神戸6歳男児遺体遺棄事件から犯罪と障碍の複雑なつながりを考察

本記事は、2023年6月22日に発覚した神戸6歳男児遺体遺棄事件から犯罪と障碍の複雑なつながりを考察する記事である。

事件概略と着眼点

2023年6月22日、兵庫県神戸市西区玉津町の集合住宅内で同居する母(57歳)を監禁し怪我を負わせたという傷害等の容疑で4人の兄妹姉妹が逮捕された。

また上記事件現場となる兵庫県神戸市西区玉津町の集合住宅内付近の空き地では上記の容疑で逮捕・送検された34歳無職H・S容疑者の子(6歳男児)の遺体が発見されている。

兵庫県警は、6歳男児の遺体発見によりH・S容疑者ら計4人を57歳母に対する傷害等の容疑で逮捕したのだろう。

被害者となる57歳の母、H・S容疑者ら4人の兄妹姉妹及び遺体で発見された6歳男児が暮らしていた兵庫県神戸市西区玉津町の集合住宅付近の防犯カメラには、スーツケースを運ぶ4人組が映っていたといわれ、H・S容疑者は6歳男児の遺体を捨てたとの供述を始めたらしい(参考:母親、遺体を捨てたことを認める供述「4人で自宅からスーツケースで運んだ」日テレNEWS 2023年6月24日11時59分配信)

また、6歳男児の死因は外傷性ショックによるものではないかとの報道が散見されるため、今後は6歳男児の死とH・S容疑者ら4人の兄妹姉妹等の関係性に捜査と報道の焦点は移るだろう。

さらに、H・S容疑者ら逮捕された4人のうち複数(3人または全員)に知的障碍があり、4人の兄妹姉妹も幼少期に母(57歳)から虐待を受けていたとの報道も散見される。 知的障碍と犯罪加害/犯罪被害及び虐待の連鎖に着眼し、神戸6歳男児遺体遺棄事件から犯罪と障碍の複雑なつながりを考察していこう。

H・S容疑者らの知的障碍に関する報道について

H・S容疑者に関する過去の報道を確認したところ、約17年前に兵庫県内で開催された某障害者(障碍者)スポーツ大会少年女子の部に同姓同名者が出場していたことが認められ、同人物はH・S容疑者の可能性が高いと判断された。

上記からH・S容疑者の責任能力の有無等が最大の争点になりそうだ。検察の起訴の有無と起訴された場合の裁判の行方に注目したい。

なお、逮捕された他の3人の過去の報道は認めらなかったため、3人のうちの誰に障碍があるのか等は不明であり、現時点で責任能力を有すると思われる犯罪の主導的立場が誰なのかについてはわからなかった。

複雑な家庭

H・S容疑者の家庭は複雑である。母への傷害等の容疑で逮捕、送検された4人が兵庫県神戸市西区玉津町の集合住宅に転居してきたのは約10年前だといわれ、それ以前は逮捕時の居所から南東方向へ直線神距離で約5キロメートル離れた同市内の市営団地に居住していた。

H・S容疑者の兄弟姉妹には、逮捕された次男、次女、三女のほかにH・S容疑者の弟(長男)がいる。 H・S容疑者と逮捕された次男の年齢差が約2才であることから、H・S容疑者と次男に挟まれた長男との年齢差は1才程度だと推測される。

H・S容疑者と他の兄妹姉妹たちは、少なくとも小学生頃から以前の住まいである神戸市内の市営団地に住んでいたが、傷害の被害者となる母の夫(H・S容疑者ら兄弟姉妹の父)に関する情報はない。

現況でわかることは、母の夫(H・S容疑者ら兄弟姉妹の父)は、事件現場となる現在の居宅に同居していなかったことだけだが、そもそも、H・S容疑者ら兄弟姉妹の父がそれぞれ異なる可能性も考えられるだろう。

神戸6歳男児遺体遺棄事件 人物相関図

また2006(平成18)年頃、母(57歳)の同姓同名者の金銭問題に関する官報記載が認められ、住所等から同母の可能性が高いと判断される。つまり、H・S容疑者ら兄弟姉妹も子供の頃から金銭的に恵まれない状態のなかで暮らしていたのだろう。

