report

Jean-Baptiste Roquentin

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。 Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。 小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。 分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。