H・S容疑者ら兄弟姉妹も子ども頃に母から虐待を受けていたとの報道と複雑な家庭環境及びH・S容疑者らが知的障碍を抱えている可能性があるという背景を考え合わすなら、神戸6歳男児遺体遺棄事件は、社会的な解決策を要する事件だともいえそうだ。

ちなみに、遺体で発見されたN君(6歳)には、戸籍上の父がいないとの報道がある。戸籍上の父がいないとなれば、父からの金銭的な援助や逃げ場となる場所がないことに繋がる。

遺体で発見されたN君は、複雑な家庭環境、閉鎖的な家族という人間関係、金銭的な困難、逃げ場のない空間、相談相手の欠如等の問題を抱えるなかで生活していたのかもしれない。

たった6年というわずかな時間しか生きられなかったN君が不憫でならない。

加害者と被害者と供述弱者

知的障碍と犯罪の加害者/被害者、知的障碍と乳幼児殺しを含む虐待、知的障碍と供述弱者の問題は以前より指摘されている。

女性看護助手が殺人罪で懲役12年を受け某刑務所に収監された湖東記念病院事件(2005年5月発生)では、後に同女性に軽度知的障碍と発達障碍が確認され、事件から約15年以上を経て無罪が確定した。

同女性は取調警察官に好意を抱き、同男性警察官に対する迎合と同警察官からの誘導(誤導)により虚偽の自白を行っていた。

神戸6歳男児遺体遺棄事件では、細心の注意を払いながら捜査が尽くされることを望んでしまう。

厚生労働所の統計資料(平成16年次から平成24年次)によれば、日齢0日の死亡を含む0歳児の心中以外の虐待死事例の死亡人数は、毎年20人以上で推移していることがわかり、2023年1月から6月20日までにも複数の赤ちゃん遺棄事件が確認できる。

参考・出典:厚生労働省「特集1:0日・0か月児死亡事例について」※平成19年は1月1日から平成20年3月31日まで(1年3か月間)と、対象期間(月間)が他の報告と異なる。

0歳児の心中以外の虐待死事例の死亡人数の推移(心中以外の虐待死)

同統計に含まれると推察される2019年12月、佐賀県武雄市で乳幼児の遺体を遺棄した事件の女性(25歳)と交際相手の男性(25歳)の被告は知的障碍を抱えていた。

同事件に関する報道記事の抜粋は以下のとおりである。

(前略)女性は18年10月頃、特別支援学校時代に同級生だった男性と交際を始めた。19年8月、腹痛を感じた女性は男性とともに妊娠検査薬を使用。妊娠が判明したが、親らには相談しなかった。女性は腹部の膨らみが目立たず、家族も妊娠に気付いていなかった。4人きょうだいで姉と弟はより重い知的障害を抱えており、両親が女性に関わる機会も少なかったという。(後略)

自宅出産 乳児遺体遺棄 知的障害女性 妊娠明かせず 読売新聞2021年11月23日付

佐賀県武雄市の出産直後の乳幼児遺体遺棄事件は、知的障碍を抱える女性の妊娠、出産に対する共助と公助について考えさせられる事件の一例である。

事件は防げるか?(まとめ)

知的障碍を抱える人々は加害者にも被害者にもなる。2023年6月23日現在、神戸6歳男児遺体遺棄事件の真相にはわからない点が多いがH・S容疑者ら兄弟姉妹が知的障碍を抱えているのならば(事実認定されるなら)同事件は社会的な議論が必要な問題にもなる。

社会は虐待の連鎖と知的障碍者の孤立出産を防ぎ子育て支援の充実をどこまでできるのだろうか? それは、2023年4月に発足したこども家庭庁に課せられた大きな役割の一つだろう。


★参考資料
「神戸・6歳男児遺棄逮捕された母親やきょうだいたちも監禁した祖母から“虐待”を受けた過去…『頭にネット包帯を被っていた』『ウチではあの子たちを三度保護しました』…修くん(6)はベランダにだされて『助けて』と」2023年6月23日22時22分配信集英社オンライン
「祖母を数十回監禁か神戸、草むらに6歳の遺体容疑の母ら」朝日新聞2023年6月23日付 
「すべての人が『供述弱者』になりうる冤罪をどう防ぐか」ForbesJAPAN編集部2020年12月29日付
「自宅出産 乳児遺体遺棄 知的障害女性 妊娠明かせず」読売新聞2021年11月23日付
厚生労働省「特集1:0日・0か月児死亡事例について
平成27・28年度研究報告書「嬰児殺に関する研究」社会福祉法人横浜博萌会
こども家庭庁ホームページ


◆関連記事:家族間の事件・貧困と犯罪の問題

2021(令和3)年9月29日の早朝、長野県議会議員の自宅兼経営先事務所内で同県議の妻N氏が遺体で発見された。長野県警は首を絞められた痕跡のある遺体の状況などから殺人事件の疑いで捜査を進めているとの報道がなされた。(参考:長野・塩尻 県議の妻変死 首に絞められたような痕 殺害された疑いで捜査 NHKニュース2021年9月30日付)事件発生から1年以上が過ぎた令和4(2022)年11月29日、現職の長野県議員丸山大輔容疑者が殺人の容疑で逮捕(逮捕は2022年11月28日)の報道がなされた。丸山大輔容疑者は容疑を否認しているという。...
長野県塩尻市の殺人事件と近年の家族間(殺人等)事件の事例 - clairvoyant report
闇バイトとは、組織化された犯罪集団等がSNSに高額報酬を謳う求人募集を掲載し、求人に応じた未成年者を含む若年層の男女が組織的犯罪に加担し報酬を得ることをいう。求人側が募集文句に「タタキ」「受け」「運び」等の犯罪を匂わせる隠語を使うこともあるが、闇バイト求人の大きな特徴は、「100万円の報酬」など常識の範囲を超える高額報酬の提示である。闇バイトに関係する重大事件は、2021年以降、14都道府県で50件以上(参考:「闇バイト」対策強化へ、月内にも省庁横断の閣僚会議…資産情報の流出防止策も検討 読売新聞 2023年3月...
闇バイト「貧困の連鎖」と「族の崩壊」 - clairvoyant report

オススメ記事

事件概要2023年12月26日11時頃、愛知県名古屋市中村区名駅4丁目に所在するカラオケ店「ジャンカラ名駅東口店」内(以下、第一現場)で20代女性が包丁のような刃物で刺され意識不明となり、その後、搬送された病院で心肺停止となる事件が発生した。被害者20歳代女性を攻撃し、自ら緊急通報したといわれる自称・曽我(曾我)春暉容疑者(25歳)は、通報を受け現着した警察官に殺人未遂の容疑で現行犯逮捕された。 さらに逮捕された曽我(曾我)春暉容疑者の関係先居所「愛知県名古屋市中区大須3丁目」のマンションの室内の浴槽(以下、第...
曽我(曾我)春暉容疑者とは?:名古屋市カラオケ店内など殺人事件 - clairvoyant report
2024年2月22日に、米国内で既に逮捕されていた日本の「ヤクザ」とされる人物が核物質を密売しようとした罪で起訴されたことが報道された。この事件は、国際的な安全保障にとって重大な脅威を示すものであり、核物質の不正取引に対する国際社会の警戒を促している。核不拡散と国際安全保障の観点からも、この事件は非常に重要な意味を持っているだろう。また、日本の「ヤクザ」が核物質の密輸に関与したとなれば、日本の「ヤクザ」に対する取締り強化を求める国際世論の声が高まるかもしれない。核物質の密売は、テロリストによる核兵器...
エビサワ・タケシ容疑者の国内での元関連会社は? - clairvoyant report

Jean-Baptiste Roquentin

Jean-Baptiste RoquentinはAlbert Camus(1913年11月7日-1960年1月4日)の名作『転落(La Chute)』(1956年)とJean-Paul Sartre(1905年6月21日-1980年4月15日)の名作『嘔吐(La Nausée)』(1938年)に登場するそれぞれの主人公の名前からです。 Jean-Baptiste には洗礼者ヨハネ、Roquentinには退役軍人の意味があるそうです。 小さな法人の代表。小さなNPO法人の監事。 分析、調査、メディア、社会学、政治思想、文学、歴史、サブカルなど。